抗がん剤の研究者だからこそ予防の重要性を痛感
私は長年、副作用のない抗がん剤を目指して研究を続けてきました。従来の抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常細胞も傷つけてしまうため、吐き気や脱毛、食欲不振、造血機能障害、神経障害など、さまざまな副作用を伴います。
私が開発を目指しているのは、正常細胞を傷つけず、がん組織だけに作用を集中させる抗がん剤です。実用化すれば、患者さんは副作用に苦しむことなく、生活の質を保ちながら治療を受けることができます。
しかし、どれほど治療が進歩しても、「そもそもがんにならないようにする」ことの重要性に変わりはありません。
私は、抗がん剤の研究を行う一方で、がん予防の研究も進めてきました。
長年の研究から得た結論は、「がん予防には野菜スープがいちばん」ということです。
がんの発症には、猛毒の活性酸素がかかわっています。紫外線、化学物質、タバコ、慢性炎症などが呼吸で取り入れた酸素から活性酸素や一酸化窒素を生じさせ、細胞や遺伝子を傷つけ、正常細胞をがん細胞に変異させます。活性酸素を消去することが、がん予防に直結するのです。
私たちの体には、活性酸素を消去する物質を作る働きが備わっています。ところが年齢とともにこの働きは低下し、活性酸素を処理しきれなくなります。
そこで、役立つのが野菜スープなのです。野菜には活性酸素を消去するさまざまな抗酸化物質が含まれています。
代表がファイトケミカル(植物が紫外線や害虫などから身を守るために作り出す物質の総称。植物の色素や香り、苦味などを構成している成分)です。トマトのリコピン、ホウレンソウのルテイン、ニンジンやカボチャのカロテノイドなど、ファイトケミカルは身近な野菜に豊富に含まれています。
ファイトケミカルのがん予防に関する研究は欧米を中心に進み、発がん物質の解毒、がん細胞の成長・増殖の抑制、免疫力を高めてがん細胞への攻撃力を強化するなどの働きが認められています。野菜を十分に食べ、ファイトケミカルをとることが、がん予防の最善策といえましょう。
野菜の抗酸化成分をとるにはスープがベスト
野菜スープには、ビタミン類、ミネラル類など、ファイトケミカル以外の有効成分も丸ごと溶け出しています。野菜スープをとることで、サラダとは比較にならない強力な抗酸化パワーを得られます。
野菜を加熱すると、ビタミンCが壊れてしまうのではないかと、心配するかたがいるかもしれません。ビタミンC単体では加熱に弱いのは確かです。
しかし、野菜に含まれるビタミンCは、種々の抗酸化成分の働きで安定化し、壊れにくくなっています。
スープ作りのポイントは、複数の野菜を入れること。さまざまな成分の相乗的な働きで抗酸化パワーがより高まります。
お勧めは、ホウレンソウ、コマツナ、ブロッコリーなど緑の濃い野菜、旬の露地野菜です。これらは抗酸化作用が強いことが実験でわかっています。
私も、毎日朝食で野菜スープを欠かさずとっています。量は大きめのマグカップに7分目ほど。減塩を意識してスープに味つけはしていませんが、隠し味にみそや岩塩、カレー粉を少し入れることもあります。
家内が作る野菜スープには、タマネギやニンジン、ジャガイモ、セロリ、カボチャ、ダイコンの葉など、季節ごとに旬を迎える6種類ほどの野菜が入っています。
野菜の3倍ほどの水を鍋に入れて1時間弱煮たあと、ハンドミキサーでトロトロのポタージュ状にするのが我が家流です。
のどごしがなめらかなスープは朝食にぴったりです。みなさんも野菜スープを健康維持にお役立てください。

ポタージュにすると口当たりがよく飲みやすい!
野菜といえば、サラダで食べる人が多いようです。しかし、生野菜をそのまま食べた場合、ファイトケミカルはわずかしか吸収できません。
ファイトケミカルの多くは、野菜の細胞のなかにあります。細胞は、セルロースという食物繊維の一種でできた頑丈な細胞壁に包まれています。
ファイトケミカルを取り出すには、細胞壁を壊さなくてなりませんが、人間の体内では、セルロースを消化できません。
野菜を嚙んだり、包丁で刻んだりした程度では大半の細胞壁は壊れず、細胞の中の有効成分を吸収できないのです。
実際、生野菜を食べた後に検便を行って便を観察すると、野菜の細胞は未消化のままそっくり便に排泄されています。
野菜の有効成分をあますところなくとるベストな方法が、野菜を加熱し、スープとしてとることです。野菜をゆでるだけで頑丈なセルロースの細胞壁はあっけなく壊れ、細胞や細胞膜からファイトケミカルがスープに溶け出すからです。
私たちの実験で、野菜の活性酸素を消去する働きは、生野菜をすりつぶしたものより、野菜を5分間煮出したゆで汁のほうが10倍~100倍強いことが明らかになっています。(グラフ参照)