解説者のプロフィール

平田雅人
福岡歯科大学口腔歯学部客員教授・歯学博士。
1976年九州大学歯学部歯学科卒業。
その後教授を経て、九州大学大学院歯学研究院長。
2014年10月、骨で作られるたんぱく質である「オステオカルシン」を経口投与することで血糖値が下がり、全身代謝が活性化することを発見した。
17年4月より現職。
著書に、『1日1分「かかと落とし」健康法』(カンゼン)がある。
●福岡歯科大学
http://www.fdcnet.ac.jp/col/
血液中に溶け出た微量の骨ホルモンの作用が判明
骨の役割というと、読者の皆さんはどんなイメージをお持ちでしょうか。
骨はこれまで、骨髄による造血作用は備えつつも、体を維持して運動を支え、内臓を保護する、かたくて無機質な臓器であると考えられてきました。
しかし近年の研究により、骨からはホルモンや生理活性物質が分泌されていることがわかってきました。実は骨は、内分泌臓器でもあったのです。
骨の分泌物のなかでも、注目を浴びているのは、オステオカルシンという物質です。テレビでは「骨ホルモン」と呼ばれ、さかんに話題となっています。それというのも、この物質に多くの優れた作用があることが判明しつつあるからです。
では、骨ホルモンとは、いったいどんなものなのでしょうか。
骨の主成分は、リン酸カルシウムの一種で、これが全体の7割を占めます。残りの約2割はたんぱく質、約1割は水です。
骨ホルモンは、このたんぱく質のうちの、ほんの一部。骨全体に対して、0・4%の割合で存在しています。
骨は、かたくて丈夫なので、一度できたらそれっきりと思われがちです。しかし実は、絶えず新陳代謝をくり返しています。
骨を再構築するときに、細胞からたんぱく質が分泌されるのですが、このたんぱく質に骨ホルモンが含まれているのです。
骨ホルモンの大部分は、新たな骨の材料になり、骨にならなかった一部が、血液中に溶け出します。その量は、骨全体の0・4%の、さらに100万分の1と、ごくごくわずかです。
しかし、この血液中の微量の骨ホルモンこそが、全身の臓器を活性化し、多くのすばらしい作用を生み出すのです。
膵臓の働きをよくしてインスリン分泌を促進
では、骨ホルモンには、具体的にどのような作用が期待できるのでしょうか。
とりわけ優れているのは、糖尿病の改善効果です。2007年に骨ホルモンを発見した、コロンビア大学のジェラルド・カーセンティ教授は、糖尿病のマウスに骨ホルモンを注射する実験を行いました。血糖値を下げるホルモンであるインスリンは、膵臓から分泌されますが、その変化を観察したのです。
結果、骨ホルモンの作用で、膵臓の働きがよくなり、インスリンの分泌も促進されたことが判明しました。
加えて、骨ホルモンの分泌量が少ない人は、過去1~2ヵ月の血糖状態を示す指標であるヘモグロビンA1cの値が高い傾向にある、という研究結果も出ています。
骨ホルモンが糖代謝を高めるという作用については、2013年に私が参加した実験でも、同様の結果を得ました。骨ホルモンをマウスに与えたところ、膵臓でインスリンを作っている細胞が増大し、インスリンの分泌量が増えたことが確認できたのです。
さらに、同じ実験を高脂肪・高炭水化物のエサで飼育した、マウスで行いました。すると、糖の代謝能力が上がったことに加え、内臓の脂肪細胞が小さくなったのがわかりました。
また別の研究では、骨ホルモンは肝機能を向上させて、糖質や脂肪の代謝を高めることに役立つと考察されています。これらの結果から、骨ホルモンは、メタボ予防や肥満の改善にも有効といえるでしょう。
骨ホルモンに期待できる作用は、まだまだあります。
血中の骨ホルモンが脳に働きかけると、神経細胞の動きが活性化され、それにより記憶力や認知機能が改善されるという研究があります。
ほかにも、一酸化窒素の産生を助け動脈硬化を防ぐ、活性酸素を減らしてアンチエイジングに役立つ、ガン細胞を攻撃する免疫力の増強といったことが、実験で明らかになっています。
また、たんぱく質の合成能力を高め筋肉量を増やす、男性ホルモンを活性化させ生殖能力を高める、「長寿ホルモン」と呼ばれるアディポネクチンの分泌を促進するといった作用がある、という報告もあります。
このように多岐にわたる効能を持つ骨ホルモンを、体内で増やすには、どうすればよいのでしょうか。お勧めの方法があります。それが、「かかと落とし」運動です。なぜ、かかと落としが骨ホルモンを増やすのか、次回、詳しく説明しましょう。
骨ホルモンの健康効果

次の記事では、骨ホルモンを増やす「かかと落とし」のやり方と効果についてご紹介しましょう。