「麹納豆」にはさまざまな健康効果がある

計り知れないパワーの優れた組み合わせ
私が、納豆の中に血栓(血液の塊)を溶かすナットウキナーゼという酵素(体内での化学反応を促進する物質)を発見したのは、1980年のことです。それ以来、さまざまな発酵食品が持つ生理作用に関心を持ち、研究を続けてきました。
微生物の力で人間にとって有用な成分を生み出す発酵食品には、計り知れないパワーがあると実感しています。
今回ご紹介する「麹納豆」は、糸引き納豆と麹を合わせて作りますが、これは、そうしたパワーという意味でも、大変優れた組み合わせといえるでしょう。
納豆は、よく知られているとおり、煮大豆を納豆菌で発酵させて作る食品です。また、麹はカビの一種で、みそやしょうゆ、酒、酢、みりんなど、日本を代表する発酵食品に欠かせない菌です。
それではまず、それぞれの食品の持つ主な機能性を簡単にご紹介しましょう。
【納豆の主な作用】
①血管の詰まりを防ぐ
納豆に含まれるナットウキナーゼには、血栓を溶かす強力な作用があります。血栓によって血管が詰まって起こる脳梗塞や心筋梗塞、老人性認知症などを防ぐ効果が期待できます。
②血圧を下げる
納豆のレシチンやリノール酸は、血液中の中性脂肪や悪玉コレステロールを減らし、血液をサラサラにする働きがあります。また、納豆のたんぱく質は血管の弾力性を高めてくれるので、これらの作用で高血圧や動脈硬化の予防に役立ちます。
③骨粗鬆症を予防する
納豆に含まれる女性ホルモン様のイソフラボンという成分は、加齢とともに増える女性のカルシウム消失を防ぐのに有効です。また、納豆菌が作り出すビタミンK₂が、カルシウムの吸収を促進するので、骨粗鬆症(カルシウム不足によって骨がもろくなる病気)の予防も期待できます。
④腸をきれいにする
納豆の食物繊維が腸の蠕動運動(腸が内容物を肛門のほうへ送る動き)を促進し、納豆菌が腸内の善玉菌の活性を促します。つまり、腸内環境が整い、便秘を予防・改善してくれます。
⑤肌をきれいにする
腸がきれいになり、新陳代謝が促進されることで、肌の代謝もよくなるし、納豆に含まれる酵素によって、体の内側から肌をきれいにしてくれます。
⑥食中毒を防ぐ
納豆菌には、食中毒の原因となるO‐157やサルモネラ菌に対する抗菌作用があります。
納豆菌と麹には多彩な機能性が秘められている

放射性物質の除去効果も期待
次に、麹です。
麹菌の種類は、200種類以上あり、菌の種類によって働きも異なります。例えば、「紅麹」のようにコレステロール値を下げる効果のある菌もあります。
日本でみそや日本酒、米酢、みりんなどによく使われているのは、「ニホンコウジカビ(学名アスペルギルス・オリゼー)」で、「黄麹菌」とも呼ばれます。
【麹の主な作用】
①消化吸収を助ける
でんぷんをブドウ糖に分解するアミラーゼ、たんぱく質をアミノ酸に分解するプロテアーゼ、脂肪をグリセリンと脂肪酸に分解するリパーゼなど、麹から生まれる消化分解酵素が食べ物の消化吸収を助けます。
また、食品に麹を加えることで、食品の糖の甘味やたんぱく質のうま味を引き出し、おいしさが増します。
②ビタミンB群を作る
麹は、ビタミンB₁やB₂を豊富に作り出します。麹で作る甘酒は「飲む点滴」といわれ、古くから夏のビタミン補給として飲まれてきました。
③血圧を下げる
ネズミの実験などで、麹には血圧を下げる作用のあることがわかっています。
④肌を白くする
麹に含まれる「麹酸」には、メラニン色素を抑制する働きがあり、美白化粧水にも使われています。
⑤腸内環境を整える
麹菌によって乳酸菌が増殖しやすくなり、腸内の善玉菌を増やして腸内環境を整えてくれます。
納豆と麹は、組み合わせてもそれぞれの菌がケンカすることはありません。それぞれが持つ作用は、そのまま生きてくると思います。それどころか、納豆特有のにおいは少なくなるので、より食べやすくなるでしょう。
両方のいいとこ取りができる麹納豆は、血液、腸、肌をきれいにし、病気予防にも役立つ素晴らしい発酵食品といえるのではないでしょうか。
麹と納豆成分には放射能除去効果が期待できる

さらに注目すべきは、放射性物質の除去効果が期待できることです。長崎に原爆が落とされたとき、みそ蔵にこもって、毎日みそを食べていた人が、後遺症もなく助かったという話があります。これはおそらく、みそを作るときに使う麹の作用だと考えられます。
また、納豆に含まれるジピコリン酸にも、放射性物質の除去効果があることがわかっています。
多くの可能性を秘めた麹納豆の発酵食品パワーを、ぜひ皆さんの健康に役立ててください。
解説者のプロフィール

すみ ひろゆき
倉敷芸術科学大学生命科学科教授。日本生理学会評議委員、日本血栓止血学会評議委員なども務める。血栓溶解に働くプロウロキナーゼとナットウキナーゼを発見した「納豆博士」。著書多数。