糖尿病の人は血中のリコピン濃度が低い!
私のクリニックには糖尿病外来があり、糖尿病の患者さんが多く来院します。
糖尿病を改善するには、食事や運動が大きな比重を占めるので、食事や運動のアドバイスは、治療の基本中の基本といえます。
例えば、炭水化物・たんぱく質・脂質の三つが三大栄養素と呼ばれていることは、皆さんもご存じでしょう。
しかし、栄養素ごとに血糖値の上昇率は、全く異なります。
炭水化物(糖質)を100%とすると、たんぱく質は50%、脂質が10%。つまり、糖質は、脂質の10倍も血糖値を上昇させる働きがあるのです。
このため、糖尿病を改善するには、どうしても糖質の摂取を制限する必要があります。
そこで、当院では糖質を、「1日の摂取量を150g以内に抑える」「1回の食事では50g以内」「間食は10g以内」といった目安で、糖質制限を実践してもらいます。
糖質制限食を行う際の補助食として、私がお勧めしたい食材があります。
それは、トマトです。
トマトには、血糖値を上げにくくする「リコピン」という成分が豊富に含まれています。
リコピンには、病気や老化の原因となる活性酸素を消す、強力な抗酸化作用があります。
その効力は、ビタミンEの100倍以上ともいわれているのです。
興味深いことに、糖尿病のかたの血液を調べると、血中のリコピン濃度が低い傾向にあります。
糖尿病は、血液中に含まれる糖の量が増え、血管などを障害する病気です。
血液中の糖を細胞内に取り込む働きをしているのが、血糖値を調節する、インスリンというホルモンです。
活性酸素が増えると、このインスリンの効きが悪くなります。
それが、糖尿病を発症させ、悪化させる要因となります。
リコピンは、過剰な活性酸素消去し、インスリンの効きをよくするため、糖尿病によい影響をもたらすのです。
また、脂肪細胞から血液中に分泌されるホルモンに、アディポネクチンという物質があります。
これは、いわば、「超善玉ホルモン」です。
これが増えると、血糖値や血圧が下がり、内臓脂肪が減るなど、多くの健康効果をもたらします。
リコピンが、このアディポネクチンを増やすことも、動物実験でわかっています。
ヘモグロビンA1cが 6.2→5.8に降下!
では、この有用なリコピンを効率的に摂取するためには、どうしたらよいのでしょうか。
私がお勧めしたいのは、トマトジュースです。
トマトジュースには、完熟した赤いトマトがふんだんに使われます。
そのリコピンの含有量は、市販のトマトの約3倍を誇ります。
ですから、生のトマトを食べるよりも、効率的にリコピンを摂取できるのです。
また、トマトジュースにオリーブオイルを加えて摂取すると、リコピン吸収率が4.5倍にアップした、という研究データもあります。
リコピンは、脂溶性の性質を持つため、油といっしょに摂取することで、吸収率が高まります。
ですから、トマトジュースにオリーブオイルを混ぜて飲めば、リコピンをより多く摂取できるのです。
加熱すれば、スープのような味わいになり、さらに飲みやすいでしょう。
私が、トマトジュースの健康効果についてテレビ番組でお話ししたところ、大きな反響がありました。
そして、私のクリニックの患者さんで、トマトジュースを試したいというかたが現れました。
ある50代の男性は、ヘモグロビンA1cが6.2%でした。
やや高めという程度ですが、少し気になるので、数値を下げたいというご希望でした。
ところが、食事内容に気をつけてはいますが、血糖値に変化がなかなか現れません。
とはいえ、治療薬を使って無理に下げるほど悪くはない状態です。
そこで、毎朝1杯のトマトジュースを飲んでもらったところ、およそ半年で、ヘモグロビンA1c が、5.8%まで下がったのです。
この男性以外にも、トマトジュースで血糖値が下がったかたはいらっしゃいます。
トマトジュースを食生活にプラスしただけで得たその効果に、私も驚きました。
ただ、なかにはトマトジュースが苦手というかたもいるでしょう。
その場合は、トマトをたっぷり使ったスープや煮込み料理を作りおきし、毎日食べるとよいでしょう。
リコピンは、熱に強いので、調理をしても減ることはありません。
なお、生のトマトを選ぶ際は、フルーツトマトは糖度が高いため、注意が必要です。
リコピンは、1日当たり15㎎とるといいでしょう。
継続してとることが大切です。生のトマトなら3〜4個、トマトジュースならコップ1杯分で補える量です。
糖尿病の予防・改善のための一助として、トマトやトマトジュースを上手に活用してみてはいかがでしょうか。

解説者のプロフィール

泰江慎太郎
銀座泰江内科クリニック院長。
三重大学医学部医学科卒業。
京都大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。
京都大学医学部附属病院などを経て、2012年、銀座泰江内科クリニックを開院。
合併しやすい糖尿病と心臓病(循環器)を包括的に診療するため、日本糖尿病学会と日本循環器学会の二つの分野で専門医資格を取得。
●銀座泰江内科クリニック
https://www.ginza-ys-clinic.com/