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【透析を回避】慢性腎臓病の「糖尿病腎症」は降圧剤で改善、合併症も予防できる

【透析を回避】慢性腎臓病の「糖尿病腎症」は降圧剤で改善、合併症も予防できる

慢性腎臓病のなかでも最も患者数が多いのが糖尿病腎症です。糖尿病腎症は、糖尿病の3大合併症の一つで悪化させるとやっかいな病気です。糖尿病腎症が重くなる前に発見し、適切な治療薬を投与すれば腎機能の低下を食い止め、治すことが可能になったのです。その薬の名前は「テルミサルタン」です。【解説】牧田善二(AGE牧田クリニック院長)

牧田善二
1979年、北海道大学医学部卒業。ニューヨークのロックフェラー大学で、5年間、糖尿病の合併症であるAGEの研究を行う。96年より北海道大学医学部講師、2000年より久留米大学医学部主任教授。03年、東京・銀座に糖尿病治療のための「AGE牧田クリニック」開設。著書に『糖尿病で死ぬ人、生きる人』(文春新書)など多数。
●AGE牧田クリニック
http://www.ageclinic.com/

腎臓の毛細血管の炎症を抑える特効薬が出現

慢性腎臓病(CKD)のなかでも、最も患者数が多いのが、糖尿病腎症です。
糖尿病腎症は、糖尿病の3大合併症の一つで、悪化させるとやっかいな病気です。

それは、遅かれ早かれ、100%透析療法に至るとされてきたからです。
透析療法は、腎臓のかわりに血液をろ過する治療です。

週に3回、1回4~5時間程度の時間がかかります。
これを一生続けなければならないので、仕事や生活に大きな支障を来します。

ところが、この常識が今、大きく変わりつつあります。
特効薬が出現したためです。

糖尿病腎症が重くなる前に発見し、適切な治療薬を投与すれば、腎機能の低下を食い止め、治すことが可能になったのです。
その薬の名前は「テルミサルタン」(商品名=ミカルディス)です。

テルミサルタンは、一般的に使われてきた降圧剤の一つです。
血管を収縮させるホルモン(アンジオテンシンⅡ)の働きを抑制して血圧を下げるARBという種類の薬です。

その降圧剤に、糖尿病腎症を改善する効果のあることがわかったのです。
そうした海外の研究報告を受け、2008年、日本でも、岡山大学や旭川医科大学など、六つの大学の共同研究で、テルミサルタンの臨床試験が行われました。

その結果、テルミサルタンが、糖尿病腎症に画期的な効果をもたらすことが確かめられたのです。
その効果は血圧の高い人だけでなく、正常血圧の人でも確認されました。

腎臓の状態を悪化させる原因物質が、「AGE」(Advanced Glycation End-Products)です。
日本語で「終末糖化産物」といいます。

これは、糖尿病で高血糖状態が続いたとき、血液中に余った糖がたんぱく質と結びついてできる物質です。
AGEが腎臓の毛細血管に炎症を起こさせることによって、糖尿病腎症が起こります。

テルミサルタンには、この炎症を抑える働きがあるのです。
炎症が抑えられれば、自然治癒力によって、障害された腎臓が修復され、腎機能も回復するのです。

テルミサルタンを処方することで、透析療法を回避できる人が劇的に増えています。
早期に服薬すれば、治らないとされてきた糖尿病腎症が完治する可能性が高まります。

ただ、ここに大きな問題があります。
慢性腎臓病がやっかいなのは、かなり病状が進行するまで自覚症状が出ないことです。

しかも、通常、腎機能の指標として使われているクレアチニン値が異常値を示すときは、すでに腎機能が悪化しています。
そこで、私が患者さんに推奨しているのが、尿アルブミン値の計測です。

アルブミンは、たんぱく質の一種で、腎臓病が悪化し始めた早期段階から計測できます。
つまり、この値を調べれば早期発見が可能なのです。

なお、テルミサルタン以外にも、いくつかの降圧剤が糖尿病腎症に有効であることがわかっています。
特に、「スピロノラクトン」(商品名=アルダクトンA)は、テルミサルタンと併用すると、かなり悪化した糖尿病腎症でも改善することが期待できます。

腎機能が改善したら薬を飲む必要はない!

では、テルミサルタンで糖尿病腎症がよくなった例を紹介しましょう。

Aさん(66歳・女性)は、私の本を読み、担当医に尿アルブミン値を調べてほしいと頼んだところ、そんな検査は必要ないと拒否されてしまいました。

しかし、やはり心配で、2014年5月に来院(左のグラフ参照)。

尿アルブミン値は902㎎/gCrありました(基準値は30㎎/gCr未満)。
これは放置すると、2~3年で透析療法に移行する数値といえます。

しかし、テルミサルタンによる治療開始後、しだいに数値は下がり、2016年10月には35㎎/gCrに。
基準値まであと一歩のところまで改善しています。

「医師のいうとおりにしていたら、透析療法は免れなかったでしょう」とAさん。

Bさん(47歳・男性)の初診は2011年3月。

当時の尿アルブミン値は5442㎎/gCrもありました。
一般的には、6000㎎/gCrを超えたら透析療法を行いますから、もはや透析は避けられない状況でした。

しかしBさんのたっての希望で、投薬による治療を開始(左のグラフ参照)。
テルミサルタンに加えて、スピロノラクトンを併用すると、一進一退だった病状が大幅に改善。

2016年6月には23㎎/gCrまで降下。
透析療法の全く必要のないところまで回復しました。


テルミサルタンは、糖尿病腎症以外の慢性腎臓病にも効果があります。
3年前、肺動脈狭窄でカテーテル治療を受けたCさん(58歳・女性)は、治療時に使われた造影剤の影響で、腎臓に炎症が起こり、造影剤腎症になってしまいました。

2015年11月、私のクリニックに来られたときのアルブミン値は697㎎/gCr。
テルミサルタンを処方したところ、2016年1月には401㎎/gCr、9月には43㎎/gCrまで下がっています。


なお、尿アルブミン値が下がり、腎機能が改善すれば、テルミサルタンを飲み続ける必要はありません。
私のクリニックには、腎機能が回復して薬の服用をやめられた人はおおぜいおられます。

肉や魚の加熱は油を使わず蒸すかゆでる!

糖尿病腎症の改善のためには、投薬治療のほかに、食事の注意も重要です。
ポイントは、糖尿病腎症の原因物質であるAGEを多く含む食品の摂取を、極力減らすことです。

例えば、焼いたり、油で揚げたりすると、食品中のたんぱく質と糖が反応し、AGE量が増加します。
特に、肉や魚の焦げめは高濃度のAGEを含むため、食べてはいけません。

加熱する場合は、蒸すか、ゆでるといいでしょう。
AGEを減らす効果のある、カロテン(色素)を多く含む緑黄色野菜をしっかりとることも勧めています。

緑黄色野菜は、トマト、ニンジン、ホウレンソウ、コマツナ、ブロッコリー、ネギ、ニラ、カボチャ、パプリカ、ピーマンなどです。
色のついた野菜を意識してとるといいでしょう。

これらのポイントは、軽症の糖尿病の患者さんが、合併症を予防するためにも役立ちます。

※これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連書籍・ムックをもとに、ウェブ用に再構成したものです。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

※これらの記事は、健康関連情報の提供を目的とするものであり、診療・治療行為およびそれに準ずる行為を提供するものではありません。また、特定の健康法のみを推奨したり、効能を保証したりするものでもありません。適切な診断・治療を受けるために、必ずかかりつけの医療機関を受診してください。これらを十分認識したうえで、あくまで参考情報としてご利用ください。

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