解説者のプロフィール
血糖値が823mg/dlになっていた!
不治の病といわれている1型糖尿病だと私が診断されたのは、2015年1月13日のことです。
この病は、血糖値を下げるホルモンである「インスリン」をつくる膵臓のβ細胞が壊され、インスリンが分泌されなくなってしまう病気です。
当時、私は東京大学で「アシタバ」という植物のCO2の吸収能力の共同研究をするかたわら、福島の農家の原発事故による損害賠償の請求訴訟にかかわっていました。
体に変調を感じたのは、年が明けて10日も過ぎた頃です。体がだるく、トイレに行く回数が増えて、のどが異常に渇きました。
カゼだろうと思いましたが、3日後に裁判所への出廷を控えていたので、念のために病院を受診しました。
そこで、血糖値が823mg/dlもあると判明し(正常値は110mg/dl未満)、「糖尿病性ケトアシドーシス劇症1型糖尿病」と診断され、緊急入院となったのです。
それまで病気らしい病気にかかったこともなく健康体だった私には青天のへきれきでした。ですが、「あと4時間遅れていたら、助からなかった」と医師から言われ、初めて事の重大さを知ったのです。
「糖尿病性ケトアシドーシス劇症1型糖尿病」と診断された

必ず治る方法はあると希望を捨てなかった
入院中は、劇症1型糖尿病についていろいろ調べました。
枯渇したインスリンを補うために、一生、インスリン注射を打ち続けなければならないことなど、病気のことを知れば知るほどショックは大きく、「不治」という言葉が頭の中でグルグル回りました。
しかしその一方で、私は希望を捨てませんでした。
きっと治せる方法があるはずだと、私の中の研究者魂がささやき続けたのです。
治すには、まず、原因を突き止める必要があります。
劇症1型糖尿病は、1週間ほどの短い間に突然発症する病気で、原因はわからないそうです。
ウイルス説やストレス説がありますが、私は年末から発症がわかるまでの2週間、誰とも接触せず、研究室に閉じこもっていました。ですから、ウイルス説は考えられません。
となると、ストレス説です。私は、年明けに開かれる裁判に備えて、資料の整理や書類の作成に、ずっと忙殺されていました。
私の判断で、福島の農家のみなさんの将来がかかっている裁判だったため、極度のストレスにさらされていたことは、間違いありません。
ストレスが増大すると、活性酸素が過剰に産生されて、体の組織を傷つけます。それが引き金となって膵臓のβ細胞が破壊され、インスリンが出なくなったのではないか……?
私はそう仮定し、ならば、活性酸素を除去して、膵臓の環境をよくすれば、β細胞が復活するかもしれないと考えました。
研究してきたアシタバが役立つかもしれない

活性酸素を効率よく除去する食品として、真っ先に思い浮かべたのが、私が長年、研究をしてきたアシタバです。
実は、病気を宣告されてから、私は漠然と、アシタバが、この病気に有効ではないかと思っていました。
というのも、これまでの研究で、アシタバにインスリン様作用や、強い抗酸化作用があることがわかっていたからです。
私は独断で、アシタバを大量に食べることにしました。
自宅で栽培しているアシタバをおひたしにして、食べられるだけ食べ、さらにパウダー状にした乾燥アシタバを毎食時15gずつとったのです。
自分の仮説が正しいのか正しくないかなど、わかりません。しかし、納得いくまでとことん追究するのが研究者です。仮説が外れていたらやり直せばいい。それだけです。しつこくやれば、必ず答えが出るはずだと思っていました。
退院後は、私は速効性インスリン注射を朝12、昼10、夜12単位ずつ、緩効性インスリン注射を夜18単位、打つように指導されました。
1型糖尿病になるとわかりますが、薬による血糖値コントロールは、それはもう大変です。 特に苦しめられたのが、1日3回打つ速効性のインスリン注射です。効きすぎれば低血糖を起こし、効かなければ血糖値が下がりません。
低血糖や高血糖を起こさないように食事で調整するのですが、これがなかなか思うようにコントロールできないのです。
せめて、この注射が減ってくれればと、何度思ったことでしょう。
こうして注射を1日3回打ちながら、アシタバを食べ始めて1ヵ月後、初めて変化がありました。
夜中に、低血糖を起こしたのです。その前日から朝のインスリンを2単位減らしていましたが、それでも低血糖を起こしたということは、薬が効きすぎているということです。
このことがあって、翌日の速効性インスリンは、朝、昼、夜とも8単位に減らしました。
それでもインスリンが効きすぎて再び低血糖を起こすので、私は医師と相談して、インスリンの量を徐々に減らしていきました。
ちなみに、糖尿病の人がアシタバを食べても、低血糖を起こすことはありません。
インスリンの量がみるみる減っていった

3月に入ると、昼のインスリン注射が必要なくなりました。さらに翌月の半ばには、速効性インスリンは朝3、夜4単位だけの注射になり、夜の緩効性インスリンも9単位に減って、ヘモグロビンA1cは、6・4%になったのです(過去1~2ヵ月の血糖値がわかる数値で、正常値は6・5%未満)。
これは、劇症1型糖尿病としては、非常によい状態です。
そして7月には、ついに速効性インスリンがゼロになりました。
緩効性インスリンだけは使用していますが、日中のインスリンがなくなれば、生活にまったく支障はありません。私の中では、治ったも同然でした。
以来、今(2017年12月現在)に至るまで、速効性インスリンはまったく使用していません。夜1回の緩効性インスリンだけで過ごしていますが、なんの支障もありません。
本当は、夜1回の注射もなくしたいのですが、医師の同意が得られないため続けています。
食事も、ラーメンでもケーキでも、好きなものを食べてもまったく問題ありません。夜1回の注射をしているので、むしろこういった糖質は必ず食べるようにしているくらいです。
こうして私は「治らない」「不治の病」「一生インスリン注射を打ち続けなければならない」と言われた1型糖尿病から、みごと回復したのです。
現時点では、劇症1型糖尿病は「絶対に治らない」とされています。では、私が回復したというこの矛盾を、どう解釈したらいいのでしょうか。
ここで、私の研究者としての血が騒ぎ始めました。アシタバの効果は、ほかの人にも当てはまるのだろうか? ほかの劇症1型糖尿病の人を救うことができるのだろうか、と。
そこで私は、アシタバの効果について検証するため、新たなプロジェクトを立ち上げることにしたのです。
和地義隆
1948年茨城県勝田市(現ひたちなか市)に生まれる。植物の新品種育成・開発を行い、研究成果としてトマピーパプリカや源生林あしたば等の開発に成功。2007年から筑波大学でのアシタバ機能性の研究に参加し、2009年からは東京大学でアシタバのCO₂の吸収能力を研究。著書に『自然の中で育てる源生林あしたば』(チクマ秀版社)、『不治の病・劇症1型糖尿病から回復へ』(風詠社)が好評発売中。