肝硬変や肝ガンに進行するのを防げ!
私は、大学附属病院に勤務しています。
先日、中高年の女性が、突然血を吐いたとして、運ばれてきました。
すぐに検査したところ、肝硬変(肝細胞が線維化して肝臓がかたくなった状態)により生じた、食道静脈瘤からの出血とわかりました。
この女性は、20年前から「脂肪肝」と指摘されていました。
脂肪肝とは、肝臓に脂肪が過剰にたまり、肝臓全体の30%以上を脂肪が占めた状態です。
しかし、特に自覚症状はなかったので、放置していたとのこと。
ちなみに、この女性には、飲酒の習慣はありません。
肝臓病というと、お酒の飲みすぎによるアルコール性脂肪肝による肝炎、あるいは、ウイルス感染によるB型肝炎・C型肝炎といったイメージが強いでしょう。
そのため、自分には関係ないと思う人もいますが、決してそんなことはありません。
C型肝炎は近年、著効のある新薬が開発・認可されたため、今後は大きくへっていくことが予想されます。
近年増加しているのが、NASH
一方、近年増加しているのが、NASH=ナッシュと呼ばれる、非アルコール性脂肪肝炎です。
この、お酒によらない脂肪肝により、肝臓が炎症を起こした状態が長期化すると肝臓がかたくなります。
一部はアルコール性の脂肪肝同様、肝硬変、さらには肝ガンへと進行するため、注意が必要です。
ただ、肝臓は修復・再生能力が高く、欠損した機能をカバーすることが可能なため、障害が生じても、よほど状態が悪くならないかぎり自覚症状が現れません。
そのため、「沈黙の臓器」と呼ばれるほどです。
やがて、先述した女性のように突然吐血したり、黄疸の症状が出たりして、異変に気づきます。
しかし、その際には、病状はかなり進行しているのです。
ですから、アルコール性・非アルコール性にかかわらず、まずは脂肪肝にならないように気をつけるのが、重篤な肝臓病を予防するカギといえます。
肝臓の役割とは
肝臓の役割は重要かつ多岐にわたります。
大きく分けると、次の四つです。
❶ 合成・代謝=栄養素を体が吸収できる形に変化させる
❷ 貯蔵=使うときに取り出せるよう、エネルギーを蓄える
❸ 分解・解毒=体内の老廃物や有害な物質を無害化する
❹ 胆汁の生成=消化・吸収に必要な胆汁をつくる
いったん肝硬変や肝ガンになると、肝臓を全く元どおりの状態に戻すことは、残念ながらできません。
けれども、脂肪肝の段階であれば、肝機能の修復は、じゅうぶん可能です。
その改善策の2本柱は、「食事の改善」と、「運動」です。
「脂肪肝」というと、こってりした油分の多いものを控えればよいと考えられがちです。
しかし、役割の①で述べたとおり、栄養は肝臓で、体に吸収されやすい形に変化するため、気をつけるべきは脂肪だけとは限りません。
脂肪肝の人は、まずは「食べすぎ」を改めるのが大前提です。
そのうえで、食事の内容に気をつけてほしいのですが、意外な落とし穴が、「健康によい」とされる果物。
果糖は吸収されると、中性脂肪となって肝臓に蓄積されます。
私は、食べるなら最小限の量にするよう勧めています。
果糖が含まれた清涼飲料水は避けましょう。
血流がよくなり代謝の活性化を助ける
また、②で述べたとおり、肝臓は、エネルギーの貯蔵庫でもあります。
エネルギーをため込む組織として一般的に知られているのは皮下脂肪ですが、これは定期預金のようなもの。
急に必要になったとき、すぐに引き出すことができません。
対して、肝臓の脂肪は、いわば一時的な当座預金。
食事と食事の間に、脳や筋肉にエネルギーが足りなくなったとき、速やかに供出されるのです。
ところが、運動不足が続くと、脂肪は使われないまま、たまるばかり。
変性した古い脂肪が長年積み重なることで、肝臓の組織に炎症が起こります。
こうしたわけで、食べる量を控え、積極的に運動すること、つまりはダイエットが脂肪肝の撃退に有効なのです。
脂肪肝を改善する目安としては、体重の5%の減量が有効とされています。
70㎏の人なら3・5㎏やせればよいのです。
これなら少しの努力で、可能ではないでしょうか。
肝臓の負担をへらすという観点から、肝臓を温めることも、脂肪肝の予防・改善の一助になります。
蒸しタオルを、肝臓の辺り(下の写真参照)に、10分ほど当てるといいでしょう。
くれぐれも、ヤケドに注意して行ってください。
解説者のプロフィール

中島淳
横浜市立大学大学院医学研究科 肝胆膵消化器病学教室主任教授・診療部長
肝臓は血液が集まる組織ですから、温めてそこの血流をよくすることは、酵素による代謝や分解作用を活性化させる、手助けになると考えられます。
なお、脂肪肝を指摘され、それを長い間放置している人は、その脂肪肝が脂肪肝炎に進行していないか、検査することをお勧めします。
今は以前と異なり、簡便な超音波検査など、負荷の少ない方法で肝臓の硬化度を調べることができます。
ぜひ一度、肝臓専門医のいる病院で相談してみてください。