足首を動かす三つの筋肉を鍛えることが重要
近年、健康長寿を語るうえで、「フレイル」という言葉が注目されています。
日本語に訳すと「虚弱」を意味します。
医学的にフレイルとは、加齢に伴って筋力や心身の活力が低下した状態を指します。
そして、高齢者の病気の専門医が集まる日本老年医学会は、2年前に、「高齢者の多くは、フレイルの状態を経て要介護状態になるので、早期発見をして対処することが必要」と、医療・介護関係者に呼びかけました。
高齢者が寝たきり(要介護状態)に陥る原因は、大きく2種類に分けられます。
脳梗塞などの血管系の問題と、骨折などの整形外科系の問題です。
フレイルにかかわるのは、後者の整形外科系の問題です。
骨折だけでなく、骨粗鬆症や変形性関節症、加齢による筋力低下など、いわゆるロコモティブシンドローム(運動器の障害により、要介護になるリスクの高い状態)全般が関係します。
簡単にいえば、「加齢に伴って筋力が低下する」→「自分の思うような動作が困難になる」→「最終的に寝たきりになってしまう」という危険性が生じるのです。
そして、寝たきりになる前段階に起こるトラブルとして多いのが、転倒です。
転倒の原因はさまざまですが、特に下半身や筋肉に注目すると、大きく三つの原因が挙げられます。
❶股関節の動きが悪い。
❷ひざの関節が十分に曲がっていない。
❸足首がかたく、思っているほど足が上がっていない。
ここで注目したいのが、原因❸です。
これを防ぐためには、足首からつま先をスムーズに上下させる、「足首を動かす筋肉」を鍛えることが重要です。
足首を動かす筋肉は、主に三つあります。
ふくらはぎの腓腹筋とひらめ筋、そして、いわゆる弁慶の泣き所(すねの前面)にある前脛骨筋です。
腓腹筋とひらめ筋はかかとを上げる動作(つま先立ち)と、前脛骨筋はつま先を上げる動作(かかと立ち)と連動します。
そして、この三つの筋肉を同時に、簡単で効果的に鍛えられるのが、「つま先&かかと歩き」です。
これにより、三つの筋肉を同時に鍛えることができます。
かかと歩きは20m歩ければ十分 !
まずは、「つま先&かかと立ち」から試してください。
ノルマの回数は特にありませんが、往復で10回も行えば十分です。
足首を動かす三つの筋肉は、普通に生活している限り、大きく刺激されることはありません。
意識的にケアをしないと、どんどん衰えていきます。
そのため、急につま先&かかと歩きを実行すると、こむら返りを起こす場合があります。
ですから最初は、つま先&かかと立ちを少しずつ実行して、自分の三つの筋肉の状態を確かめましょう。
なお、つま先&かかと立ちを行うときは、壁や机、イスなどにつかまりながら、足元が安定した場所で行いましょう。
基本的にどこでも実行できますが、通勤電車やバスで行うのは危険です。
慣れたところで、次は、つま先&かかと歩きです。
こちらはとにかく、無理のない程度に行ってください。
最初は、室内で数歩歩くだけでもかまいません。
慣れてきたら、少しずつ距離を伸ばしていき、最終的に20mも歩ければ十分です。
靴をはいたまま行っても問題ないので、散歩のときに実行するのがお勧めです。
これらのトレーニングを行ったとき、どうしても上手にできない、すぐにペタンと足先やかかとを下ろしてしまう、という人がいるかもしれません。
その場合、腰に異常がある可能性があります。
足首を動かす三つの筋肉は、腰の神経が支配しているので、腰に異常があると、スムーズに動かすことができないのです。
心配でしたら一度、整形外科で見てもらうことをお勧めします。
今回ご紹介したトレーニングは、足首を丈夫にして、転倒予防、ひいては寝たきりを防ぐために、多くの人にお勧めです。
つま先&かかと歩きを行って、無理なくじんわりと足の筋肉を鍛え、年を取っても動ける体づくりを目指しましょう。
つま先&かかと立ちのやり方

解説者のプロフィール

久保明
銀座医院院長補佐・抗加齢センター長。常葉大学健康科学部教授。東海大学医学部医学科客員教授。アンチエイジング医療の第一人者。人の老化度を科学的に測るエイジングドックを開発。銀座医院では「プレミアムドック」を立ち上げ、その結果に基づく運動・栄養・点滴療法などを実践している。
●銀座医院
https://www.ginzahospital.com