半数以上の人が下剤をやめられた!
透析をしている患者さんのうち、およそ6割が慢性的な便秘に悩んでいるといわれています。
これは、リンやカリウムの摂取が制限されていることに加え、水分も制限されているためです。
このため、野菜や果物を口にする機会が減り、食物繊維の摂取が著しく少ない傾向にあります。
さらに、水分制限もあるので、ますます便秘に陥りがちになるのです。
また、便秘解消に役立つヨーグルトなどの乳製品も、リンやカリウムの含有量が多いため、推奨できません。
やむをえず下剤を服用するしかないので、多くの患者さんが非常に困っているのです。
そこで、麹だけで作った「麹甘酒」を飲んでもらったところ、便秘の解消に大きな効果が発揮されました。
これはもちろん、透析患者さんだけではなく、健常者にとっても大変有益だと考えられます。
私が勤務している公立碓氷病院に通院する、透析患者さん14名にお願いして、麹甘酒を1日1回飲んでもらいました(1回量118g)。
使用した麹甘酒は、精米歩合60%の米で作られた物で、特にリンやカリウムの含有量が少ないのが特長です。
飲むタイミングは透析後とし、透析のない日はご自宅で好きな時間帯に飲んでもらいました。
期間は3ヵ月です。
その結果、下剤を常用していた患者さん9名に、大きな効果が現れました。
まず、麹甘酒を摂取して1ヵ月後、9名中3名において、下剤の量を減らすことができました。
3名は全く下剤に頼らなくても便通が改善し、残りの3名は、変化が見られませんでした。
そして、3ヵ月経ったころには、9名中2名において、下剤の量を減らすことができました。
5名は、全く下剤に頼らなくても便通が改善しました。
最終的に、高齢の男性2名は下剤を止めることができませんでした。
これは、おそらく加齢によって腸の働きが大きく低下しているため、下剤の服用なしでは排便が困難になっていると考えられます。
さて、最終的な結果をまとめると、麹甘酒を毎日継続摂取することで、8割近い人(77.8%)が下剤の減量、または服用を中止することができ、便通が改善しました。
下剤を中止することができたのは、全体のうちの半数以上(55.6%)になりました。
しかも、毎日摂取した麹甘酒の量は、1日当たり118gに過ぎません。前述したように、透析患者さんは、水分摂取も制限されているので、コップ半分くらいの量の麹甘酒で便秘が改善できれば、こんなにありがたいことはないのです。
また、下剤というのは、その日の体調や摂取した食品により、急激な効き方になる場合もあります。
その結果、極端な下痢を引き起こす危険性があるため、自由に外出しにくくなるのです。
そもそも、透析のために多くの制限を受けているのに加えて、下剤によって行動が制限されれば、ますますQOL(生活の質)が下がってしまいます。
麹甘酒を活用することによって下剤に頼らなくてもよくなれば、自由に行動できるようになり、QOLの向上につながるはずです。
色も形も健康的なバナナ便がスルリ!
さらに、今回の臨床研究によって、新たに判明したのは、麹甘酒が便の状態を改善することです。
透析患者さんは健常者に比べ、便臭が強い傾向にあります。
これは、フェノール類やインドールなど、腸内環境に悪影響を及ぼす物質が、腸に多く存在するためと考えられます。
しかし、麹甘酒を摂取すれば、便臭を弱めることができます。
以前は茶褐色だった便も、黄土色に近づくのです。
形状もよくなって、バナナ便になる人が増えました。
麹甘酒を毎日とることで、健康的な状態になっていくのです。
もちろん、この麹甘酒の効果は、透析の患者さんだけに発揮されるわけではありません。
健常なかたにとっても、便通を改善し、便臭を弱める効果が期待できるでしょう。
また、病院の看護師さんからも、「麹甘酒で便臭が少なくなると、非常に助かる」という声が上がりました。
介護の現場でも、麹甘酒は有効に利用できそうです。
ではなぜ、麹甘酒には、これほどまでに、優れた便通改善効果があるのでしょうか。
以前は、麹甘酒に含まれる、オリゴ糖や食物繊維の働きで、腸内環境が改善するためといわれてきました。
最近、広島大学が行った研究結果では、「麹甘酒のこうじ菌が作り出した酵素が善玉菌を増やす」と判明し、注目を集めています。
これまでお話ししてきたように、麹甘酒を摂取すると、いくつもの要素が相乗効果を生み出し、腸内環境が改善されるのでしょう。
ところで、「甘酒」という名前のせいで、「お酒が入っている」と誤解して飲まない人が少なくありません。
麹菌から作られる麹甘酒は、酒かすをお湯で溶いて作った甘酒と違い、アルコール分は含まれていません。
麹甘酒は、アルコールに弱いかたも妊婦さんもお子さんも、安心して摂取することができる、ノンアルコール、ノンシュガーの自然な発酵食品です。
おいしくて腸内環境を改善するのに抜群の効果を発揮しますので、ぜひ麹甘酒をお試しください。
上原由美
公立碓氷病院栄養科係長・管理栄養士・環境共生学博士