<症例報告>脊柱管狭窄症の症状を改善する簡単運動「ひざ抱え体操」の効果
脊柱管狭窄症の患者さんは、年々増えており、当院にも多数の患者さんが来院されます。その多くは、他院の治療を受けても改善しなかった、あるいは、医師から、手術しかないといわれたけれど、手術は受けたくない、という重度の患者さんです。
そのような患者さんたちに、私が必ず勧めているのが、ひざを抱えて腰を丸める「ひざ抱え体操」です。
脊柱管狭窄症の患者さんに共通しているのは、悪い姿勢です。患者さんに聞いてみると、若いころから姿勢が悪く、親によく注意されたという人が多いのです。それが何十年と続いた結果、脊柱管が狭くなり、脊柱管狭窄症が起こると考えられます。
脊柱管は、脊髄などの神経が入った、背骨を通る管です。通常、腰を反らすと脊柱管が狭くなり、神経が圧迫されて傷み、お尻から足にかけて痛みやしびれを引き起こします。反対に、前にかがんで腰を丸めると、脊柱管が広がるため、神経の圧迫が軽減し、症状も和らぎます。
ひざ抱え体操は、この原理を利用した体操です。
私の施術と並行して、自宅でひざ抱え体操をやってもらうと、手術を勧められるほど重度の患者さんでも、その多くの症状が改善しています。
●Mさん(55歳・女性)
Mさんは、左の足腰に痛みとしびれがあり、立っているだけで症状が悪化し、洗濯物も干せない状態でした。病院で脊柱管狭窄症と診断され、処方された鎮痛剤を服用しましたが、ほとんど効果はなかったそうです。
そこでMさんに、毎日2度、ひざ抱え体操を行ってもらったところ、1ヵ月半ほどで症状が軽快。立ち続けることが平気になり、洗濯物も楽に干せるようになった、と喜んでいました。
●Tさん(73歳・男性)
腰痛歴の長かったTさんは、右足に痛みとしびれがあり、5分くらいしか続けて歩けませんでした。当院受診の半年前に、脊柱管狭窄症と診断され、消炎鎮痛剤や血流をよくする薬、筋肉の緊張を和らげる薬などを服用していました。しかし、症状はいっこうに改善しなかったそうです。
Tさんは、ひざ抱え体操を始めて2〜3ヵ月で痛みが取れ、しびれも軽くなったので、薬の服用を中止。途中で立ち止まらず、長時間歩行できるほど回復しています。
このように、重度の患者さんでも症状が改善していますから、軽度なら、ひざ抱え体操だけで治るかたもおられます。
「ひざ抱え体操」が脊柱菅狭窄症の症状に効果がある理由
ひざ抱え体操は、あおむけになって、両ひざを胸のほうに引き寄せる体操です。ポイントは、十分に腰を丸めることです。腰を丸めにくい人は、バスタオルを折り畳み、お尻の下に当てると、丸めやすくなります。
あおむけが苦しい人は、横向きでやってもいいでしょう。横向きに寝てひざを引き寄せ、上半身をおなかのほうにかがめます。このかっこうを作ったら、ひざを抱えている手を外してもかまいません。
どちらも、腰を丸めた姿勢を20〜30秒保ち、元の姿勢に戻ります。これを3回くり返します。目安として、これを1日2度くらい行いましょう。
こうして腰を丸めると、狭まっていた脊柱管が広がり、神経への圧迫が取り除かれます。それによって痛みやしびれが軽くなります。また、圧迫が取れると血流がよくなり、酸素や栄養が患部に供給されて、傷んだ神経の回復に役立ちます。
さらに、ひざ抱え体操をくり返すことで、かたくなった腰周辺の筋肉や関節がほぐれ、腰椎(腰の部分の背骨)の可動域も回復します。
この体操は、長く行うほど効果があります。ですから、寝るときも、横向きでひざ抱え体操の姿勢をして、そのまま眠るといいでしょう。朝の起床時に、痛みやしびれが出てつらい人は、起きる前に、布団の中でひざ抱え体操を行うと楽になります。
注意してほしいのは、症状があるときに無理して歩かないことです。よけいに神経が圧迫されて傷つきます。
脊柱管狭窄症の代表的な症状である間欠性跛行は、足腰の痛みやしびれによって、休み休みでないと歩き続けることができないというものです。
この間欠性跛行を起こさないように、痛みやしびれの出る前に歩くのをやめます。例えば、10分歩いて足がしびれる人は、5分歩いたところで休憩し、1分ほど腰を下ろして腰を丸めます。それが症状を悪化させないコツです。
脊柱管狭窄症は、症状に気づいたら早めに整形外科で診察を受け、こうした体操で症状の改善に努めることが大事です。