ひとさじ料理に加えるとバシッと味が決まる

簡単に作れて使い勝手も抜群!
麹とかかわるようになって7年。知れば知るほど、その奥深さと偉大さに感嘆します。
麹は、日本人が知恵と経験と長い時間をかけて、今の形に作り上げたものです。食料が乏しい時代、私たちの祖先は、麹を中心とした発酵食品で栄養を補い、命をつないできました。
一方、現代の日本人は、カロリー過多の栄養不足。先人たちとは違う意味で、貧しい食生活を送っています。食物の栄養を強化する発酵食品は、そうした貧しい食生活を補う健康食品のようなもの。ですから、今盛り上がっている麹ブームは、決して一過性のものではなく、時代の求めだと私は思っています。
さて、そうはいっても時代は変わり、食事も洋食が普通になってきました。昔は食卓の主役だった麹も、漬物やみそ汁だけでは限界があります。今の人たちはパンも好きだし、パスタも食べたい。和食に合うものだけでなく、現代の食事に合った麹の使い方が必要です。
そういう新しいメニューを提案したところ、麹を知らない若い世代にとても好評でした。新しいけれど懐かしい。それは、私たち日本人のDNAに、麹の味がしっかり染み付いているからだと思います。ですから、麹料理は子どもからお年寄りまで、みんなに喜ばれます。日本人なら誰もが、麹の味を受け入れる土壌を持っているのです。
その麹を、いちばん簡単に取りやすい形にしたのが「塩麹」です。簡単に作れるだけでなく、塩の代わりに使えるなど、使い勝手も抜群なので、麹のよさを知る入り口として、とても入りやすいのです。
塩麹は、麹に塩と水を加え、発酵させたものです。これを料理に使うと、文句なしにおいしくなります。麹由来のアミノ酸やブドウ糖が、素材の持ち味を引き出し、複雑で深みのある味を醸し出すからです。
もう一つは、酵素の力で素材が軟らかくなることです。肉類は、塩麹をつけてしばらく寝かせると、たんぱく質が分解されて、肉質が軟らかくなります。それは、より消化された状態で体内に入るということなので、胃腸にも負担をかけません。
また、塩麹を塩の代わりに使うと、うま味があるので、少ない塩分でも十分おいしく感じられます。例えば、漬物を漬ける場合、材料の10〜15%の量の塩麹で漬けると、通常の半分以下に塩分を抑えられます。塩麹を使うだけで、おいしく、らくに減塩できるのです。
料理の味が物足りないときは、塩麹をひとさじ料理に加えてみてください。バシッと味が決まり、誰でも料理上手になれます。塩麹にはそういう、マジック的なパワーがあります。
肌がしっとりして透明感が出てきた!
おいしさ、手軽さに加え、「健康」という付加価値が付くのも、塩麹の素晴らしいところです。塩麹にはアミノ酸、ビタミンB群、酵素などが豊富に含まれますが、これらは新陳代謝を活発にし、細胞の再生を促すので、体が元気になり、肌も若々しくなります。
私自身も、塩麹をはじめとする麹を使った食品を取るようになってから、知らず知らずのうちに体質が変わり、健康になってきました。
まず、便秘が改善しました。私の場合は「赤ちゃんのときから便秘」と母に言われるほどの、ひどい便秘体質でした。小学生のときも、週に3日しかお通じがなく、思春期にはダイエットを期待して、かなり無茶なこともしました。それでもよくならず、「体質だからしかたがない」と、半ばあきらめていました。それが、適度な運動とともに、毎日の食事で麹を使い始めてから、徐々に改善し、今はほぼ毎日、気持ちよいお通じがあります。
また、肌の調子がとてもよくなりました。もともと硬い肌質で、一度も褒められたことのない肌でしたが、麹を取るようになってから、肌がしっとりして透明感が出てきました。特に塩麹を食べるようになってから、それを強く感じています。
免疫力(病気に対する抵抗力)も増強されました。めったに熱が出ることはなくなりましたし、たとえ高熱が出ても、医師にもかからず、薬を飲まなくても、持ちこたえられる体力がつきました。ただ、体はすぐに変わるものではないので、最低1年は塩麹を取り続けてほしいと思います。
なお、塩麹を使うさいには、一つ気を付けたいことがあります。でんぷんと合わせて長く置くと、でんぷんが分解されてしまうことです。
例えば、クレープやパンの生地に入れて一晩置くと、小麦粉が分解されて固まらなくなります。ゆでたジャガイモに混ぜると、数十分置いただけで溶けてきますし、春雨サラダに入れて一晩置くとドロッとしてきますから注意してください。クレープなどの粉もの料理は、焼く直前に混ぜると失敗しません。酵素は加熱すると働かなくなるので、でんぷん質のものと合わせるときは、一度火入れした塩麹を混ぜるのもいい方法です。
塩麹は、加熱すると、酵素とともに一部のビタミンなどが失われてしまいます。しかし、加熱調理すると、コクが増すなどのよさも得られますから、生食にこだわらず、いろいろな料理に、塩の代わりに気軽に使ってみてください。
解説者のプロフィール

ここんゆか
麹料理研究家。麹のおいしさや麹文化の素晴らしさを伝えるため、金沢を拠点に、麹料理の教室やワークショップなどを多数開催。近著に『しょうゆ麹&甘酒も。簡単で本当においしいレシピ93 塩麹のおつまみとおかず』(河出書房新社)。
おいしく手軽なだけでなく健康にも役立つのが塩麹のいいところ