解説者のプロフィール
あがり症も赤面症も克服できる方法がある
人前で何かをしたり話したりするときに、必要以上に緊張して顔が赤くなってしまう人がいます。いわゆる「赤面症」です。
顔が赤くなるのは恥じらいがあるからです。恥じらうことは、少しもおかしなことではありません。むしろ人間にとって自然なことです。
「赤くなってもかまわない」「しどろもどろで話してもかまわない」──そう思って逃げずに場数を踏んでいけば、不安な気持ちが抑えられて、次第に赤面も、あがりもしなくなってきます。
コンプレックスに打ち勝つと、その後には強い自分が生まれます。ちなみに、聖路加病院名誉院長だった故・日野原重明先生は、100歳を過ぎてもエネルギッシュなかたで有名でしたが、実は小学生の頃は恥ずかしがり屋の赤面症で、それを克服するために中学で弁論部に入り、人前で話すことに慣れたそうです。
「赤面症」は100%治る 顔が赤くならない方法はある
赤面症の患者さんには、共通するパターンがあります。それは、過去の「嫌な体験」が発症のきっかけになっていることです。
緊張しやすい人や恥ずかしがり屋な性格な人が、人前で何かをしなければいけないときに、うまくできずに顔が赤くなったことが、「嫌な記憶」として残っているのです。
顔が赤くなるのは、恥ずかしさや緊張で自律神経の交感神経が優位となり、顔の血流が増えるからです。
自律神経には、「交感神経」と「副交感神経」の2つがあります。緊張してドキドキしたり、動悸が激しくなったりするのは交感神経が優位になっている状態、リラックスしているときや睡眠時には副交感神経が優位になって、動悸も遅く、呼吸も深くなります。
心に緊張や不安などの感情が生まれると交感神経が優位になるので、顔が赤くなったり、手が震えたりしてしまうのです。
でも、緊張するだけでなく、例えば、授業や会議に強い恐怖を感じて学校や会社を休むとなると、とても自然な反応とは言えません。日常生活に支障が出るほどの赤面症やあがり症は、性格の問題ではなく、「病気」ととらえるべきです。医学的には「社会不安障害」のひとつです。
単に人前で緊張しやすいだけなら、なんとか我慢してやり過ごすことが可能です。社会不安障害は、不安な場面から逃げようとすることで生活に支障が出るのが問題です。
そのような場合は、専門の医療機関を受診してください。社会不安障害は決して珍しい病気ではありません。あらゆる年齢層に、同じような悩みを抱えている人が大勢いるので、「自分だけがおかしい」と思う必要はありません。極度の赤面症やあがり症は、性格の問題だから治らないと誤解されがちですが、治療をすれば100%治る病気です。私のクリニックでは、特に社会不安障害の患者さんが多く、これまでに2000人以上を治療してきました。
あがり症や赤面症には、漢方薬「白虎加人参湯」も効果的
不安や恐怖による体の緊張を和らげて赤面症やあがり症を予防するには、マッサージも効果的です。当クリニックでは、薬物治療やカウンセリングだけでなく、セルフケアもお勧めしています。
赤面症の予防に効果的なのは、手の「ツボ療法」です。人間の体には数百カ所のツボがあるといわれており、それらを刺激することで、それぞれのツボがつながっている体の部位の状態をよくすることができます。
手のひらには、「労宮」「内関」「神門」という、緊張をほぐすのに効果的なツボが3つあります。
「労宮」は、ストレスや過労に効果があるのに加え、循環器系の保護作用もあります。
「内関」は、興奮を抑えて心を落ち着かせます。動悸や胸の痛み、不整脈や吐き気など心臓や胃の症状にも効きます。
「神門」は、交感神経の興奮を抑えて動悸を鎮めます。不眠症、恐怖症、神経症に効きます。
最初は3つのツボをすべて押します。症状が軽くなってきたら、そのときの症状に合わせて1カ所押すだけでもいいでしょう。
手のひらのツボは、いつでもどこでも人の目を気にせずにすぐに押せるので、緊張を感じたときの応急処置にも使えます。
また、ふくらはぎのマッサージも副交感神経を優位にするので、自宅で毎晩、寝る前に行ってみてください。
あがり症や赤面症には、漢方薬も効果的です。顔の交感神経を抑える働きのある白虎加人参湯です。緊張する場が予定されているときなど、事前に飲んでおくとよいでしょう。
あがり症は、性格的なものだけでなく、「治療で治る病気」です。社会不安障害の症状があり、社会生活上の困難を抱えている人は、ひとりで悩まないでぜひ治療を受けてほしいと思います。
赤面症・あがり症に効く「手のツボ押し」「ふくらはぎマッサージ」

やまだかずお
横浜市立大学医学部卒業。精神科専門医、精神保健指定医。和楽会横浜クリニック院長などを経て、2013年、横浜尾上町クリニックを開業。臨床心理士の山田和惠先生(写真左)とともに、「不安・うつは必ず治る」をモットーとして、うつ、社会不安症、パニック症などに的確な診断と最良の治療を行い、自宅でできるケアなども勧めている。近著『図解 やさしくわかる社会不安障害』(ナツメ社)ほか、著書多数。
●横浜尾上町クリニック
http://yoclinic.jp/index.php