煮汁にすると効果が最も高くなる
人は年を取ると、いろいろなところが弱ってきます。春には目がかすみ、夏になると耳にセミが鳴き、秋には歯が落ち、冬は頭に霜をいただく──。
先人はうまいことを言ったもので、昔からこの春夏秋冬がそろうと、「老人」と言われました。そんな老人や老人になりかけた人たちに、ぜひ飲んでいただきたいのが、「黒豆の煮汁」です。
黒豆の煮汁は、漢方ではもともと長寿の薬で、老化を予防する効果があります。
実際に、黒豆の煮汁を飲んで、目や耳の症状が改善したり、歯が丈夫になったり、白髪が黒くなったりという例は、たくさん報告されています。
私の患者さんにも、黒豆の煮汁を飲み続けるうちに、真っ白だった髪が黒くなった人がいました。
黒豆といえば、丹波黒が有名です。私は丹波黒の産地、兵庫県から依頼されて、30年ほど前から黒豆の研究をするようになりました。
その研究の中で、黒豆の健康効果は、煮汁にすると最も高くなることがわかり、黒豆の煮汁を勧めるようになりました。私の処方で黒豆の煮汁を飲んでいる人は、数万人を下らないと思います。
黒豆は栄養の宝庫で、さまざまな栄養成分が詰まっていますが、煮ると、その7割は汁に溶け出します。黒豆の煮汁を飲めば、それらの成分を効率よく取り込めます。
黒豆の煮汁に溶け出している成分の中で、特に注目したいのは、アントシアニンやイソフラボン、サポニンといった成分です。
それぞれの主な効用は、以下のとおりです。
●アントシアニン
目の網膜に作用して、緑内障やかすみ目を予防します。
●イソフラボン
骨粗鬆症や、老人性の認知症を防ぐ効果があります。
●サポニン
抗ウイルス作用や、脂肪の吸収を抑える抗肥満作用があります。
そして、これらいずれの成分にも、老化を防ぐ抗酸化作用、抗ガン作用、血液をサラサラにする作用があります。
このほかにも、糖尿病を予防するトリプシンインヒビター、記憶力向上や抜け毛予防に役立つレシチン、腸内環境を整えて免疫(病気に抵抗する働き)を強化するガラクトオリゴ糖などの有効成分も含まれています。
最近では、黒豆の煮汁が、漢方でいう「五臓六腑」のすべてに効くことがわかってきました。つまり、全身のどの臓器にも、健康効果をもたらすのです。
黒豆の煮汁の作り方

血圧が安定しふらつきが起こりにくくなる
黒豆の煮汁の効果は、私が勧めた患者さんだけでなく、見知らぬかたからも、「こんなによかった」と、わざわざご報告いただくことがあります。
そういう声で多いのが、血圧の改善効果です。血圧は自分で測れるので、効果がわかりやすいのでしょう。「血圧が下がった」「薬がいらなくなった」という人が続出しているのです。
私の妻も、200mmHg近かった最大血圧が、黒豆の煮汁を飲んで1週間もしないうちに、120mmHgくらいに下がりました(正常値は140mmHg以下)。
また、薬を飲んでいるのに、血圧が高くなったり低くなったりして困っていた人が、黒豆の煮汁で安定するようになり、薬が不要になった例や、だんだん薬が効かなくなって薬が増えてきたという人が、薬を減らせたという例など、枚挙に暇がありません。
そして、血圧が急に上がったり下がったりすると、ふらつきやめまいを起こすことがあります。黒豆の煮汁で血圧が安定すれば、そうした血圧の乱高下がかかわるめまいも改善に向かうでしょう。
黒豆の煮汁が血圧に効くのは、コレステロールや中性脂肪を減らす成分や、抗酸化作用の強い成分が多く、血液をサラサラにするからです。
また、尿の出をよくする作用のあるカリウム、血管の筋肉をゆるめるマグネシウム、血管を拡張するビタミンEなども含まれており、それらの総合的な作用で、血圧が下がるものと考えられます。
黒豆の煮汁の作り方は、水につけておいた黒豆を弱火で煮るだけと簡単です(作り方は図参照)。漢方薬と同様に、朝起きたときや、空腹時に飲むと、吸収がよくなります。
基本的に人肌に温めて飲みますが、糖尿病の人は、温めずに飲むほうがいいでしょう。糖尿病に効果のあるトリプシンインヒビターは、熱に弱いからです。
煮た後の豆にも、3割の成分が残っています。大豆たんぱくはほとんど豆に残っているので、豆も食べてください。
ただし、煮汁と違って、豆にはカロリーがありますから、糖尿病や肥満の人は、豆を食べた分、ごはんを減らすなどの注意が必要です。
なお、黒豆の煮汁にはカリウムが多いので、腎臓の悪い人は医師と相談の上で飲んでください。大豆アレルギーのある人は、煮た後の豆を食べるのは避けたほうが無難でしょう。
解説者のプロフィール

野崎 豊
ノザキクリニック院長。日本東洋医学会代議員。専門は内科、小児科、アレルギー科。漢方薬やアロマセラピー、ハーブなどを取り入れた診療に定評があり、黒豆研究の第一人者でもある。