尿の出が悪かったら【尿道狭窄症】を疑え!治療の現状は?どんな手術がある?

尿の出が悪かったら【尿道狭窄症】を疑え!治療の現状は?どんな手術がある?

尿道狭窄症は、ケガや炎症、手術の後遺症など、さまざまな原因によって尿道に狭くなった箇所ができてしまい排尿しにくくなる病気です。しかし、高い成功率で完治が期待できる「尿道形成術」が医療関係者にすらあまり知られていないのです。【取材】山本太郎(医療ジャーナリスト)、【解説】堀口明男(防衛医科大学校病院泌尿器科学講座講師)


 尿道狭窄症という病気を、ご存じでしょうか。ケガや炎症、手術の後遺症など、さまざまな原因によって尿道に狭くなった箇所ができてしまい、排尿しにくくなる病気です。

 尿道狭窄症は従来、あまり積極的に治療されず、一時しのぎの対症療法が行われてきたことが多いそうです。しかし、患者さんにとっては、くり返し受ける治療の苦痛が大きい上、経済的な負担ものしかかります。

 高い成功率で完治が期待できる「尿道形成術」という治療法がありながら、そのことが医療関係者にもあまり知られていないのが現状だそうです。この治療を積極的に行っている、防衛医科大学校病院の堀口明男先生にお話を伺いました。

――尿道狭窄症とはあまり聞き慣れませんが、どのような病気なのですか?

堀口 文字どおり、膀胱から尿の出口までの、尿の通り道である尿道に狭窄(狭くなること)が起こり、排尿しにくくなる病気です。ほとんどの場合、男性に起こります。男性のほうが女性よりも尿道が長いので、いろいろな影響を受けやすいためです。

 この病気は、そう発症頻度の高いものではありません。以前、埼玉県内の泌尿器科の先生方に「尿道狭窄症の患者さんを年間に何人治療しているか?」とアンケート調査を行ったところ、結果はわずかに平均3・8人。いわば、泌尿器科のニッチ(すき間)の病気です。

 けれど、患者さんはたいへんつらい思いをされています。排尿に不具合があると、日常生活の質を大きく損ねてしまいますし、適切に治療せずにこじらせると、自力での排尿ができなくなったり、尿路感染症を起こしたり、膀胱や腎臓の機能を悪くしたりする可能性のある、決して侮れない病気です。

 それにもかかわらず、尿道狭窄症に対しては一般に、その場しのぎの対症療法しか行われていないのが現状です。これが問題で、治療を続けても治ることはほとんどなく、かえって症状を悪化させるケースが大半なのです。

 ここで強調したいのは「尿道狭窄症には根本的な治療法がある」ということです。一般の人はもちろん、泌尿器科の医師にさえあまり知られていませんが、適切な治療で治ることをぜひ知っていただきたいのです。

――尿道狭窄症はどのようにして起こるのですか?

堀口 まず、外傷が原因となることがあります。よくあるのが、股間(会陰部)を蹴られたとか、柵などをまたごうとして足を滑らせ、股間を強く打ちつけてしまった、といったケースです。

 男性の会陰部は大きな筋肉や骨で守られていない無防備な部位で、強い力が加わると、比較的簡単に尿道がつぶれてしまうのです。交通事故などで骨盤骨折を伴うような大きなケガをしたときも、尿道狭窄症になることがあります。

 炎症性の病気が原因のこともあります。最近の研究から、「硬化性苔癬」という陰部の皮膚病が、尿道狭窄症の原因にもなるとわかってきました。硬化性苔癬は、男性の場合は亀頭部、女性の場合は外陰部の粘膜が白く硬くなる病気です。この病気を放置していると、尿道口から尿道内部に病変が進行し、とてもやっかいな尿道狭窄症に進行することがあります。

 ほかに、先天的な障害である「尿道下裂」(男児の1000人に1人程度の割合で起こるとされる、ペニスや尿道の発達異常)がもとになることや、原因のわからないものもあります。

 そして実は、最も多いのは「他の病気の治療が原因となったもの」です。
 尿道カテーテル(医療用の管)の挿入や経尿道的手術(前立腺肥大症や膀胱ガンの内視鏡手術)、前立腺ガンに対する手術や放射線治療などの合併症として、尿道狭窄症が起こることがあるのです。これらは、尿道狭窄症全体の4割ほどを占めると考えられています。

 カテーテルや内視鏡を挿入すると、どうしても尿道の粘膜が内側から圧迫されます。結果として、炎症や組織の損傷が起こり、それが重度だと尿道狭窄症に陥ってしまうのです。殊に、太い内視鏡を挿入して行う経尿道的手術では、腕のいい医師が行っても、尿道狭窄症はある程度、避けようのない合併症であるといえるでしょう。
 なお、尿道狭窄症であるかどうかは、尿道に造影剤を注入してレントゲン写真を撮影する検査や尿道内視鏡検査、場合によってはMRI(磁気共鳴画像)を用いて診断します。

 近年では、自分で尿道狭窄症を疑い、インターネットで調べて来院される人も増えました。その中には、「子どものころから周囲の人より排尿に時間がかかったが、慣れてしまって放置していた」という人がけっこういます。
 これは、幼少期のケガが原因である場合が多いと考えられます。それまでに大きな病気をしたことがない50歳未満の人で、尿の勢いが弱いようであれば、尿道狭窄症を疑ってみるべきでしょう。

――尿道狭窄症の治療法には、どのようなものがあるのですか?

