【便移植とは?】個性は細菌がつくる!?人体に影響を与える「マイクロバイオーム」について

【便移植とは?】個性は細菌がつくる!?人体に影響を与える「マイクロバイオーム」について

人体に生息する無数の微生物集団(細菌叢)=マイクロバイオームが人体に多大な影響を及ぼしていることがわかってきました。その一つに消化・吸収があります。また、リンパ球をふやし免疫力を高める働きのほか、炎症をおさえる働きを持つ制御性T細胞を活性化する作用も示唆されています。【解説】岡本 裕(e-クリニック医師 )


人と共生する細菌はペットのように大切にしよう!

マイクロバイオームが大きな影響を及ぼす

 人は、一人ひとり顔も違えば、姿形、性格、健康状態、寿命も異なります。今までは、その違い(個性)を生むのは、約60兆個の細胞のもととなる、遺伝子だと考えられてきました。しかし、遺伝子の数は2万2000個ほどで、そのうち99・9%は、だれもが持つ共通の遺伝子だといいます。

 だとすれば、約70億人いる人間一人ひとりの違いを、人体の遺伝子だけで説明するには無理があります。それ以外にも何か影響を与えているものがあるのではないか──そのような推測は以前からあったものの、具体的に解明されるには至っていませんでした。

 ところが近年になって、ある研究の目覚ましい進歩により、その答えが明確になってきました。それは、人体に生息する無数の微生物集団(細菌叢)=マイクロバイオームの研究です。

 細菌の培養が不可欠だった従来の研究方法から、2003年に、細菌叢からまとめて遺伝子を取り出し、解析する方法が開発されたことで、マイクロバイオームの研究は進歩しました。
 その結果、マイクロバイオームが人体に多大な影響を及ぼしていることがわかってきたのです。

 人の腸内や口腔内、皮膚など全身に生息している常在菌は、およそ1000兆個。その遺伝子の総数は300万以上に及びます。これだけの数の遺伝子と、人間の細胞の遺伝子の組み合わせパターンの膨大さを考えると、人間一人ひとりの違いにも説明がつきそうです。

 しかも、個人の細菌叢は、母親の産道を通って生まれたときから、乳幼児期までにふれるさまざまな人、モノから付着した細菌によって形成されます。ですから、一人ひとりが持つ細菌の種類は、血縁関係であっても全く同じということはありえません。DNA鑑定でも区別できない一卵性双生児でさえ、パソコンのキーボードなどから採取した細菌叢で、識別可能だといわれています。

 つまり、個性とは、私たちの体に棲む細菌が作り出すものといっても過言ではないのです。

便秘だけでなくガンが治る人も多数

マイクロバイオームが人体に与える影響について、わかってきたことを一部紹介しましょう。

 一つは消化・吸収への影響です。人は、ある種の植物由来の炭水化物を消化することはできません。ところが、人間の体内では腸内の細菌がそれらを分解してくれていたのです。おかげで、私たちはその代謝物を栄養素として摂取できているというわけです。

 人体が作ることのできないビタミンB群も、腸内の細菌によって作られることがわかっています。
 さらに、日本人の多くは、ノリやワカメなどの糖類を分解する細菌叢を持っています。私たち日本人が海藻類から栄養やエネルギーを得ることができるのも、細菌の力あってこそといえます。

 そして、マイクロバイオームは免疫系にも大きな影響を与えています。特に、全身の免疫細胞の約60%が存在する腸には、最も多くの細菌が生息しています。これらの細菌が、人の体を健康な状態にコントロールしているのではないかといわれています。

 逆にいえば、細菌叢が乱れ、その機能が低下すると、人は健康が維持できなくなります。

 私が代表理事を務める、e─クリニックでは、主にガンの患者さんを対象に、インターネット上で代替療法(西洋医学に替わるさまざまな治療法)や生活習慣のアドバイスを行っています。
 ガン患者さんたちを見ていると、確かに便秘など、腸の調子が悪い人が多くいます。そこで、生活習慣の改善とともに、腸内細菌のえさになる微生物(プロバイオティクス)を摂取してもらうと、便秘が改善するだけでなく、顔つきや性格まで明るくなります。また、頭痛や腰痛などの不定愁訴、さらにはガンそのものまで治る人が数多くいるのです。

 69〜80歳の男女10名を対象とした試験で、プロバイオティクスを1ヵ月摂取したら、免疫力の指標となる体温やリンパ球数が有意(偶然ではないこと)に上がったという結果も得られています。ここで用いたプロバイオティクスは、乳酸菌・エンザミン(有用微生物植物発酵代謝物)・フラクタミン(納豆菌類)という3種を合わせたサプリメントです。これらの菌は、人体に生息する腸内細菌のえさになったり、細菌の活動を刺激したりするものです。

 前述したように、共生している細菌の種類は人によって違うので、特定の菌を体内に入れても、その人に合うかどうかはわかりません。それよりもえさや刺激となって、その人が持つ腸内細菌自体の活動を高めてあげることが有効なのです。

 マイクロバイオームには、リンパ球をふやし免疫力を高める働きのほか、炎症をおさえる働きを持つ制御性T細胞を活性化する作用も示唆されています。そのため、炎症性の腸疾患の改善にも役立つ可能性が期待できるでしょう。すでに、プロバイオティクスを摂取して、クローン病という難病が改善したという論文も発表されています。

便移植で感染症患者の腸内環境が改善した例も

 マイクロバイオームの恩恵を受け、健康に生活していくために、日常生活でできることもあります。いちばんのお勧めは、腸内細菌のえさとなる発酵食品をとることです。
 キムチや納豆を食べたり、みそ汁を飲んだりするのもいいでしょう。バナナやリンゴ、キノコ、野菜、海藻類などに多く含まれる食物繊維も、腸内細菌のエサになります。

 一方で、カゼをひいたときなどに処方される抗生物質は、病原菌だけでなく、体内の常在菌まで殺してしまうので注意が必要です。同様に、添加物を多く含む加工食品も、できるだけ控えたほうがいいでしょう。疲れやストレスをためず、規則正しい生活をすることも大切です。

 今後、マイクロバイオームの研究がさらに進めば、新たな病気の原因の究明や、治療にも大いに役立つはずです。
 少し汚い話ですが、感染症で腸内細菌叢が乱れた患者の腸に、健康な人の便を注入する「便移植」で、感染症患者の乱れた腸内環境が改善するという効果が確認されているそうです。

 細菌叢を見ることで一人ひとりの状態がわかれば、それに符合する菌を与えて病気を治すなど、オーダーメイド的な治療も可能になるかもしれません。

 いずれにしても、まずは自分自身の体内に存在する細菌叢を乱れさせないことが重要です。ただそこにいるだけでなく、たくさんの恩恵を与えてくれている細菌を、ペットを飼うような感覚で、大切に長生きさせてあげてください。それが、自らも健康で長生きする秘訣なのです。

岡本 裕(e-クリニック医師 )
1957年、大阪府生まれ。e-クリニック医師・医学博士。大阪大学医学部卒業、同大学院卒業。大学病院、市立病院などを勤務後、1995年、阪神淡路大震災をきっかけに「21世紀の医療・医学を考える会」を仲間と立ち上げる。2001年、会を移行した形で、「e-クリニック」をスタート。編書に『免疫を高めるとガンは自然に治る』(マキノ出版)などがある。

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

この健康情報のエディター

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