解説者のプロフィール
心肺機能が高まり全身の機能もアップ!
「わき」は、人間の急所ともいえる、守るべき重要な場所です。
「わきが甘い」「わきを固める」といったフレーズからも、それがわかると思います。
私たちは、降参するときにバンザイをします。
これも、急所であるわきを相手にさらしているという意味があるわけです。
では、どうしてわきは守るべき重要な場所なのでしょうか。
それは、わきに全身の機能を高めてくれる、いくつもの秘密が隠されているからです。
わきをもむだけで改善する痛みや不快症状は多い

ですから私は、鍼灸治療を行う前に、必ず患者さんのわきをもみます。
わきをもむことで、気(生命エネルギーの一種)の流れを促し、治療の効果を高めることができるのです。
実際に、わきをもむだけで改善する痛みや不快症状は、少なくありません。
わきもみのやり方は簡単です。
わきもみのやり方

●わきもみのやり方
もむ場所は、わきの下の中央部と、わきの前側(大胸筋)、わきの後ろ側(肩甲骨)の3ヵ所です。
❶あおむけになって左のわきを開き、わきの下の中央部を右手の親指の腹で押します。
押し込んだら、力を入れたまま、10秒保ちます。
❷右手の人差し指から小指までの4本の指を、左のわきの下に入れ、親指で前側の筋肉(大胸筋)をはさむようにして、10秒つかみもみします。
❸右手の親指を左のわきの下に入れ、人差し指から小指までの4本の指で背中の肩甲骨をつかんで、10秒もみほぐします。
❹①〜③を右のわきでも同様に行います。
①〜④を1セットとして、1日に5セット行うといいでしょう。
心臓や肺の機能が高まる
●心臓の機能が高まる
最初に、わきの中央部を押しもみしますが、ここには手の先に向かう腋窩動脈が走っています。
腋窩動脈は体の中でも、比較的浅い所に走っている太い動脈です。
ここを刺激することで、血液の流れを促進します。
寝た状態で行うことで、腕だけでなく全身の血流がよくなります。
そうなると、血液を送り出す心臓の負担が軽減します。
つまり、高血圧の改善にも役立つのです。
東洋医学では、腋窩動脈の位置に極泉というツボがあります。
極泉は心経という経絡(生命エネルギーの一種の気の通り道)上にあり、心臓の働きを高め、心の状態を整えてくれます。
狭心症の予防、動悸、精神的な不安、イライラを鎮める効果などが期待できます。
●肺の機能が高まる
次に、わきの前側の大胸筋をもみます。
大胸筋は、肋骨の上を覆っている、呼吸を補助する筋肉です。
現代人の多くは、大胸筋をあまり使っていません。
パソコン作業で1日中同じ姿勢をしていたり、スマホやテレビに夢中で悪い姿勢を続けていたりすると、大胸筋が使われずに、かたくなります。
すると、胸郭(胸部の外側部分)が広がりにくくなるので、深い呼吸ができなくなります。
つまり、肺が十分に機能しなくなり、酸素の取り込みが悪くなるのです。
酸素が不足すると、体は痛みやしびれを招きやすくなり、疲労がたまりやすくなります。
また、脂肪の燃焼も悪くなり、太りやすくなります。
わきもみで、このかたくなった大胸筋をもみほぐすと、胸郭が広がり、深い呼吸ができるようになります。
1回の呼吸で多くの酸素を取り込めるようになるので、肺の機能が回復してきます。
すると、体の不調が改善し、太りにくくなるのです。
また、大胸筋の位置には、肺経という経絡が走っています。
肺経は、肺や気管支、のどの状態と関係の深い所です。
わきもみで肺経の気の流れを促すと、肺や気管支の機能が高まり、呼吸器系の病気やカゼなどの予防にも役立ちます。
このようにわきもみで心臓や肺の機能が高まると、内臓や全身の筋肉、骨、細胞などに、酸素や栄養がしっかり送り込まれるようになり、全身の機能もアップしてくるのです。
顔や足のむくみから疲れ目、頭痛まで解消
●リンパの流れを促す
わきの下には、リンパ節(腋窩リンパ節)があります。
わきもみでこのリンパ節をもむと、リンパ液の流れが促進され、顔や足のむくみの解消に効果を発揮します。
リンパ液は免疫(自己防衛)にかかわる重要な働きをしている体液です。
リンパ液の中には、免疫を担当する細胞で、白血球の一種であるリンパ球が流れています。
リンパ節は、リンパ球が待機する場所で、体内にウイルスが侵入すると、ここから飛び出して闘ってくれます。
カゼのひき始めなどには、わきのリンパ節がコリコリしていることがよくあります。
わきもみでほぐしてやると、リンパ球の活動も盛んになり、カゼのひき始めなら、悪化する前に撃退することもできるでしょう。
●肩甲骨の動きがよくなる
さらに、わきの後ろ側の筋肉をもむことによって、肩甲骨の動きがよくなります。
この筋肉の緊張をほぐすと、肩こりや、首こりが楽になります。
首から上、脳への血流も円滑になるので、疲れ目や頭痛などの解消にも役立ちます。
以前、地元のバレーボールの選手にわきもみを指導したところ、腕の届く範囲が伸びた選手が続出しました。
わきもみは寝る前にするのが良い

わきもみによって、それほど肩甲骨を自由に動かせるようになるのです。
わきもみは、寝る前に行うといいでしょう。
気持ちが落ち着いて熟睡でき、疲れも取れます。
また、「ひどく疲れたな」と感じたときに、わきもみを試してみてください。
疲れが回復する効果をより実感できると思います。
内田輝和
1974年、鍼メディカルうちだ開業。87年、関西鍼灸短期大学非常勤講師として東洋医学系を担当。95年、鍼メディカルうちだ東京治療院開業。2013年、倉敷芸術科学大学生命科学部教授に就任。著書に『お尻美人になりたい』(マキノ出版)ほか多数。
●鍼メディカルうちだ
http://medical-uchida.com/