【内科医】過剰医療は別の苦しみを生む その薬、本当に必要ですか?

【内科医】過剰医療は別の苦しみを生む その薬、本当に必要ですか?

「高血圧は体によくない」たいていの人は、そう考えているのではないでしょうか。しかし、これは必ずしも正しいとは言い切れません。そもそも高血圧は、血圧が高いという状態であって、病気ではないのです。【解説】松本光正(医師)


そもそも「何のために血圧を下げたいのか」を忘れている人が多いのでは?

降圧剤の副作用で認知症、うつ、脳卒中にかかる例もある

「高血圧は体によくない」
 たいていの人は、そう考えているのではないでしょうか。しかし、これは必ずしも正しいとは言い切れません。そもそも高血圧は、血圧が高いという状態であって、病気ではないのです。

 血管には、老化とともに動脈硬化が生じます。動脈硬化によって血管が狭く、もろくなれば、血液はうまく流れません。そのマイナスを補うために、体は血液を送り出す圧力を強くします。加齢に伴う血圧の上昇は、実は自然なことなのです。
 以前は、医学の現場でも「年齢+90」が高血圧の基準と考えられていました。例えば、60歳の人であれば、最大血圧が150㎜Hgであっても問題はないとされていたのです。しかし現代では、年齢も性差も関係なく、みんな同じ基準値で診断されます。これは、少々おかしいのではないでしょうか。

 くり返しますが、加齢によって血圧が上がるのは、血圧を上げないと血液がうまく流れないからです。つまり、体が生きるのに必要だと判断して血圧を上げたのです。その血圧を降圧剤で無理に下げるのは、むしろ体には危険だと私は考えます。
 例えば、降圧剤で血圧を下げたことで、心臓よりも上にある脳に血液が十分に行き渡らなくなれば、認知症やうつ状態を招くかもしれません。

「そうは言っても、高血圧を放っておくと脳卒中になるのでは?」と疑問に思う人もいるでしょう。実は私自身も、以前はそう考えていました。
 しかし実際には、降圧剤をきちんと服用している患者さんでも、脳卒中で倒れる例が少なくなかったのです。この事実に疑問を感じた私は、血圧と脳卒中の関係について考え直してみました。
 脳卒中は、脳の血管が破れたり詰まったりするのが原因で、体のマヒや言語障害が生じる病気の総称です。おおまかに言うと、①脳出血②くも膜下出血③脳梗塞の三つに分類されます。
 このうち高血圧が関与しているのは、脳の小動脈が破れる脳出血です。1950年代には、脳出血は脳卒中の95%を占めていました。
 しかし今では、その割合は18%にすぎません。そして、脳の血管が詰まる脳梗塞が75%にも上っているのです(『脳卒中データバンク2009』)。

降圧剤をやめた人の8割はその後も血圧が上がらず、体調も改善している

 体が血管を詰まらせないために血圧を上げて血流をよくしたのに、降圧剤で血圧を下げてしまうのはどうなのでしょうか。
 東海大学医学部教授の大櫛陽一先生は、自身の論文で「降圧剤を服用している人は、脳梗塞の発症率が2倍になる可能性がある」と述べています。近年はこの大櫛先生のほかにも、降圧剤で無理に血圧を下げることの危険性を提唱する医師が増えてきました。そのなかには、降圧剤でガンの発生リスクが高まるという先生もいます。
 高血圧が、脳出血のリスクを高めるのは事実です。しかし、降圧剤が脳卒中の大部分を占める脳梗塞や、ガン、認知症などを招く可能性もあるのです。

 降圧剤は、副作用も少なくありません。有名な降圧剤「ハイトラシン」の医薬品添付書には、脳梗塞やめまい、不眠、不整脈、食欲不振、頻尿など54種類もの副作用が記されています。
 血圧を気にする人の多くは、数値だけに気をとられ、「何のために血圧を下げたいのか」を忘れている人が多いような気がします。「健康な体で、好きなことを思う存分楽しみたい」これが大部分の人の望みでしょう。その望みをかなえるために、本当に降圧剤は必要なのでしょうか。

 私は、ある程度の年齢であれば、血圧が高くても降圧剤は必要ない。服用中の降圧剤も、本人がやめたいのであれば、すぐにやめて構わないと考えています。実際に私のもとに相談に来て降圧剤の服用を止めた人の8割は、その後も血圧が上がりません。しかも、「頭がすっきりした」「ふらつかなくなった」など、体調の改善を報告してくださる人が多いのです。

 降圧剤は、いつ、どんなタイミングでやめても構いません。ただし、血圧を下げる努力を続けるのが大前提です。
 まずは肥満を改善すること。カロリーを抑えたバランスのよい食事を心掛けましょう。お酒は、ほどほどに楽しむ程度に控えてください。タバコは厳禁です。イライラも、血圧を上げる要因です。朝起きたら、まずニッコリと笑ってみましょう。笑顔を作るだけで心は穏やかになります。高血圧にいちばん必要な薬は、「くすり」と笑うことなのです。

 私は年を重ねるうちに、苦しむだけの長生きは拷問だと感じるようになりました。しかし現代の医学の現場は、大量の医薬品と検査などで過剰医療に陥りがちです。降圧剤の例と同様、その過剰医療で別の苦しみが生まれるのです。その苦しみを避けるためには、60歳を過ぎたら、ひどい苦痛があるときを除いて、医療機関にかかるべきではないと考えています。
 事実、この20年間、私は健康診断も受けていません。病気が早く見つかったとしても、人は死ぬときが来たら死ぬのです。それならば、人生を無駄にせず、生涯現役の姿勢で好きな執筆や講演活動を楽しみたいのです。

松本光正
高校から大学時代にかけて、中村天風氏の最晩年の弟子として薫陶を受ける。以後、天風会の講師として活躍。外来医療をこよなく愛する内科医。著書に『血圧心配症ですよ!まだ「薬」で血圧を下げているあなたへ』(本の泉社)などがある。

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

この健康情報のエディター

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