解説者のプロフィール
乳製品の摂取量は、昭和40年以前よりも約40倍増加
私が専門にしている漢方医学は、なによりも体を治すこと(治療)が優先されます。
「なぜ、治せるのか」という理論は後回しで、治療のための「観察」と「経験」の積み重ねが重要なのです。
そうした観察や経験が、治療実績を生み出します。
漢方医学のおもしろい点は、そうした臨床的な治療が、科学的に効果があると、後になってから証明される場合があることでしょう。
一見、非科学的で、おまじないのように見える治療法が、最先端の医学や科学の理論と符合することが多々あるのです。
さて、こうした漢方医学の観点で考えると、ある食材が、私たちの健康を害している可能性が高いといえます。
その食材は、冷たい「牛乳」です。
日本では、昭和40年ごろから家庭に冷蔵庫が普及し、昭和50年には、ほぼ全家庭に冷蔵庫が置かれるようになりました。
冷蔵庫の普及に伴い、傷みやすい食材の保存も可能となり、日本人の食生活が大きく変わったといえます。
特に変わったのは、牛乳をはじめとした、乳製品の摂取量です。
乳製品の摂取量は、昭和40年以前と比べると、約40倍もふえたといわれています。
こんなに摂取量がふえた食材は、ほかにありません。
こうした食生活の変化とともに、日本人がかかる病気もガラリと変わってきました。
例えば、それまでの日本では「胃ガン」が最も多い病気でしたが、いつの間にか「乳ガン」や「大腸ガン」がふえ、胃ガンはへってきました。
牛乳が胃ガンがへり乳ガンがふえた一因!?
乳ガンは、昔からありましたが、日本人には珍しい病気のひとつでした。
それが、昭和40年ごろを境にふえ、今では、日本人女性の12人に1人が発病するといわれています。
また、アメリカ人では、7〜8人に1人の割合で乳ガンになるとされています。
これらガン疾患だけでなく、「潰瘍性大腸炎(大腸の粘膜に炎症が起こり、ただれやびらん、潰瘍ができる大腸の炎症性疾患)」や「クローン病(小腸や大腸を中心とする消化管に炎症が起こり、びらんや潰瘍ができる慢性疾患)」といった炎症性腸疾患も、昭和40年代以前は、ほとんど見かけませんでした。
ところが、乳ガンや大腸ガンと同様、こうした腸の難病が、昭和40年ごろを境に急増しているのです。
日本人の体やDNAが、突然変わるとは考えられません。
では、何が原因なのでしょうか。
それは、やはり食生活や生活習慣の変化が、大きな影響を及ぼしたと考えられます。
そして、その要因の一つとして、牛乳が挙げられます。
牛乳ではなく、肉が怪しいという見解もあります。
確かに、冷蔵庫の普及と同時期に、肉の関税が下がって、アメリカ産の牛肉が安く手に入るようになりました。
これは、近隣の国を調べると、その実態が見えてきます。
昔から、肉中心の食生活だった韓国や台湾では、炎症性腸疾患などの症例は、ほとんどありませんでした。
ところが、20年ほど前から、牛乳がよく飲まれるようになると、炎症性腸疾患がふえ、日本を後追いするようになっています。
嗜好品や調味料として牛乳は楽しむべし
牛乳に、炎症性腸疾患などの原因がある、とはいい切れません。
しかし私は、可能性の一つとして、影響は及ぼしているのではないかと、考えています。
「君子危うきに近寄らず」ということわざもありますから、冷たい牛乳のガブ飲みは避けたほうがいいでしょう。
そもそも日本人には、牛乳を苦手とする「乳糖不耐性」という体質の人が多数います。
乳糖とは、牛乳に含まれる栄養素の一つです。
乳糖を消化するには、ラクターゼという消化酵素が必要ですが、生まれながら、このラクターゼの産生量が少ない人が、日本人には多いのです。
ちなみに、日本では、成人の約40%は、ラクターゼの働きが低いといわれています。
そのため、牛乳を飲むと、乳糖が小腸できちんと消化されないまま、大腸に運ばれて、腹痛や下痢などを引き起こしてしまいます。
こうしたことからも、冷蔵庫から牛乳を取り出し、冷たいまま、一気に飲むことは控えてください。
牛乳は一度、温めてから、コーヒーや紅茶と同じような嗜好品として、たしなむ程度に飲むようにしましょう。

私が患者さんに食事の指導をするときも、牛乳は調味料の一つとして、シチューやみそ汁などに、適量を加えるよう勧めています。
最後に申し上げたいのは、これらは、決して、酪農家を批判する目的でいっているわけではないことです。
科学的に、証明されたわけではありませんが、「健康の象徴」といわれる牛乳でも、疑わしい点があることは、指摘するべきだと思います。
丁 宗鐡
日本薬科大学学長・百済診療所院長。
横浜市立医学部入学直後より、漢方の大家、石原明に師事。
東京大学医学部助教授、東京女子医大特任教授などを歴任し現職。
本格的な漢方処方から最新の西洋医学を組み合わせた幅広い診療で定評がある。
●百済診療所
http://kampochiryou.com/