水溶性食物繊維の量がトップクラス
糖尿病の人にとって、イモ類は、糖質が多く、血糖値を上げやすい食品の一つです。
しかし、「イモ」と名がついていても、例外的に、血糖値を上げる心配がないどころか、食後の血糖値の上昇を抑える作用をもつ食品があります。それが「キクイモ」です。
イモ類にはでんぷんが多く含まれていますが、キクイモにはでんぷんが含まれず、代わりに「イヌリン」という水溶性食物繊維が主成分となっています。
キクイモのイヌリン含有量は、全体の15~20%にも及び、ニンニク(9~16%)、ゴボウ(5~10%)、ニラ(3~10%)と比べても非常に多く、野菜の中でもトップクラスです。
私たちは、砂糖の製造・販売業が主体の会社ですが、10年ほど前から、砂糖の有効活用研究を続ける中、砂糖をイヌリンに転換する技術開発に成功しました。品質の安定した純度の高いイヌリンを作り、イヌリンの機能研究や食品への利用法について取り組んでいるイヌリン研究者です。
それでは、イヌリンの主な作用を紹介しましょう。
便秘を解消!中性脂肪も減らす

①腸内環境を改善し、便秘解消
イヌリンは腸内でビフィズス菌や乳酸菌など善玉菌のエサとなり、善玉菌だけを増やして悪玉菌の増殖を抑え、腸内環境を改善します。これにより、排便の量や回数が増え、便秘解消に役立ちます。
20代の女子学生25名に2週間イヌリンを摂取してもらった試験では、1週間当たりの排便回数が6・8回から7・8回に増え、排便量も28%増加しました。
②ミネラルの吸収を促進する
善玉菌の作用でイヌリンが発酵すると、短鎖脂肪酸という有機酸の一種が生み出されます。短鎖脂肪酸は、腸の蠕動運動(腸が内容物を肛門のほうへ送る動き)を活性化させるほか、免疫機能の調整、腸内を弱酸性に保ち有害な菌の増殖を抑える働きなどがあり、腸内環境改善のカギとなる物質です。腸管におけるカルシウムや鉄、マグネシウムなどのミネラルの吸収を促進する作用もあり、カルシウムの吸収効率が高まることで骨量や骨密度が増加します。
③血液中の余分な中性脂肪を減らす
イヌリンは、余分な中性脂肪やコレステロールを吸着して体外への排出を促します。これにより、血中の中性脂肪やコレステロールの減少や、肝臓に蓄積した脂肪を減らす効果が期待できます。
④食後の血糖値の上昇を抑える
イヌリンには、血糖値を下げるホルモンであるインスリンと同じような働きがあり、「天然のインスリン」とも呼ばれています。小腸での糖の吸収を抑えるほか、インスリンの分泌を促すGLP‐1という消化管ホルモンの分泌を促して、食後の血糖値の上昇を抑えます。
副作用なし!血糖値を下げすぎる心配もない
私たちが行った試験では、デキストリン(でんぷんの一種)にイヌリンを加えた食事をとってもらったところ、イヌリンを加えない場合に比べて血糖値の上昇が10%抑えられました。
海外の論文では、糖尿病の人がイヌリンを摂取すると、食後2時間血糖値や、空腹時血糖値が低下したとの報告もあります。
ヨーロッパでは糖尿病の人向けの食品素材としてイヌリンの研究が進められており、パンやパスタ、ジャムなどに利用されています。
イヌリンの最大のメリットは、副作用がないことです。
薬のように血糖値を下げすぎてしまう心配はありません。腸内細菌のバランスを整えるには1日4・5g、血糖値の改善には1日10gのイヌリンを摂取すると有効です。
イヌリン10gは生のキクイモでは50g、乾燥キクイモの場合は20gくらいに相当します。
イヌリンをとり始めると、おなかが張ることがありますが、これはイヌリンが腸内細菌に利用されてガスが出るためで、とり続けるうちに治まります。
日本ではイヌリンの知名度はまだ高くありませんが、海外では水溶性食物繊維といえばイヌリンというほどメジャーな存在で、20年以上前から研究が進められてきました。
食品製造のさいにイヌリンを加えると、しっとり感やなめらかさが出たり、麺のコシが増すなどの特性もあるため、低脂肪アイスクリームや焼き菓子、糖質オフの食品などにも広く用いられています。
キクイモには独特のにおいがあるので、薄くスライスして乾燥させたものを煮出してお茶にしたり、水で戻して煮物などにする食べ方が一般的です。
キクイモのイヌリン含有量は、収穫後から徐々に減っていくので、鮮度のよいものを早めに食べ、長期保管は避けるのが賢明です。
最近では、キクイモの乾燥品やイヌリンを抽出した粉末なども商品として出ているので、それらを上手に活用しながら、取り入れるとよいでしょう。