解説者のプロフィール
もぐさが体温で温まり外の冷気から骨盤を守る
3年ほど前、先輩の女性鍼灸師と「骨盤の冷え」について話をしました。
女性の骨盤内には、子宮や卵巣など、大切な臓器が収まっています。
骨盤を冷やすと、腸だけでなく、生殖器にも悪影響が及ぶのです。
そのころ、韓国の健康法「ヨモギ蒸し」が流行していて、日本でもヨモギの成分が入ったライナー(下着につけるシート)が売られていました。
でも、既製品には化学薬品が使われている可能性があり、患者さんに勧められなかったため、手作りすることにしたのです。
試行錯誤の末、不織布に、もぐさと、体を温める生薬を詰めました。
もぐさは、ヨモギの葉の裏の毛を精製したもので、灸に使います。
私は鍼灸用品を扱うお店で買いますが、漢方薬局でも売っています。
お近くの漢方薬局などに問い合わせてみてください。もぐさが手に入れば、だれでも簡単に手作りできます。
私は、もぐさのほかに、乾姜(ショウガの根を蒸してから乾燥させたもの)や、陳皮(ミカンの皮を乾燥させたもの)、当帰(セリ科トウキ属植物の根を乾燥させたもの)などを入れていますが、もぐさだけでもじゅうぶんです。
もぐさを不織布に入れると、小さなクッションのようになります。陰部に当てることで、もぐさが体温で温まり、外の冷気から骨盤を守ってくれます。
同時に、もぐさの有効成分が、陰部の粘膜から吸収され、骨盤内にある子宮や卵巣などの生殖器に、好影響を与えると考えられるのです。
もぐさの原料であるヨモギは、漢方薬に用いられ、冷えや不正出血、痛みを止め、血流を改善し、生理を正常に調整するとされています。
ヨモギは西洋医学でも「ハーブの女王」といわれ、消炎作用や抗菌・抗ウイルス作用を持つ、優れた薬草なのです。
精神が安定する!便秘が解消する!
私の鍼灸院には、不妊や生理痛、生理不順など、女性特有の症状に悩む患者さんが多く訪れます。
皆さん、おなかやお尻が、驚くほど冷えています。
鍼や灸で、体を温める治療をしても、日常生活で冷やしてしまっては、元の木阿弥です。
ですから私は、もぐさライナーなど、体を温める生活習慣のアドバイスをしているわけです。
もぐさライナーは、ナプキンやおりものシートのように、陰部と下着の間にはさんで使います。
ただ、そのままだと、下着の着脱時に落ちてしまいます。そこで、ちょっとした工夫をご紹介しましょう。
下着に留める当て布を作るのです。ガーゼかハンカチを12~13cm角に切り、対角に当たる2ヵ所にスナップボタンをつけます。
もぐさライナーの当て布の作り方と使い方

もぐさライナーを下着に置き、布を当てて反対側で留めれば、下着に固定できます。
市販の布ナプキンや、布ライナーを使ってもけっこうです。
当て布は毎日洗い、もぐさライナーは毎日天日干ししてください。もぐさがクタッとしてきたら、取り替えどき(捨てどき)です。
だいたい3日くらいが目安でしょう。実際に、もぐさライナーを使用した人たちからは、さまざまな声が寄せられています。
その一部をご紹介しましょう。
まず、第1に挙げられるのが、冷えの改善です。
「子宮が温まる感じで気持ちがいい」という感想がよく聞かれます。
実際は、子宮が温度を感じることはないのですが、下腹部の冷えが取れたということでしょう。
産後の人からは「母乳の出がよくなった」という感想も寄せられました。
子宮や卵巣が温まって血流がよくなり、母乳を出すホルモンの分泌がさかんになるのだと考えられます。
また、「イライラがなくなった」という声も多く聞かれます。
子宮や卵巣が冷えると、ホルモンのバランスがくずれ、精神的に不安定になります。
もぐさライナーで子宮と卵巣が温まると、イライラも軽減するでしょう。
更年期にありがちな、気分の浮き沈みにも、効果が期待できると思います。
さらに、便秘が改善した人も少なくありません。
最近の患者さんを見ていると、年齢を問わず、腸の冷えによる便秘が多いと感じます。
もぐさライナーで便秘が解消する例が多いのも、それを裏づけているといえるでしょう。
痔にもお勧めです。もぐさが肛門周辺の血行を促進しつつ、炎症をおさえ、症状改善につながると考えられます。
「陰部のかぶれが改善した」という患者さんもいます。もぐさの消炎作用が発揮された好例です。
これからの季節、冷えによる不調から身を守るために、もぐさライナーをぜひ活用してみてください。
星野 さおり
思春期から妊娠、出産、産後、更年期、老年期まで、ライフステージごとに女性をサポートする治療に定評がある。