【認知症とうつ病の違い】取り違えると悪化する恐れも 見分ける3つのポイントを伝授

【認知症とうつ病の違い】取り違えると悪化する恐れも 見分ける3つのポイントを伝授

認知症とうつ病は、どちらも高齢者に多く見られる病気です。高齢者のうつ病は、認知症を引き起こす原因の一つとされている一方、認知症がうつを併発することも少なくありません。認知症とうつ病の間には密接な関係があり、二つの病気には似た症状を呈する場合もあるので、取り違えやすいのです。【解説】長谷川洋(長谷川診療所院長)


冷蔵庫の中が卵だらけは認知症で、空だとうつ病

認知症とうつ病は、どちらも高齢者に多く見られる病気です。
高齢者のうつ病は、認知症を引き起こす原因の一つとされている一方、認知症がうつを併発することも少なくありません。

認知症とうつ病の間には密接な関係があり、二つの病気には似た症状を呈する場合もあるので、取り違えやすいのです。
認知症とうつ病は、薬の種類も治療法も全く異なります。

この二つを取り違えた診断は、本来の病気を悪化させたり進行させたりする恐れがあります。
そこで、ここでは、この二つの病気の見分け方について、詳しくお話ししましょう。

認知症かうつ病かを見分けるポイントは、三つあります。
❶会話のスピード
❷物忘れの自覚
❸冷蔵庫の中

まず、①について見てみましょう。
認知症のうち、6~7割を占めるアルツハイマー型認知症では、患者さんが質問をうまく取り繕う傾向があります。

例えば、年齢を尋ねると、「年なんか聞いて失礼ですよ」とか、「先生こそ、おいくつ?」などと聞き返すほか、ご家族がいっしょにいる場合、「あれ、いくつになったっけ?」と、ご家族に会話を投げかける「振り返り現象」が起こることもあります。
いずれにせよ、この際の会話の流れやテンポは、非常にスピーディでスムーズです。

一方、うつ病の人は、自分自身の不安や心配に気を取られているため、会話に集中できません。
質問に対して、「わかりません」と答えることが多く、会話のテンポが非常に遅いことが特徴です。

診察の際にご家族がいっしょにいても、質問の答えに助けを求めるようなことは少ないのです。
次の②について、アルツハイマー型認知症になった人の場合、物忘れした事実そのものを忘れてしまうことがあります。物忘れの自覚が乏しいのです。

一方、うつ病の人は、もし物忘れをした場合でも、その自覚はあります。
ただし、物忘れしたことを過度に気にして、自己嫌悪に陥ってしまうことが多く見られます。

③のケースでは、認知症になると、同じ品物を何度も買ってしまうことが多いのです。
ご家族が冷蔵庫の中を確認すると、患者さんがないと思って買い込んできた納豆や卵だらけになっていたりします。

ご本人は気づいていませんが、日常生活では実際に支障が生じていて、ご家族やヘルパーさんの助けが必要である場合も目立ちます。
一方、うつ病の人は、活動性が低下する傾向があります。

買い物に行く気力がないので、冷蔵庫の中は空っぽになってしまいます。
このように、認知症とうつ病の間には、明らかに見分けられる違いが出てくることが多いのです。

アナログ時計を紙に書かせると判別できる

ただし、認知症には、うつ病とよく似た「アパシー」と呼ばれる症状があります。
アパシーになると、一日中ボンヤリと過ごすようになります。

うつ病の場合も、物事に興味をなくし、体を動かす気力が失われてボンヤリすることがあります。
この点が、認知症のアパシーと似ているのです。

しかし、大きな違いがあります。認知症のアパシーの人は、ボンヤリ過ごすことをつらいと感じないことが多く、うつ病の人は、ボンヤリ過ごしてしまったことを、つらくて困ると感じるケースが多いのです。
また、認知症とうつ病を見分ける方法として、「クロックドローイングテスト」をしてみるのも有効です。

これは、まず紙にアナログ時計と、その時計が10時10分を示すように針を書き込んでもらうのです。
認知症になると、空間を認知・構成する能力が低下します。

特に、この症状はアルツハイマー型認知症に多く、時計の数字を12個きちんと振り分けられず、数字が片方に寄ったり、長い針しか書けなかったりします。
一方、うつ病の場合、時計を書くことをおっくうがるかもしれませんが、指示されたとおりに書くことができるでしょう。

このテスト法は有効なのですが、無理にやってもらおうとすると、ご本人のプライドを傷つける恐れもあります。
あまり気乗りしないようであれば、無理強いせずに医療機関で試してもらいましょう。

ここまでお話ししてきたポイントで、認知症かうつ病かの判別ができたら、それぞれの治療を優先させることが原則です。
ただし、時間の経過によって、ご本人の病状が変わってくることがあります。

つまり、認知症だったかたが、うつ病を併発する、またその逆のケースも、時間の経過によって起こりうるのです。
だいたい半年くらいを目安に、患者さんの病状をあらためて検討してみることも必要でしょう。

認知症にしてもうつ病にしても、ふだんの体調をできるだけ整えておくことが重要です。
血圧や血糖値が悪化しないように配慮してください。

体調に問題なく日常生活を送れるということは、認知症とうつ病の両方を進行させない、改善させるための最も大事な条件なのです。

長谷川洋
1970年、東京都出身。1995年、聖マリアンナ医科大学卒業後、同大学神経精神科入局。2003年より同大学東横病院精神科主任医長として勤務。2006年、長谷川診療所を開院、現在に至る。精神保健指定医、日本老年精神医学会専門医、日本精神神経学会専門医。2000年、日本生物学的精神医学会国際学会発表奨励賞を受賞。著書に『よくわかる高齢者の認知症とうつ病』(長谷川和夫氏との共著・中央法規)がある。

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

この健康情報のエディター

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