コレステロールを溶かし動脈硬化にも効果的!
ハチミツは古くから、人々の生活に根づいていました。
養蜂が始まったのは、今から約5000年前。
日本では『古事記』に、ミツバチの記述を見ることができます。
ハチミツは、日本では主に食用として利用されていますが、海外では、伝統的な薬として用いている地域もあります。
免疫学が専門の私は、ハチミツの薬としての効果に興味を持ち、約10年前から、ハチミツが免疫に与える影響について研究を行っています。
その結果、ハチミツには免疫力を高める効果のあることがわかってきました。
ここではまず、ハチミツの成分がもたらす健康効果について解説しましょう。
そもそもハチミツは、ミツバチによって産生される、糖度が80%以上の天然成分、と定義されています。
その成分の中心は、グルコースやフルクトースといった糖分です。
それ以外にも各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸などが含まれています。
なかでも注目すべきは、ハチミツには、「コリン」という栄養素が多く含まれていることです。
コリンとは、体内にある水溶性の物質で、細胞膜の構成と修復に欠かせません。
このコリンが、健康維持において、さまざまな働きをすることが明らかになっています。
その一つが、血管拡張作用です。
コリンは、アセチルコリンという物質の材料になります。
アセチルコリンは、自律神経(意志とは無関係に働き体調を整える神経)の一つ、副交感神経を刺激し、血管を拡張させる作用を持っています。
ですから、血中にコリンが十分にあれば、高血圧の予防につながるわけです。
また、コリンには、血管壁にコレステロールが沈着するのを防いだり、コレステロールを溶かしたりする作用もあるため、動脈硬化対策にも効果的です。
さらに、コリンは中枢神経系に働き、記憶力を高める作用も確認されています。
認知症予防にも役立つでしょう。
砂糖よりも甘いのに血糖値は上がりにくい!

ハチミツは、疲労回復効果も優れています。
しかも、その効果には、即効性があります。
ミツバチは、花の蜜を吸い、食道の下にある袋状の器官(蜜胃)にためて集めます。
それを、巣の中で働く別のミツバチに口移しで渡します。
このとき、ミツバチの唾液の中に含まれるインベルターゼという酵素が、多糖類のショ糖である花の蜜を、単糖類のグルコースとフルクトースに分解します。
つまり、ハチミツは、単糖に分解された状態で私たちの体に入るので、非常に吸収されやすく、素早い疲労回復効果が得られるのです。
にもかかわらず、血糖値の上昇は緩やかです。
その理由は、ハチミツにはグルコースよりも、フルクトースのほうが多く含まれているからです。
血糖値とは、血液中のグルコースの濃度を数値化したものです。
例えば、砂糖は、グルコースとフルクトースが、ほぼ半々の割合で含まれています。
ハチミツには、グルコースよりもフルクトースのほうが多いので、同じ量をとるなら、砂糖よりハチミツをとるほうが、血糖値の急上昇は防げるというわけです。
さらに、フルクトースの多いハチミツは、砂糖に比べて、約1.5倍の甘さがあります。
少量でも十分な甘みを感じられるので、甘いお菓子がやめられないかたは、ハチミツにおきかえれば、肥満防止にも有効でしょう。
このようにハチミツは、過剰に摂取しなければ、生活習慣病の予防にとても効果的な甘味料なのです。
ただし、それは、純度100%のハチミツを摂取することが前提です。
水アメなどが混ざったハチミツは、純粋なハチミツではありませんので、ご注意ください。
例えば、今まで使っていた砂糖のかわりに、ハチミツを使うとよいでしょう。
ちなみに私は、コーヒーにハチミツを入れて毎日飲んでいます。
ハチミツは、あまりグツグツと加熱すると、成分が壊れてしまう恐れがあります。
成分を十分にとるなら、基本的には加熱せず、常温のまま摂取するのがお勧めです。
なお、ハチミツは抗菌作用が強く、時間が経っても菌が繁殖することはまずありません。
ところが、ハチミツの中でも生きられる、ボツリヌス菌という特殊な菌が、まれに潜んでいる場合があります。
消化管の環境が整っている大人は問題ありませんが、1歳未満の乳児に与えるのは、控えてください。
解説者のプロフィール

竹内実
京都産業大学総合生命科学部動物生命医科学科教授。医学博士・獣医学博士。山口大学農学部獣医学科卒業。専門は免疫学・応用健康科学。「京都産業大学ミツバチ産業科学研究センター」のセンター員として、ハチミツの免疫機能に関する効果の検証を研究。また、同大学が管理する養蜂場でハチミツの採取・生産も行い、その効能解析に努めている。