におい成分が血液をサラサラにする!
私は長年にわたり、タマネギの成分について研究してきました。
タマネギには多くの健康効果があり、どこに効くかという観点からすると、おおよそ三つに分類することができます。
❶心・血管系に対する効果
❷脳・神経系に対する効果
❸ホルモン分泌系に対する効果
タマネギの主成分は、含硫アミノ酸と呼ばれる、イオウを含んだアミノ酸です。
タマネギを切ったり加熱したりすると、細胞膜が破壊されます。
すると含硫アミノ酸が、同じくタマネギに含まれる酵素と反応し、時間の経過とともに性質が変化していきます。
まず、辛み成分と催涙成分がほぼ同時に生成され、その後、におい成分へと変わっていくのです。
注目すべきは、このにおい成分。
これが、❶の心・血管系全般に、よい影響を及ぼすのです。
血管をしなやかに保ち、血栓(血の塊)の形成を阻止する作用があるので、血液がサラサラになります。
また、糖質の代謝を促進し、血糖値の上昇を抑制。
加えて、脂質の代謝も促進するので、いわゆる善玉コレステロールを増やし、悪玉コレステロールを減らす働きもあります。
におい成分の持つこれらの作用が総合的に機能することで、高血圧や糖尿病、動脈硬化、脂質異常症といった生活習慣病の予防・改善に役立つのです。
血管や血液の状態がよくなれば、心筋梗塞や脳梗塞など、心・血管系の重篤な疾患の予防にもつながるでしょう。
におい成分は、❷の脳・神経系に対しても有効です。
記憶の働きに関与する、脳の海馬という部位があります。
この海馬の老化が進むと、記憶力が低下するのですが、におい成分が海馬で抗酸化力を発揮し、老化や病気の原因である活性酸素の発生を抑制。記憶障害の改善に効果を現すことが、研究により判明しています。
つまり、認知症や物忘れの予防・改善に役立つのです。
タマネギの薬効で予防改善できること

調理法の工夫で薬効を最大限に引き出せる
先に挙げた、❸のホルモン分泌系への効果も見逃せません。
テストステロンという男性ホルモンが、ストレスや加齢により減少すると、うつや不眠、精力の減退といった症状が現れます。
このテストステロンの分泌を促し、増加させる作用があるのが、酵素反応が起こる前の含硫アミノ酸です。
うまく活用すれば、男性更年期を乗り越える一助となるでしょう。
なお、含硫アミノ酸の摂取は、女性ホルモンの分泌を抑えるわけではなく、むしろホルモンバランスを整える可能性もあります。
女性にも、積極的にタマネギを食べてほしいものです。
先に述べたとおり、含硫アミノ酸は時間とともに性質が変化します。
どういった健康効果を望むかにより、調理法を工夫することで、その薬効を最大限に引き出すことができます。
❶の心・血管系の生活習慣病や、❷の認知症・物忘れの予防には、酵素反応を進ませて、におい成分を増やしましょう。
そのためには、タマネギをみじん切りにして、30分~1時間ほど放置するのがお勧めです。
さらにひと手間ですが、これを電子レンジでほんの1分程度加熱すれば、におい成分は、10倍以上にパワーアップします。
❸のホルモン分泌系に対する効果を狙う場合は、タマネギの薄皮をむいたら、切る前に、まるごと電子レンジで加熱してください。
中玉なら、600Wで2分程度です。
これで、酵素反応は起こらなくなるので、含硫アミノ酸を変性させることなくキープできます。
含硫アミノ酸は熱に強いので、このあとは、いくら切っても、加熱しても大丈夫です。
タマネギの薬効成分は、まだまだあります。
茶色い薄皮や白い部分に含まれるポリフェノール(色素成分)の一種、ケルセチン類にも、血圧の上昇を抑制する作用があります。
ケルセチン類はまた、高い抗酸化作用があることでも知られています。
活性酸素を体内から除去するので、ガン予防やアンチエイジングにも有効です。
さらに、タマネギに含まれる食物繊維やオリゴ糖には、整腸作用があります。
便秘の解消はもちろん、ダイエットの手助けにもなるでしょう。
安価で身近なのに、多彩な効果を得ることができるタマネギ。
ぜひ毎日食べて、健康づくりに役立ててください。
解説者のプロフィール

西村弘行
北翔大学・北翔大学短期大学部学長。東海大学名誉教授。名古屋大学大学院農学研究科修士課程修了後、北海道大学にて農学博士号を取得。北海道大学助教授、北海道東海大学教授・学長を歴任し、現在に至る。タマネギのことなら何でもご存じの、タマネギ博士として有名。