解説者のプロフィール
食べすぎで体に負担をかけていることが少なくない
最近は、「この食べ物が体にいい」と聞くと、そればかり食べる人がふえているように思います。
特に現代は、昔と違ってさまざまな食品が簡単に手に入ります。
そのため、食べすぎで体に負担をかけていることが少なくありません。
また、かまなくても簡単に体内に取り込めるものがふえていることも、大きな問題です。
その代表ともいえるのが、牛乳をはじめとする乳製品です。牛乳は、「液体のたんぱく質」です。
味わってよくかまないと、たんぱく質の粒子が腸からそのまま吸収されてしまいます。
通常、私たちは食べ物をよくかむことで唾液や胃液、腸液を出し、それらで解毒しながら消化して、必要な栄養を吸収しています。
ところが、消化が不十分なたんぱく質は、解毒されずに腸から吸収されるため、体にさまざまな問題を引き起こします。
漢方の古典にも、「冷たいものを食べて冷えた胃腸に、たんぱく質の多い食品をよくかまずに入れると、皮膚や粘膜がただれる」と書かれています。
私が専門とする目の病気でいうと、まぶたのかゆみや充血、ただれ、まぶたの腫れや痛みを持つものもらい(麦粒腫や霰粒腫)などには、食生活が大きく関係しています。
まぶたのかゆみやただれ、ものもらいなどを招く!
まぶたには、マイボーム腺という、油性の分泌物の出口があります。
ここから出る分泌物が、目の表面に油膜を作って、乾燥を防いでいます。
脂っこいものや乳製品を多くとると、この分泌物がネバネバして、マイボーム腺が詰まりやすくなり、ものもらいができたり、ただれたりするのです。
また、余分なたんぱく質や脂肪などのエネルギー源は、水晶体(カメラのレンズに相当)の細胞に混濁をきたし、白内障の一因となります。
私の患者さんに、75歳の男性で、牛乳を毎日大量に飲んでいる人がいました。
その人の水晶体はミルク色に白濁していました。
血漿(血液の液体部分)の成分は、ほぼそのまま目の中の水である房水に入っていくのです。
ところが、その人に牛乳を控えてもらったところ、白内障の白濁が軽快してきました。
目薬をへらしても眼圧が上がらなくなった
私は目の治療に漢方薬を使いますが、患者さんに食事指導を行うだけでも、いろいろな症状が改善します。
基本の食事指導は、まず動物性のたんぱく質と乳製品を1週間断ち、温野菜中心の食事にしてもらうことです。
その後、小魚などは1日おきに食べてもらってもかまいませんが、乳製品は控えめにします。
このような食事にすると、過剰な乳製品の摂取などによる体への悪影響がなくなります。
さらに、食物繊維が豊富にとれるため、腸がキレイになります。
江戸時代の人は、「まぶたは胃腸の一部」といっていました。
考えてみれば、腸から目まで、すべての粘膜はつながっています。
腸を健康にすることは、そのまま目の健康となるのです。
実際、まぶたのただれ、ものもらいなどが、目薬でいったんはよくなってもまた再発をくり返すということがあります。
そういう人に食事指導をすると、再発しなくなるケースが多々あります。

ウエストも細くなり、肌もキレイに!
緑内障と診断された60代の女性は、眼圧を下げるための目薬を使うと、目がただれるので、困って私の医院へ来られました。
そこで、食事指導を行ったところ、目がただれなくなりました。
しかも、目薬をへらしても眼圧が上がらなくなったのです。
緑内障は、眼球内を流れる房水が滞って眼圧が高くなり、視神経に異常をきたす病気です。
食事の改善で腸がキレイになり、代謝がよくなったことが眼圧にも影響したようです。
この人はウエストも細くなり、肌もキレイになりました。
腸をキレイにするには、先祖代々引き継いできた、自分の腸内細菌が喜ぶ食事をすることが大切です。
日本人の場合、動物性の乳酸菌を含むヨーグルトではなく、昔から食べてきた、植物性の乳酸菌が豊富なみそやぬか漬けなどの、発酵食品のほうがよいのではないでしょうか。
飲み物も、温かい番茶やほうじ茶がお勧めです。
そもそもたんぱく質である牛乳は、多量に飲むものではありません。
栄養補助食品として、無理なく利用するのがよいでしょう。
半田喜久美
名古屋市立大学医学部卒業。名古屋市東市民病院などを経て、現在、多治見眼科院院長。西洋医学に漢方医学を取り入れ、食事の指導なども行う。著書に『寛永七年間 和歌食物本草 現代語訳-江戸時代に学ぶ食養生』『私の漢方眼科学』(いずれも源草社)など。