小麦の過度な精製が糖尿病を引き起こす!
欧米では、小麦粉を使った食品をとらない食事法(グルテンフリー)が広く取り入れられています。小麦が健康を害する可能性があるからです。元アメリカ大統領のビル・クリントン氏は、心臓のパイバス手術後、グルテンフリーを実践しているそうです。
グルテンとは、小麦粉などの穀類を練る過程で生まれるたんぱく質です。これが、グルテン不耐症やアレルギー、小腸に炎症を招くセリアック病などを引き起こす物質として、問題になっているのです。
私は、小麦の害が日本でも話題になる前から、小麦粉を使った食品を控えるようにしてきました。海外の臨床研究に基づいた論文を読んで、「現代の精製された小麦粉」は体によくないのではないかと、なんとなく考えるようになったのです。
小麦が品種改良を重ねてきたことと、精製され過ぎていることなどが、その理由です。
小麦は、紀元前5000年以上前から栽培されている、人類最古の作物です。現代に至る長い歴史のなかで、何度も品種改良を重ね、病気に強く、栽培しやすい小麦ができました。我々はそれによって大きな恩恵を受けましたが、一方で、遺伝子組み換えこそしていないものの、人間の体が想定していない品種に変化した可能性があります。
その結果、小麦アレルギーが増えたと思われます。本来の古代種でもアレルギーを起こした人はいたでしょう。人の体質が変わったことも影響しているかもしれません。しかし現代の小麦は、少なくとも野生種とは異なり、不自然な作物となった可能性があるのです。
また、小麦を扱いやすく、加工しやすいように精製した物が小麦粉です。しかし穀類は、精製され過ぎると、極論ですが砂糖に近づきます。欧米の調査では、パンを全粒粉(精白されていない小麦を挽いたもの)に変えるだけで糖尿病の発症が抑えられることがわかっています(注1)。糖質の量ではなく、過度の精製が糖尿病を招いているのです。
私は、「より自然の生物に近い物を食べる」ことが健康につながると思っています。現代の小麦や精製された小麦粉は、生物である小麦から大きく変化しており、それが現代病の一部に影響していると考えられます。
※海外の臨床研究に基づいた論文:BMJ2016;333:i2716
朝のパンを野菜にすればグルテン摂取量が大幅減
私がパンや麺類などの小麦粉食品を控えるようになったのは、15年ほど前、医師免許を取得したばかりのころでした。コンビニでおにぎりとパンがあれば、迷うことなくおにぎりを選びました。粉食より粒食のほうが、自然の食品に近いと考えたからです。
当時の私は、典型的な成人型のアトピー性皮膚炎で、おでこや首、背中などがいつも地図状に赤く腫れ、強いかゆみがありました。皮膚科で処方されたステロイド軟膏は驚くほどよく効いて、塗るとすぐに治まります。しかし、すぐにまた悪化するため1日も薬は手放せませんでした。それに加え、顔にはニキビがよくできていました。
ところが小麦粉食品を控えるようになって、いつの間にか薬を使わなくなりました。1〜2年は薬を使いましたが、徐々にアトピーの症状が治まり、数年後には、ほとんど不要になったのです。また、ニキビも全くできなくなりました。
ステロイドの塗布薬は今でも自宅に置いてありますが、使うことはめったにありません。難治といわれるアトピーが、ほぼ完治するとは思いもしませんでした。もちろん、小麦粉食品の影響だけではないかもしれませんが、小麦粉食品を控えたことと、症状の改善は、明らかに相関していると実感しています。
私は今もパンなどの小麦粉食品を極力控えていますが、全く食べないわけではありません。家族や友人と、ピザやパスタを食べに行くこともあります。しかし、特別な症状は出ないので、小麦アレルギーやグルテン不耐症ではないのでしょう。
私が日常の食生活で、必ず行っているのは、朝食に野菜をたっぷりとることです。ホウレンソウやブロッコリー、モヤシは前の晩にゆでておきます。これに生野菜を加え、上からナッツ類を振りかけます。さらに、ドレッシングを工夫すると、飽きずにとり続けることができます。

稲島先生の朝食は野菜たっぷり
グルテン不耐症の人には(便秘、下痢、膨満感、腹痛、不眠、倦怠感、皮膚疾患、うつ)などの不調が起こる可能性がある
朝食にパンとコーヒーを習慣にしている人は多いと思います。そのパンをたくさんの野菜に替えれば、それだけでだいぶグルテン摂取量を減らせます。
アメリカでは、約20人に1人、グルテン不耐症がいるそうです。不耐症の人はグルテンを消化吸収できないので、まず腸の症状(便秘、下痢、膨満感、腹痛など)が現れます。それ以外にも、不眠、倦怠感、皮膚疾患、うつなど、さまざまな不調が起こってきます。
日本人のほぼ100%が乳糖不耐症といわれています。グルテン不耐症の人がどのくらいいるのかわかりませんが、相当数いることは間違いありません。
もし、なんらかの不調があるようなら、一度小麦粉食品をやめることをお勧めします。2週間、パンやうどんなどをやめて体調がよくなったら、グルテン不耐症や小麦アレルギーが疑われます。そのときは、医師と相談しながら、グルテンフリーをできる範囲で続けてください。
アトピーが改善した稲島先生