快腸でんぷんが便秘を解消し腸内環境を改善
現在、日本人の死因の第1位は悪性新生物、いわゆるガンです。
なかでも、大腸ガンによる死亡者が増えています。
国立がん研究センターのガン統計予測によると、2014年のガンの死亡者のうち、大腸ガンによる死亡者数は、女性は1位、男性では3位。
その数は、50年前に比べると、女性は7倍、男性は9倍です。
これほど大腸ガンにかかる人が増えた原因として、食生活が欧米化して炭水化物の摂取量が減ったことが挙げられます。
特に最近は、「糖質制限」が一種のブームになっており、その影響も少なくないでしょう。
糖質を制限すれば、ダイエットできる→糖質をとると太る→糖質は体によくない、というイメージが定着しているようです。
しかし、炭水化物は決して悪者などではありません。
むしろ、私たちが生きて活動するために、決して欠かすことのできない大切なエネルギー源なのです。
糖尿病の患者さんや過度に肥満している人であればともかく、ごく健康的な人が無理な糖質制限ダイエットを行い、長期間にわたって炭水化物の摂取を減らすことは、健康を害する危険があります。
この項では、いかに炭水化物が重要であるかを皆さんに知っていただきたいと思います。
そのなかでも、でんぷんの一種である、「レジスタントスターチ」をご紹介しましょう。
これは、腸を健康にする非常に優れた働きがあり、私は「快腸でんぷん」と呼んでいます。
快腸でんぷんには、多くの健康効果があるので、テレビでも取り上げられるなど、大いに注目が集まっています。
まずは、その健康効果のうち4点を取り上げてみましょう。
(1)便秘の解消
(2)腸内環境の改善
(3)大腸ガンの予防
(4)ダイエット効果
まず、(1)の便秘解消は、食物繊維の働きによるものです。
食物繊維には、水に溶けない不溶性食物繊維と、水に溶ける水溶性食物繊維があります。
不溶性食物繊維は、便のカサを増やし、腸壁を刺激して腸のぜん動運動(便を送り出す動き)を促して排便を進めます。
一方、水溶性食物繊維は、便を軟らかくします。
快腸でんぷんは、この不溶性・水溶性両方の食物繊維の特性を併せ持っています。
快腸でんぷんを摂取すると、便のかさが増すと同時に、水分を含んで便が軟らかくなり、便通がよくなるのです。
(2)については、快腸でんぷんが大腸に届くと、それが善玉菌のエサとなって腸内環境が改善します。
便通が促されて便秘が解消し、肌荒れを防ぐことにもつながるでしょう。
次に、(3)の大腸ガンの予防についてです。
善玉菌のエサとなった快腸でんぷんは、大腸で発酵してn-酪酸などの短鎖脂肪酸が作られます。
このn-酪酸は、大腸ガンの予防に大きな働きをすることがわかっているのです。
また、n-酪酸は、ガン抑制遺伝子の働きを活性化してガンの発症を抑えたり、ガン化した細胞を除去したりします。
さらに、(4)のダイエット効果に関しては、インスリンの分泌を抑えることで、脂肪の蓄積を抑制して効果を発揮します。
冷えたおにぎりやあんこの和菓子がいい!
さて、ここまで快腸でんぷんがいかに役立つかをお話ししてきました。
では、上手に摂取するために、次に挙げる二つの特性を理解してください。
(1)快腸でんぷんは、食材を加熱してから冷やすと、その量が倍増する。
(2)できるだけ快腸でんぷんを多く摂取できるようにメニューを置き換える。
データのある快腸でんぷんの含有量からいうと、お勧めの食材はアズキ、食パン(全粒粉のほうが好適)、パスタ、中華麺めんといった順になります。
また、ご飯も白米よりも玄米のほうがいいでしょう。
冷製パスタにアズキをトッピングしたメニューなどは、強力な快腸でんぷん食になります。
豆ご飯やアズキがゆなどを冷やした物もいいでしょう。
ちなみに、大豆には、ほとんど快腸でんぷんは含まれていません。
しかし、快腸でんぷんは、大豆イソフラボンからエクオールという、美肌や骨こつ粗そ 鬆しよう症しようの予防に役立つ有効成分を生み出します。
その点で、大豆との組み合わせはお勧めです。
アツアツのご飯を冷ましてから食べることも、快腸でんぷんの手軽な摂取法です。
昼食は、カレーライスではなく、冷えたおにぎりに、3時のおやつは、シュークリームではなくアズキを使ったあんこの和菓子にしてみてください。
こうしたちょっとした変化を加えただけで、便秘ぎみだった人が快便になったというケースもあります。
快腸でんぷんは、消化吸収が緩やかだという特性もあります。
食後、血糖値の上昇が緩やかになるので、腹持ちがよくなり、食べ過ぎや間食を防いでくれるのです。
快腸でんぷんは、とても貴重な働きをしてくれる成分です。
腸と全身の健康を保つため、ぜひ毎日の食生活に上手に取り入れてください。
早川 享志
1954年生まれ。三重大学卒業後、京都大学大学院博士前・後期課程修了(京都大学農学博士)。京都大学非常勤講師、東京農業大学助手、岐阜大学助手、助教授を経て2003年より岐阜大学教授。主に、体内の環境改善効果について研究。2011年、日本食物繊維学会学会賞を受賞。著書に『おいしく食べて体にいい快腸でんぷん健康法』(リベラル社)がある。