アルツハイマー型の発症を抑えると実験で証明
最近、物忘れが増えてきたと思うことはないでしょうか。
そして、ご家族の誰かが認知症になったら、「将来は自分も認知症になるのではないか」と心配になるでしょう。
認知症は、完治することは滅多にありません。
ですから、早期の予防が非常に大切です。
最近は医学が進み、認知症の自覚症状がなくても、発症しているかどうか、わかるようになりました。
脳の血流を画像で調べる「脳血流検査SPECT」を行うと、脳が萎縮する前の段階で、血流が低下している部位を発見できるのです。
これにより、軽度認知症障害(MCI)はもちろん、ごく早期の認知症の診断も可能となります。
アルツハイマー型認知症の患者さんは、認知症が発症する20~25年前から、アミロイドβという異常たんぱく質が、脳に蓄積し始めます。
そして、発症の5年ほど前に、MCIの症状が現れます。
つまり、認知症予防は、少なくとも25年以上も前から始める必要があるのです。
では、どう予防すればいいのでしょうか?運動や健康的な食事は、認知症の発症リスクを抑える有効な手段です。
特に私が患者さんにお勧めしているのが、「玄米」を中心とした、腸内細菌叢を元気にする食生活です。
玄米は、白米よりもGI値(糖質の吸収の速さを指標化した数値)が低く、メタボや糖尿病を予防するのに効果的な食材です。
生活習慣病がきっかけで、アルツハイマー型認知症や血管性認知症のリスクを高めることがわかっています。
これらを防止するためにも、玄米は非常に有効です。
また、玄米に含まれるフェルラ酸、オリザノール、フィチン酸といったポリフェノールには、体のサビつきを防ぐ抗酸化作用があり、脳の血流も促します。
なかでもフェルラ酸は、アミロイドβの生成や毒性を減らして、アルツハイマー型認知症の発症を抑えることが、動物実験で証明されています。
認知症予防に玄米が効く3つの理由

腸内環境を整えて脳に大事な栄養を届ける
そして、玄米には、便通をよくして腸内環境を整える効果があります。
この働きが、認知症予防に大いに役立つのです。
脳の神経細胞や神経伝達物質は、腸から吸収した栄養素によって作られます。
腸の状態が悪いと、それらの大事な栄養素が脳に届かなくなったり、神経伝達物質を減少させたりします。
また、神経細胞の免疫や、腸周辺の毛細血管の機能が低下すると、脳の萎縮を起こすきっかけにもなります。
こうして、認知症やうつ病が発症しやすくなるのです。
そして最近になり、新たな脳と腸の関係が、京都府立医科大学の内藤裕二医師らの研究で判明しました。
腸内細菌叢が作る短鎖脂肪酸は、食物繊維が発酵してできる物質で、腸のぜん動運動(便を送り出す働き)を促し、便秘や下痢を予防します。
今回の研究では、そのうちのプロピオン酸が、腸の絨毛(細かい毛のような突起)から肝臓の門脈(消化管を流れた血液が集まり肝臓に注ぐ血管)を介し、脳の神経細胞に信号を送り、活性化させていたことがわかったのです。
玄米のぬか成分には食物繊維が豊富なため、短鎖脂肪酸がたくさん産生されるようになります。
こうして、玄米を食べて腸内環境が整うことで便通が改善し、さらに脳に大事な栄養素も届くようになるのです。
また、腸の状態が改善すれば、薬の効きもよくなるので、認知症やうつ病の薬も減らしやすくなります。
ちなみに、「玄米はパサパサして食べにくい」というかたもいらっしゃるでしょう。
その場合は、もち米を少量加えて炊くと、モチモチした食感になり、食べやすくなります。
また、ダイズやアズキ、ひよこ豆や黒米などを加えると、たんぱく質の補給を兼ねた、栄養満点の玄米ご飯ができます。
私のクリニックでは、食養による認知症やうつ病の予防を目的とした、「食養教室」を開いています。
うつ症状を抱えた患者さんは、胃腸が悪くなって食欲が落ちるので、やせて生気のない顔になっていきます。
ところが、食養教室に参加して玄米を常食するようになると、しだいに顔色がよくなり、少しふっくらとされる患者さんが増えるのです。
偏食が改善されることも、脳と体が元気になる要因の一つでしょう。
主食は玄米を選び、おかずに野菜や魚、豆類などを多くとる「玄米菜食」を若いうちから心がければ、認知症になるリスクを減らせると考えます。
今からでも、遅くはありません。
解説者のプロフィール

芦刈伊世子
医学博士。日本老年精神医学会認定医。精神保健指定医。精神科専門医。1990年、長崎大学医学部卒業。2002年にあしかりクリニックを開院。高齢期うつや不眠症、認知症などの疾患の診断・専門治療を主として行っている。著書に、『365日、玄米で認知症予防』(清流出版)などがある。
●あしかりクリニック
http://www.ashikari-clinic.com/index.html