足のつけ根の骨折は要介護の主要因だ!
年を取るにつれ、転倒によって骨折する人がふえてきます。
60代までは、転倒時に体をかばおうとして、床や地面に手をつき、手首を骨折する人が目立ちます。
ところが、70歳を超えると、手首の骨折は、少なくなってきます。
その理由は、加齢による運動機能の低下が進行し、転倒時にとっさに、床や地面に手をつく動作ができなくなるからです。
このため、倒れてしまうと、大きな衝撃が、まともに腰やお尻にかかり、腰の骨や下半身の骨を折ってしまいます。
特に、70歳以降の転倒で多いのは、横に倒れた際の足のつけ根の骨折、また、尻もちをついた際の背骨の圧迫骨折です。
なかでも、足のつけ根の骨折は、全国で17万5700件(2012年/日本骨粗鬆症学会調べ)も発生しており、今後もふえ続けると予想されています。
しかも、この足のつけ根の骨折は、要支援・要介護の主要因になっています。
実際、厚生労働省の「国民生活基礎調査」(2013年)によれば、要支援・要介護になってしまう原因は、1位が脳卒中(18.5%)で、2位は認知症(15.8%)、次いで転倒・骨折が11.8%も占めています。
ところが、この調査を女性に限ってみると、その順位は変わり、1位の認知症(15.1%)に次いで、転倒・骨折が2位で、13.1%となっています。
高齢者が足を骨折すると、歩行能力が落ちてしまうことがあります。
またベッドに1ヶ月以上、寝た状態になるため、足腰の筋力がすぐに衰えます。
これらは、寝たきりの原因となります。そのうえ、認知症の発症や、悪化のきっかけにもなるのです。
ですから、寝たきりや認知症にならないために、高齢になったら、骨や関節を丈夫に保ち、転倒しないように、いっそう努める必要があります。
足の付け根の骨折はほぼすべてに手術が必要

5種類以上の薬を飲んでいる人は要注意
では、何が原因で、高齢者は転倒するのでしょうか。
まず第1に、加齢による運動機能の低下が挙げられます。
筋力が低下したり、うまくバランスを取れなくなったりして、転びやすくなるものです。
次に、病気によるものがあります。
例えば、低血圧や、脳血管の障害も、転倒のリスクとなります。
第3が薬です。高齢者のかたの大半は、多くの薬を服用していますが、実は、その薬の副作用によって、転倒してしまうことがあるのです。
転倒リスクを高める薬剤は、睡眠薬、糖尿病治療薬、降圧剤の三つが挙げられます。
特に、毎日5種類以上の薬を服用している高齢者は、要注意です。
薬を服用後、ふらついたり、ボーッとしたりすることがあるかたは、なるべく早く、主治医に事情を説明してください。
そして、服用している薬の量をへらしたり、種類を替えたりできないか、相談してみてください。
また、忘れてならないのが、生活環境にある、たくさんの転倒リスクです。特に多いのが、自宅での転倒です。
屋外よりも、注意力が散漫になり、また、油断してしまうからでしょう。
あるデータによると、60歳以上の9.4%のかたが、自宅で1年間に1回以上転倒しています。
これが85歳以上になると、約20%に跳ね上がります。実に5人に1人が、転倒しているのです。
高齢者にとって自分の家の中は、実は、危険がいっぱいの場所といえます。
生活環境の転倒リスクとしては、室内のさまざまな段差や、滑りやすい床が挙げられます。
そこで、転倒を避けるためには、転倒リスクを一つ一つ点検して、危険なところを排除することが大事です。
例えば、玄関の段差や階段。玄関には、スロープなどをつけて、段差をなくします。
また、小さないすを置き、座って靴を脱いだり、はいたりしましょう。
そして、階段には、滑り止めや踏み外し防止のテープを貼ってください。
一日のうち、最も多くの時間を過ごす居間は、足もとに物を置かないようにします。
また、敷物のめくれや電気コードも、転倒の原因となります。
そして、スリッパも転倒の要因となるので、来客時以外は、できるだけ使用しないようにしましょう。
その代わりに日常的には、滑りにくい靴下をはくのがお勧めです。
まずは、これら転倒リスクを生活から排除したうえで、これからご紹介する「転びにくい体作り」に取り組みましょう。
片足で立てる時間が長いほど転びにくい!
転倒を予防するためには、筋力やバランスを、鍛える運動が必要です。
私は講演会で、高齢者の転倒予防の説明をするとき、いつも「片足立ち」「スクワット」「かかと上げ」の三つの運動を、セットでお勧めしています。
これは、加齢による足腰の衰えの予防や、改善のために推奨している、大切な運動です。
まず、片足立ちは、筋力を鍛えると同時に、バランス能力も改善させます。
次に、スクワットは、下半身を総合的に鍛えます。そして、かかと上げは、ふくらはぎの筋肉を鍛えます。
このうち、転倒予防という観点で効果のある運動として、今回は片足立ちをご紹介します。
というのは、「片足立ちを行うと、転倒リスクが3分の1に減少した」という臨床研究データがあるからです。
片足立ちのやり方

片足立ちをすることで、神経と筋肉の機能が高められる
なぜ、これほど片足立ちが効くのでしょうか。それは、片足立ちをすると、お尻からつま先までの筋肉が鍛えられるからです。
同時に、バランス能力も向上するのです。バランス能力とは、姿勢を保持する能力といっていいでしょう。
体が動いているときも、静止しているときも、バランスよく姿勢が保てれば、体はスムーズに動き、転びにくくなるのです。
これには、筋肉を上手に動かす神経の機能と、それにこたえて動く筋肉の機能が必要です。
片足立ちをすることで、こうした神経と筋肉の機能が高められます。
すると、転倒しやすいすり足から、つま先の上がった転倒しづらい歩き方へ、改善が期待できます。
そのために重要なことは、片足でバランスを取って立っていられる時間です。
片足で立っていられる時間は、65歳くらいからガクンと短くなります。
さらに高齢になると、1秒と足を上げていられない人も見られます。そこで、年齢ごとの目標値をご紹介します。
まず、50歳代までは1分間以上、できれば2分間、楽に足を上げていられることを目標にしてください。
そして、60~74歳代は1分間。75~79歳までは30秒間。80歳以上であれば、15秒間できればいいでしょう。
ご自分が今、どの程度できるか、確かめてみてください。
できない人は、できる範囲内の秒数で毎日片足立ちを続けましょう。
続けていると、必ず秒数が延びます。そうやって、立っていられる時間を徐々に延ばしていけば、転びにくい体になれるのです。