薬の飲み過ぎで胃腸が不調になり不安に陥る
更年期障害は、女性ホルモンが減ってくる、閉経前後の女性の体に現れる不調です。
のぼせ、ほてり、手足の冷え、動悸、肩こり、頭痛、めまい、血圧の変動、不安感、不眠など、多岐にわたる症状が複合的に出ることが特徴です。
多彩な症状は、卵巣から分泌される女性ホルモンが減ることで、卵巣に指令を出す脳の中枢が混乱し、それが自律神経にも影響するために出てきます。
自律神経は、体温、発汗、脈拍、血圧などの働きを調節しているので、全身にさまざまな症状が現れるのです。
しかし、現代の医療は臓器別に細分化されているため、多彩な症状があっても、それらを総合的に診ることはあまりしません。
一つひとつの症状を別々にとらえ、血圧が高ければ降圧剤、動悸には脈を抑える薬、不安感には精神安定剤、眠れないなら睡眠薬、頭痛や肩こりには鎮痛剤……といったぐあいに、症状の数だけ薬を処方していきます。
その結果、薬の飲み過ぎで胃腸の調子が悪くなり、不安に陥ることも少なくありません。
症状を抑える薬を複数飲んでも、根本的な問題は解決されていないので、不調も改善されないままです。
あげくの果て、医師から「神経質なんじゃないか」と心ないことをいわれ、涙ながらに私の漢方クリニックに来る女性もいます。
婦人科では、更年期女性に、少量の女性ホルモンを飲み薬や貼り薬で使う、ホルモン補充療法が主に行われています。
更年期の代表的な症状であるホットフラッシュにはよく効きますが、不安やうつ症状など、精神的な症状には効果が現れない場合があります。
また、乳ガンの発生率が高まるという報告や、子宮筋腫や子宮内膜症が悪化することもあります。
いきなりホルモン補充をやめると、のぼせやほてりなどの症状がぶり返すこともあり、慎重な使い方が必要です。
更年期女性の多彩な症状の治療を得意とするのが、私が専門とする漢方薬です。
漢方では、その人の体・心・環境を総合的に考え、根本原因となっているバランスのくずれを整えていきます。
そのため、西洋薬の治療とは対照的に、少ない種類の薬で、多くの症状を改善することができるのです。
また、漢方薬は身近な自然の生薬を配合したものです。
副作用が少ないので、抵抗なく受け入れることができます。
もちろん、事前にほかの病気がないかどうかを確認しておくことは重要です。
そのうえで、症状が更年期によるものであれば、漢方薬を使うことで、飲んでいる複数の西洋薬を減らすことも可能です。
漢方薬がよく効いて西洋薬の断薬に成功!

漢方薬で更年期の症状が改善し、西洋薬をやめることができた例をご紹介しましょう。
Aさんは、閉経した54歳ごろから、いろいろな体の不調を感じるようになりました。
循環器科では高血圧と診断され、降圧剤のニューロタン(一般名=ロサルタンカリウム)、頻脈を抑えるインデラル(一般名=プロプラノロール塩酸塩)、狭心症の治療薬のシグマート(一般名=ニコランジル)、抗不安薬のデパス(一般名=エチゾラム)を処方されましたが、1年経っても症状はよくなりません。
56歳で当院に来られたときは、髪はボサボサ、化粧もせず、寝間着姿でした。
目はうつろで、立ちくらみ、頭痛、のぼせ、動悸、肩こり、不安感を訴えていました。
そこで、更年期の症状によく効く「女神散」という漢方薬を処方し、ほかの薬を少しずつ減量しました。
2週間後に来たAさんは、別人のようでした。
きちんと身なりを整えて、笑顔で現れ、症状がすべて改善したというのです。
けっきょく、西洋薬は4剤ともやめることができました。
このように、漢方薬はその人にぴったり合えば、素早く効きます。
漢方薬を処方する医療機関は多数ありますが、できれば漢方専門医がいる病院を選ぶことをお勧めします。
また、漢方薬とホルモン補充療法は併用することもでき、自分に合った治療法を選ぶことが大切です。
なお、更年期の症状に対して自分でできる対策は、食生活を工夫することです。
更年期女性の多くは、体が冷えています。
顔はのぼせているのに、足は冷えていることが多く、「冷えのぼせ」の状態になっています。
ですから、体を冷やす食べ物は避け、体を温める食べ物を意識してとるようにしましょう(上の図参照)。
涼性・寒性の物を食べる場合は、火を加えると、体を冷やす作用は弱まります。
また、温性に分類されるショウガも、生をすりおろして食べるより、一度蒸して天日に干した物(下の図参照)を食べたほうが、体を温める作用がより強まります。

高橋 浩子
ひろこ漢方内科クリニック院長
●ひろこ漢方内科クリニック
http://hiroko-kampo.com/index.html