解説者のプロフィール
ヘモグロビンA1cが8週間で2%以上低下
糖尿病の治療の基本が、食事と運動であることは、みなさん十分にご存じでしょう。かかりつけの医師に「運動をするように」と言われているかたも多いのではないでしょうか。
しかし残念なことに、実際の臨床では、糖尿病に対する運動療法の効果はあまり上がっていません。正しい運動療法が指導されていないからです。
そのため、十分な運動療法が行われないまま、薬物療法に移行する患者さんが少なくありません。
この状況をなんとかしたいと考えた私は、糖尿病の治療に筋トレを取り入れ、成果を上げてきました。
勤務医時代のデータでは、2型糖尿病の患者さん62名に週3回の筋トレと食事療法を行ってもらったところ、4週間で空腹時・食後血糖値とも大幅に下がり、8週間でヘモグロビンA1cが平均2・4%低下しました(過去1~2ヵ月の血糖値がわかる数値で、6・5%を超えると、糖尿病の可能性大)。
一般に、糖尿病の治療薬でも3ヵ月で0・8%程度の改善しかありませんから、筋トレの効果がいかに大きいかがわかります。
しかし、「筋トレ」と聞くと、「そんなハードな運動は無理!」と思う人がいるかもしれません。
しかし、私が勧めている筋トレは、たったの二つ。「スクワット」と「プッシュアップ」だけです。これを週3回、15~20分行うだけで、目覚ましい効果があるのです。
実際の症例をご紹介しましょう。
●Aさん(39歳・男性)
高血圧の治療で通院していたAさんは、2016年7月の血液検査で、今まで正常だったヘモグロビンA1cが、いきなり11・1%に上がっていました。「即入院」になってもおかしくない数値です。
この時点から、Aさんに運動療法を指導し、食事にも少し気をつけてもらいました。すると、その翌月にはヘモグロビンA1cが9・7%になり、翌々月には6・6%に下がったのです。1年半たった現在も、6%前後で安定しています。また、100㎏を超えていた体重が、92㎏になりました。
Aさんは病歴が浅い症例ですが、もっと長い慢性糖尿病患者さんの例もご紹介します。
●Bさん(44歳・男性)
EDの治療で泌尿器科に行き、糖尿病を指摘されて、当院を受診しました。EDのような糖尿病の合併症は、発症するまでに5~10年はかかりますから、Bさんの糖尿病歴もそれくらいはあると思います。
初診時のBさんのヘモグロビンA1cは11・8%と高く、本来は入院が必要ですが、体の状態が悪くなかったので、外来で運動療法を始めました。また、病気への意識を持ってもらうために、軽い糖尿病の薬(グリコラン)も処方しました。
すると、2ヵ月ほどでヘモグロビンA1cが下がり、半年後には6%台になりました。この時点で、薬はやめて運動だけにし、1年たった現在、ヘモグロビンA1cは6・3%です。
お二人とも若い患者さんですが、70代、80代という高齢の患者さんでも、筋トレで改善した例は、数多くあります。
筋トレにより数値が改善

やればやるほど筋肉に糖が取り込まれる
一般的に日本では、糖尿病の運動療法として、ウオーキングが推奨されています。
もちろん、ウオーキングのような有酸素運動でも、インスリンの抵抗性(インスリンが体内で効きにくくなっている状態)は改善しますが、効果が出るまでに時間がかかります。しかも、一日に1万5千~2万歩歩かないと、効果が出ません。
しかし筋トレなら、きちんと行えば、1ヵ月後には効果が出ます。それは、以下のような理由によります。
①血中の糖が使われる
運動をするとき、筋肉を動かす主なエネルギー源は、筋肉中に蓄えられたグリコーゲンです。これは、ブドウ糖が鎖のようにたくさんつながったもので、これを分解して、エネルギーのもとを作ります。
このグリコーゲンがなくなったとき、筋肉は血中の糖を引き込んでグリコーゲンを再合成します。そのため、筋トレすればするほど、血中の糖が使われて、血糖値が下がるのです。
しかも、グリコーゲンの再合成にインスリンは関与しませんから、インスリン分泌が低下した糖尿病患者でも、効果が期待できます。
②筋肉が太くなる
筋トレをすると、筋肉が引き伸ばされて小さな傷ができます。翌日体を休めると、その傷は修復され、その修復によって筋肉が少し大きくなります。
それをくり返すことによって、筋肉は太く、大きくなっていきます。
筋肉が大きくなれば、基礎代謝(安静時に消費するエネルギー)が上がり、エネルギーを燃やしやすくなります。それによって糖が消費され、太りにくい体になるのです。
中高年以降、糖尿病患者が増えるのは、運動不足によって筋肉が萎縮するからです。
血中の糖の8割は、筋肉で使われますから、筋肉が萎縮すれば、そのぶん糖が使われなくなり、糖尿病を発症しやすくなります。実際に、2型糖尿病患者の筋肉量は、健常人の半分程度しかありません。
では、どの筋肉がいちばん減るのかというと、人体の中で最も大きい、太もも前部の筋肉(大腿四頭筋)です。
私が勧める筋トレでは、スクワットで大腿四頭筋を、プッシュアップで胸の大きな筋肉(大胸筋)を鍛えます。こうした大きな筋肉を鍛えると、より効率よく基礎代謝が上がり、糖を消費しやすくなります。
このように、筋トレは、非常に理にかなった糖尿病の運動療法です。しかも、「カッコイイ体になる」というおまけつきですから、糖尿病のかたに限らず、ダイエットや健康維持のためにも、ぜひやっていただきたいと思います。
ただし、毎日すると筋肉が大きくなりませんから、1日おきにするといいでしょう。
糖尿病を撃退する筋トレ

勧めている筋トレは二つ。「スクワット」と「プッシュアップ」だけ

宇佐見啓治
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うさみ内科理事長。1955年福島県郡山市生まれ。1982年福島県立医科大学を卒業後、同大学付属病院第二内科に入局。1988年より福島赤十字病院に約10年間勤務、1997年にうさみ内科開業。専門分野は内科全般。消化器、糖尿病、高血圧、高脂血症、肥満などの生活習慣病治療(特に運動療法)。所属学会は、日本内視鏡学会、日本肥満学会、日本糖尿病学会。日本内視鏡認定医、日本内科学会認定医、日本医師会スポーツ認定医、日本体育協会スポーツ認定医。ひょうたんで作る「ひょうたんランプ」作家の顔も持つ。作家名は「瓢太」。
●うさみ内科