
中鎖脂肪酸「MCTオイル」とは
テレビ番組で話題になり、最近はテレビCMでもその名を聞く「MCTオイル」。スーパーで手軽に入手できるこの油が今、ダイエットや健康、医療の現場でも脚光を浴びているのです。
まず、MCTオイルとはなんなのでしょうか。「MCT」とは、中鎖脂肪酸(Medium Chain Triglycerides)の頭文字のこと。中鎖脂肪酸は、脂肪を構成する脂肪酸の一種で、ココナッツやパームヤシ、牛乳、母乳などに含まれています。例えば、ココナッツオイルには、約60%の中鎖脂肪酸が含まれています。これに対し、天然の中鎖脂肪酸100%でできている油が、MCTオイルなのです。
脂肪酸は炭素が連なる長さによって、長鎖脂肪酸や中鎖脂肪酸などに分類されます。サラダ油やオリーブオイルなどの一般的な植物油は、主に長鎖脂肪酸でできています。長鎖脂肪酸は体内で肝臓や脂肪組織などに蓄えられて必要に応じて分解され、エネルギーとして消費されます。
一方、MCTオイルの構成成分である中鎖脂肪酸は、長鎖脂肪酸に比べて約半分の長さしかないため、非常に消化・吸収されやすいのが特徴です。長鎖脂肪酸の約4倍もの速さで分解されます。つまり、MCTオイルは、摂取するとすぐにエネルギーとして使われるので、体脂肪として蓄積されにくい油なのです。
摂取すれば、やせやすく太りにくい「ケトン体質」になる
さらに、MCTオイルを取る大きなメリットは、やせやすく太りにくい「ケトン体質」になれることです。
ケトン体質とは、「ケトン体」をメインのエネルギー源として利用できる体の状態をいいます。
私たちの体には、生きるために必要なエネルギーを生産する2種類のエンジンが備わっています。1つは、糖質やタンパク質を分解してできるブドウ糖を燃料にする「糖質回路」。もう1つは、脂肪を分解してできるケトン体を燃料にする「ケトン体回路」です。
体のエネルギーとして優先的に使われるのは、通常はブドウ糖です。そのため食事から糖質を取っていると、糖質回路がメインで働き、ケトン体回路は休んでいます。そして、ブドウ糖が枯渇すると、体内脂肪を燃料とするケトン体回路が働き始めるのです。
ところが、MCTオイルを取ると、体内にブドウ糖がじゅうぶんある状態でも、ケトン体回路が活発に働くようになります。すると、体内に蓄積した脂肪が効率よく燃焼されるようになるのです。しかも、ケトン体は脳の満腹中枢を刺激するので、空腹感や食欲を抑える働きもあります。つまり、MCTオイルを取って、ケトン体質に転換することが、ダイエット成功の秘訣といえます。
15kg減量!ヘモグロビンA1cが 8・6%→5・2%に!
私自身、ケトン体質になってダイエットに成功しました。
私は9年前に糖尿病になり、糖質制限食を実践しています。糖質制限は、食事から摂取する糖質を減らすことにより、ケトン体回路を主力で働かせる食事法です。糖質を取らなければ血糖値も上がらないので、糖尿病の治療にも有効なわけです。
私は、朝と昼はコーヒーだけを飲み、夕食は肉をたっぷり食べる食生活に変えました。途中で朝と昼のコーヒーには、MCTオイルを7g(スプーン2杯程度)入れるようになり、現在もそれを続けています。
すると、半年で体重が84㎏から69㎏になり、15㎏の減量に成功。95・5cmあったウエストは88・1cmにサイズダウンしました。血糖状態を示すヘモグロビンA1cの数値も、8・6%から5・2%と、半年で基準値内に下がったのです。
現在は、朝と昼はMCTオイルを入れたホットコーヒーのみですが、夜は肉を300〜400gくらい食べています。この食生活でダイエット後の体重をキープし、血糖値も正常化しています。「1日1食だとおなかが空きませんか?」と思われるかもしれませんが、空腹感や疲労感とは無縁で、1日じゅう元気に動けています。なぜならケトン体質になってケトン体回路を動かすようになれば、ブドウ糖をエネルギー源にするよりも、パワフルで長時間の活動ができるようになるからです。
一般の人がMCTオイルをダイエットに活用する場合、1日に20〜40gを上限に、コーヒーなど飲み物に混ぜるか、サラダなどの料理にかけて取るとよいでしょう。
MCTオイルはココナッツオイルと違い、熱に弱いため、フライパンで熱して使用する調理油の代わりには向きません。ですが、ホットコーヒーやスープなど、人が飲める程度の熱ならば耐えられます。
糖質を減らすことでダイエット効果はさらに高まりますので、まずは朝食の代わりにMCTオイル入りのコーヒーを飲むことから始めてみてはいかがでしょうか。
コーヒーにMCTオイルを小さじ1~2杯入れるのが、お勧めの摂り方

解説者のプロフィール

宗田哲男(むねた・てつお)
宗田マタニティクリニック院長。
1947年、千葉県生まれ。65年、北海道大学理学部地質学鉱物学科入学。卒業後、地質調査などに従事したが、その後、医師を志し、73年、帝京大学医学部入学。小豆沢病院、立川相互病院勤務を経て、92年、千葉県市原市に宗田マタニティクリニックを開院。糖尿病妊娠、妊娠糖尿病の患者に対して糖質制限による治療を推進、絶大な効果を挙げている。近著『ケトン体でやせる!バターコーヒーダイエット』(河出書房新社)ほか、著書多数。
●宗田マタニティクリニック
http://muneta.org/