解説者のプロフィール
生体の流れを調節する手のスイッチを押すだけ
どこに行っても治らない、原因不明の痛みやしびれに悩まされている患者さんが、当院にはおおぜい来られます。
そういう患者さんに私が行うのが、「遠絡療法」という治療法です。
遠絡療法は、西洋医学と東洋医学を融合し、発展させた新しい療法で、医師の故・柯尚志先生が考案されたものです。
一見、東洋医学の経絡(一種の生命エネルギーである気の通り道)を使った治療に似ていますが、治療の考え方や方法は大きく異なります。
遠絡療法が重視しているのは、体の中を流れている「生体の流れ(ライフフロー)」です。
人間の体の中には、血液、リンパ液、ホルモン、髄液などの体液の流れや、神経の流れがあります。
これらの流れが全身を滞りなく循環することによって、体の各所は活性化され、健康な状態が維持されます。
ところが、この流れが阻害されたり滞ったりすると、ちょうど川の流れがせき止められるように、大事なものが体のすみずみに運ばれなくなり、病気や痛みなどが引き起こされるようになるのです。
遠絡療法は、この滞った生体の流れを正常に戻すことによって、痛みやしびれなどの症状を改善します。
さらには、病気の回復も促します。
東洋医学では、体の中に経絡という気の通り道が張り巡らされており、その経絡上にあるツボを刺激して体の機能を調節します。
遠絡療法は、この経絡をベースにした「ライン」上の治療ポイントを刺激して、生体の流れを調整します。
ラインは、左右の手足に12本ずつの24本と、体の中央に2本、合計26本通っています。
手の指には、手足の12本のラインを刺激するスイッチがあります。
今回は、遠絡療法の一つで、この手の指にある12本のラインを利用した、「指の2点押し」をご紹介しましょう。
指の腹(指の内側のふくらみ)にある二つのスイッチを押すだけという、誰にでも簡単にできる治療法です。
しかし、その効果は優れたものがあります。
頭痛や顔の痛み(三叉神経痛、顔面けいれん)、足の裏の痛みやしびれなどが、即座に改善したと、患者さんにも大変好評なのです。
頭部、陰部、手足の指先や足の裏の血流がよくなる
手のひらを上にしてください。
指の腹は、関節によって三つの部分に分かれています。
人差し指から小指までの4本の指を合わせると、指の腹は全部で12ヵ所あります。
この12の指の腹は、それぞれ、手足にある12のラインにつながっています。
手の指が対応する部位は、頭部、陰部、手足の指や足の裏です。
指の腹の治療ポイントを押すと、それらの部位の血流がよくなり、痛みやしびれ、冷えなどの症状がたちまち改善するのです。
脳の血流もよくなるので、脳卒中や認知症にもよい影響を及ぼします。
これらの治療には、ほかの遠絡治療も必要ですが、指の2点押しだけでも予防・改善効果は期待できます。
指の2点押しで、頭痛が改善した例をご紹介しましょう。
Aさん(63歳・女性)は、パソコンなどで根を詰めると、右目の奥から頭全体にかけて、鈍痛がよく起こりました。
目や首の血流を促す漢方薬を処方してもらい飲んでいましたが、あまり効果はなかったそうです。
当院では、Aさんに遠絡療法を行うとともに、頭痛に効く指の2点押しを教え、自宅でもやってもらうことにしました。
Aさんは、指の2点押しを自宅以外でも、バスの移動中などに行ったそうです。
その結果、頭痛が起こることが減り、漢方薬も不要になりました。
以前より体が軽くなり、体調もよくなったそうです。
指の2点押しの具体的なやり方は下記をご覧ください。
頭痛、片頭痛、足指や足の裏の痛み(しびれ)、顎関節症に効く方法を紹介しています。
頭痛と片頭痛を分けたのは、痛む場所で指の押す場所が異なるからです。
頭の中央部付近や全体が痛む場合は頭痛のやり方で、頭の片側(側面)がズキズキ痛む場合は、片頭痛のやり方が有効です。
わかりにくい場合は、両方行ってもかまいません。
歩行が困難な足指や足の裏の痛みやしびれ、あごが痛くて食事もままならない顎関節症にもよく効くので、ぜひ試してください。
指の押し方
治療点となる指の腹に、反対側の親指の先を当て、まずまっすぐにグーッと深く押してから、指先に向けて1~2分強く押します。
もう一つの治療点も同じ要領で押してください。
生体の流れは、肩から指先に向かって流れています。
その流れに沿って刺激することで、停滞した流れを回復します。
親指を立てて強く押しますから、皮膚が傷つかないように、爪は短く切っておいてください。
かわりに、はしを使ってもけっこうですが、とがったはし先ではなく、丸い頭の部分で押しましょう。
指の2点押しは、1日に3回を目安に行ってください。
痛みがひどい場合は、それ以上行ってもかまいません。
指の2点押しのやり方

小泉 正弘
1949年、台湾生まれ。台北医学大学薬学部卒業。78年、長崎大学医学部卒業後、長崎大学熱帯医学研究所内科を経て、東京女子医科大学母子医療センター助教。元・北京中医薬大学客員教授。2009年、遠絡療法の創始者、柯尚志医師に出会い、遠絡療法の優れた効果に驚愕。以後、遠絡療法を学び、普及に努める。15年より小泉医院遠絡医療センター院長に就任。
●小泉医院遠絡医療センター
http://koizumi-enrac.webmedipr.jp/index.html