解説者のプロフィール
腸内フローラを変えればアレルギーはよくなる
アレルギーと腸内細菌の関係がテレビで話題になっているようですが、私も長年この関係に注目し、研究を続けてきました。
アレルギーは、免疫反応の一種です。本来、免疫は外敵となる異物(病原体)を攻撃・排除する体のしくみです。しかし、アレルギーの場合、人体にとって無害な物質(食物、花粉など)を敵と見なし、攻撃・排除しようと、体内の粘膜で炎症を起こしてしまうのです。
西洋医学は、体に現れる一つの症状を薬で抑えたり、手術で取り除いたりすることは得意です。一方で、アレルギーのように、全身にかかわる疾患を根本的に治すことは苦手です。
アレルゲン(原因物質)を排除したり、ステロイド薬を処方したりすることで、当座の症状は抑えることができるかもしれません。しかしそれは、あくまでも対症療法に過ぎません。
だから、アトピー性皮膚炎でステロイド薬を使い続けると、だんだんと効かなくなり、さらに強い薬を使わざるを得なくなるのです。
では、アレルギーを引き起こす根本原因とはなんでしょう。
その大元は腸にあると、私は考えています。腸は、人体最大の免疫器官です。その腸の働きが低下すれば、免疫システムが正しく機能しなくなります。
腸の免疫機構に深くかかわるのが腸内細菌です。人の腸には、3万種以上、100兆個以上もの腸内細菌が存在します。それは、お花畑(フローラ)のように美しいので「腸内フローラ」と呼ばれています。この腸内フローラを変えれば、アレルギーはよくなるのです。
血液中から生きた腸内細菌が見つかった!

腸内にデブ菌が増えると腸もれを引き起こす
腸内細菌の研究が進展し、さまざまな新しい事実が判明しています。腸内細菌には、乳酸菌などの善玉菌と、悪玉菌、どちらにも属さない日和見菌がいます。ここで重要なのが日和見菌の役割です。
腸内細菌は、およそ1割が善玉菌、1割が悪玉菌で、残りの8割が日和見菌になります。日和見菌が善玉菌に味方すれば、健全な腸内フローラができますが、悪玉菌に味方すると、腸内フローラは悪化します。
日和見菌を大別すると、「フィルミクテス門」と、「バクテロイデス門」に分けられます。「フィルミクテス門」の一部は宿主を太らせる性質がある腸内細菌です。私は「デブ菌」と呼んでいます。「バクテロイデス門」の一部は太りにくい体質をつくります。そこでこちらは「ヤセ菌」です。
デブ菌とヤセ菌は、互いに拮抗しながら腸内に存在しています。デブ菌が増えればヤセ菌が減り、反対に、ヤセ菌が増えればデブ菌が減ります。
デブ菌が増えると、宿主であるその人は太りやすくなり、かつ、腸内フローラは悪玉菌優位に傾きます。この腸内フローラの悪化が、免疫機能にも大きな影響を与えるのです。
腸管の粘膜にはバリア機能があって、病原菌やウイルスの侵入を防御しています。腸内フローラは、この腸粘膜の防御機能の一つとして働いています。ところが、デブ菌が増えて悪玉菌が優勢になると、腸内フローラのバランスがくずれ、防御機能が低下し腸粘膜が傷つきやすくなります。
加えて、ふだんの食事で、食品添加物や保存料を多く含んだ加工食品をとっていると、それが腸管に対する攻撃因子となります。含まれる乳化剤や㏗調整剤なども腸の粘膜を傷つけるのです。
こうした攻撃が重なった結果、起こるのが「腸もれ(リーキーガット症候群」です。腸粘膜のバリア機能が弱まり、腸管に穴が開くのです。穴といっても、人の目に見えるような穴ではなく、細胞レベルの話です。
通常、たんぱく質は分解されて、より小さなペプチドという単位になって腸から吸収されます。しかし、腸もれが起こると、ペプチドに分解される前のたんぱく質がそのまま、腸の穴から吸収されてしまいます。その物質は人体にとっては明らかに異物です。その異物を排除しようとして、アレルギー反応が生じます。これこそがアレルギーの真の原因なのです。
しかも、腸もれが起こると、アレルギーが引き起こされるだけではありません。2014年、衝撃的な報告がありました。順天堂大学とヤクルト中央研究所の研究で、健康な人50人のなかの2人の血液から、生きた腸内細菌が見つかりました。
この事実は、腸もれの証拠といってもいいものです。腸に穴が開いた結果、腸壁を守るべき腸内細菌が腸から吸収され、血管内に入り込んでいるのです。
血管内に入り込んだ腸内細菌は、体の慢性炎症の原因物質となっています。こうして起こった慢性炎症が、糖尿病やガン、脳卒中など、さまざまな症状や疾患を引き起こすのです。
そこで、アレルギーを予防・改善するためには、まず腸内環境を整え、腸もれを防ぐ必要があります。
藤田紘一郎
東京大学医学系大学院修了。東京医科歯科大学教授を経て、現在、同大学名誉教授。2000年、ヒトATLウイルス伝染などの研究で日本文化振興会・社会文化功労賞、国際文化栄誉賞を受賞。著書に『隠れ病は「腸もれ」を疑え!』(ワニブックス)など多数。