堀口 治療法は、大きく2種類に分類されます。一つは「尿道形成術」です。かなり手間がかかる難易度の高い手術ですが、高い成功率で尿道狭窄症の根治が期待できる治療法です。

 もう一つは、尿道の内部からアプローチする「経尿道的治療」です。具体的には、金属の棒(尿道ブジー)を尿道に挿入して広げる方法、尿道内視鏡を用いて狭くなった部分をメスで切開して広げる方法(内尿道切開)、金属製の筒を狭くなった場所に埋め込んで広げる方法(尿道ステント)があります。

 これらは、さほど手間のかからない比較的簡単な治療であり、私は「簡便療法」と呼んでいます。海外も含めて、尿道狭窄症には一般に簡便療法が広く行われています。しかし、ズバリ言えば、これらの簡便療法は一時的に症状を緩和する対症療法でしかありません。

 尿道ブジーは外来で頻繁に行われますが、出血や強い痛みを伴う治療です。それにもかかわらず、改善効果は数日か、長くても1ヵ月程度です。苦痛に耐えながら、月に1回くらいの間隔で、くり返し治療を受ける患者さんが多いのです。

 しかも、これらの簡便治療では狭窄してダメージを受けた尿道を無理に広げ、さらにダメージを与えるので、治療を受けるごとに、かえって尿道狭窄症を悪化させてしまうことが少なくありません。
 内尿道切開や尿道ステントも治療の成功率は低く、再治療を要するケースがほとんどです。そして、くり返せばくり返すほど、成功率が下がります。

 私たち防衛医科大学校病院で内尿道切開を行った患者さんの手術成績を調査したところ、5年後に再発していなかった患者さんは初回治療で約30%、2回目で約20%、3回目では0%でした。簡便治療は1回、もしくは2回やってみて治らなければ、それ以上くり返してもまったく意味がないと言えるでしょう。

――尿道形成術はどのように行われるのですか?

堀口 やり方は大きく2通りあり、狭窄の場所と原因で使い分けます(図参照)。一つは、狭窄部位を切除し、残った正常な尿道を再度つなぎ直す方法(尿道狭窄部切除・尿道端々吻合術)です。もう一つは、尿道の代わりになる組織を体のどこかから採取し、それを用いて尿道を作り直す方法(代用組織利用尿道形成術)です。

 代用組織には、ほおの内側や舌の裏側などの口腔粘膜を使うことが多いです。口腔粘膜は尿道の粘膜と性質が似ており、尿道との相性がよいのです。また、口の内側ならば採取後の傷が、外から目立ちません。

性機能は半年ほどで回復

 術後しばらくは口の中に痛みやしびれが残りますが、たいていは数週間で通常の食事を支障なく取れるようになり、半年もたてば傷跡もほとんどわからなくなります。まれに傷跡のひきつれや、しびれなどの後遺症が残る場合がありますが、口が開かなくなるような重い後遺症はまず心配ありません。

 単につなぎ治す方法のほうがシンプルで患者さんの負担も少ないですが、一般に狭窄の箇所が長さ2㎝以内でないとつなぎ合わせられません。また、狭窄している箇所が会陰に近いほう(球部尿道や膜様部尿道)ならよいのですが、ペニスに近いほう(振子部尿道)には適しません。勃起時につなぎ合わせた部位に強い緊張がかかり、裂けてしまう恐れがあるからです。

 狭窄が2㎝以上であったり、ペニスに近いほうだったりする場合は代用組織を利用した形成術を選択します。
 いずれの方法にせよ、尿道狭窄症の「完治」が可能であるというのが、最大のポイントです。ここでいう完治とは「手術後の画像検査で再狭窄が起きていない」「ブジーなどの治療を受けなくても、排尿困難が起こらない」「手術後も排尿の勢いが落ちない」の三つを満たすことを言います。尿道形成術を受けた人の80~90%が完治します。なお、性機能についても、3~6ヵ月程度で回復しますから心配はいりません。

以前と同じように排尿できる

 ここで症例をご紹介します。

 70代の男性Aさんは、60代半ばで尿の出が悪くなり、近隣の病院を受診したところ、前立腺肥大症と診断され、前立腺の摘出手術(経尿道的切除術)を受けました。

 しかし手術後、カテーテルを抜いてからも尿の出はよくならず、日に日に悪化していき、ついに完全に尿が出ない状態に。その後、何年にもわたってブジーや内尿道切開、尿道ステントをくり返し受けるも、排尿困難がよくなることはありませんでした。いつ尿が出なくなるか気が気ではなく、外出もままならない、味気ない日常生活を送っていたそうです。

 そして3年ほど前、留置していた尿道ステントが狭窄したところからずれてしまい、困難の末に取り出すというトラブルがありました。そして、「残る手段は尿道形成術」と主治医から聞き、防衛医科大学校病院を紹介されてきたのです。

 診察すると、簡便療法をくり返すうちにこじらせて、振子部の尿道内腔が、ほぼ完全に閉塞していました。口腔粘膜を利用した尿道形成術が必要でしたが、手術は無事に成功し、現在まで再狭窄も起こっていません。

 Aさんは快適な生活を取り戻すことができ、喜んでいました。陰ながら悩んでいる人に、ぜひ知っていただきたい治療法です。

堀口明男
1994年慶應義塾大学医学部卒業。同大学泌尿器科学教室にて多数の手術経験を積み、米国Weill Cornell Medical College留学を経て、2008年より現職。口腔粘膜を利用した尿道形成術を日本でいち早く取り入れ、数々の難治性尿道狭窄症患者を救済している。著書に『尿道狭窄症 排尿困難の悩みを解消する尿道形成術』(法研)がある。

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

この健康情報のエディター

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