かなり悪化しないと自覚症状が現れない
慢性腎臓病とは、腎臓の機能が少しずつ低下する病気の総称です。
英語の頭文字を取り、CKD(Chronic Kidney Disease)とも呼ばれます。
国内の患者数は、約1330万人で、成人の8人に1人となります。
いまや新たな国民病といえます。
慢性腎臓病は、初期の段階では自覚症状が現れないので、なかなか病気に気づきません。
頭痛やだるさ、むくみ、貧血などの症状が現れてくるのは、かなり悪化してからとなります。
腎臓の機能が低下して十分に働かなくなる(末期の腎不全)と、透析療法か、腎臓移植しか治療手段がなくなります。
腎臓移植は限られた人しか受けられませんから、大多数の人は、透析療法を受けることになります。
透析療法は、簡単にいうと、体外に出した血液を人工腎臓と呼ばれる装置でろ過し、体に戻す治療法です(自分の腹膜を利用する方法もあります)。
この療法は、週に3回、1回に4~5時間、ベッドに横たわって行わなければなりません。

患者さんにとっては、時間的にも肉体的にも、精神的にも大きな負担となります。
さらに、治療を続けても、心筋梗塞や脳卒中などの合併症を起こし(後述)、亡くなる患者さんも少なくないのです。
日本透析医学会の統計によれば、2014年現在、日本人の透析患者数は32万448人。
右肩上がりに増え続けています(左のグラフ参照)。
そもそも腎臓には、どのような機能があるのでしょう。
腎臓は、腰のやや上に、左右1個ずつある、こぶし大の臓器です。
その代表的な機能は二つあります。
一つは、血液の浄化・老廃物の排泄です。
全身を巡って老廃物を含んだ血液は、腎臓の糸球体(毛細血管が毛糸玉のように集まったもの)でろ過され、きれいになります。
そして取り除かれた老廃物は、余分な水分などと尿となり、体外に排泄されます。
この機能が低下すれば、体中に老廃物や毒素がたまることになります。
もう一つは、体内の水分や塩分の調節です。
水分や塩分は、多過ぎても少な過ぎても体に悪影響が生じます。
腎臓は、その量を調節し、血圧などを調整しているのです。
こうした腎機能に障害が起こるのが、慢性腎臓病です。
慢性腎臓病は高血圧や動脈硬化を引き起こす
慢性腎臓病と診断されるのは、元となる病気にかかわらず、次の二つの条件のいずれか、または両方が3ヵ月以上続いている場合となります。
① 尿検査やその他の検査で、明らかに腎障害が認められる(尿たんぱくや尿アルブミンの検出)。
② 腎臓の働きを示すGFR(糸球体ろ過量)が60未満(別記事参照)慢性腎臓病には、次のような病気があります。
糖尿病性腎症
糖尿病による合併症の一つで、腎臓の糸球体が高血糖によって障害されるものです。
2014年に透析を始めた患者さんのうち、糖尿病性腎症は1万5809人(全体の43・5%)と最も多く、透析患者数増加の最大の原因となっています。
慢性糸球体腎炎
免疫の病気や細菌感染などによって、糸球体に炎症が起こるものです。
糖尿病性腎症に次いで多く、全体の20%弱。
日本人に特に多いのがIgA腎症(別記事参照)です。
腎硬化症
高血圧が長く続き、糸球体やその先の毛細血管の動脈硬化が進むものです。
これらの病気の原因を見てもわかるとおり、慢性腎臓病は、糖尿病や高血圧、動脈硬化を招く脂質異常症など、生活習慣病と密接に関連しています。
一方、慢性腎臓病になることで、引き起こされる病気もあります。
体内の水分や塩分を調節する腎臓の機能が衰えると、血圧の調整が難しくなり、高血圧になります。
また、腎臓では、血圧を上昇させる「レニン」というホルモンを分泌しています。
慢性腎臓病になると、そのホルモンの分泌が亢進するため、やはり血圧上昇につながります。
さらに、高血圧が悪化すれば、血管にかかる負担が増大し、動脈硬化も進みやすくなります。
その結果、心筋梗塞、脳卒中などのリスクも高まるのです。
慢性腎臓病の人と、そうでない人を12年にわたって調べた研究があります。
それによると、慢性腎臓病の人は、そうでない人に比べて、心筋梗塞や脳卒中の発症率が、男女とも約3倍高いという結果も出ています。
このように慢性腎臓病は、怖い病気ですから、早めの対処が必要となります。
次項では、早期発見のための検査を紹介しましょう。
川嶋 朗
1983年、北海道大学医学部卒業。東京女子医科大学附属青山女性・自然医療研究所自然医療部門准教授などを経て現職。日本腎臓学会学術評議員、日本東方医学会理事、日本抗加齢医学会評議員、日本統合医療学会理事。