鼻歌交じりの速さで1日5000歩が効果的
「認知症は改善できる病気」とご紹介しました。
では、何をすれば予防・改善ができるのでしょうか。
それは、ずばり「ウォーキング」です。
認知症は、脳の神経細胞の減少や、神経細胞どうしの情報伝達が悪くなることで、認知機能が低下する病気です。
少し前までは、脳の神経細胞は、大人になってからは減る一方だと考えられてきました。
ところが、数年前に発表された国際論文で、ウォーキングなどの適度な有酸素運動により、神経細胞の再生を促す神経栄養因子が分泌され、脳の神経細胞が増えると立証されたのです。
さらに日本でも、国立長寿医療研究センターの研究により、運動と頭の体操を同時に行うことで、軽度認知障害(MCI)の人の認知機能が改善することが確認されました。
ウォーキングにより、脳の海馬の血流が増加することもわかっています。
海馬は、新しい出来事を記憶する場所です。
認知症の最大の特徴は、この新しい出来事を忘れてしまうことにあります。
ですから、海馬の血流が増えるウォーキングは、認知症の予防・改善において、非常に重要なのです。
このように「歩いてくださいね」というと、「じゃあ明日から走ります!」と息巻く患者さんが、必ずいらっしゃいます。
しかし、年配のかたのランニングは、私はお勧めしません。
ランニングをすると、心拍数が急上昇します。
特に年配のかたは、140を超えると、不整脈や狭心症を発症しやすくなります。
また、ランニングは、かかとやひざに、体重の約3倍の負荷がかかるため、年配のかたにはお勧めできないのです。
そして、東京都健康長寿医療センターが行った、大規模な身体活動調査「中之条研究」では、認知症には「1日5000歩、そのうち速歩きが7.5分」の歩き方が、最も効果的だと判明しました。
つまり、認知症対策のウォーキングは、「心拍数が乱れない程度のスピードで、1日5000歩」を心がければいいのです。
スピードの目安は、「鼻歌が歌える程度」がちょうどいいでしょう。
そして、慣れてきたら、何かをしながら歩く「ながら歩き」をすると、より効果的です。
「計算をしながら歩く」「川柳を詠みながら歩く」など、自分に合った歩き方を見つけてください。
もちろん、「景色を見ながら歩く」ことも、りっぱなながら歩きです。
私は、数多くの患者さんを診てきましたが、歩かない人ほど、認知症になる人が多いと感じています。
ですから、歩くのが嫌いという人も、まずは1分でもいいので、歩いてください。
そして、少し奮発していい運動靴を購入するなど、歩くモチベーションを高める工夫をしてみてはいかがでしょうか。
ポールを使えば転びにくい

徘徊は止めずに同行して歩こう!
足腰が弱い人や、要支援・介護の認定を受けている人も、歩くことをあきらめないでください。
少しでも足を動かさないと、ますます認知機能は低下してしまいます。
例えば、転倒が怖い人、ひざや股関節が悪い人には、2本の杖を使って歩く、ポールウォーキングがお勧めです。
ポールは、スポーツ用品店などで購入できます。
また、外を歩くのが怖いという人は、家の中を歩きましょう。
段差や階段に注意すれば、まさに頭を使いながら歩いていることになります。
家の中を歩くことも難しい場合は、イスに座って足踏みをするだけでも効果大です。
ちなみに、「アルツハイマー型認知症」の周辺症状として多く見られるのが、「徘徊」です。
これを多くの人は心配しますが、私は、認知症改善のためには、徘徊を止めるべきではないと考えています。
部屋に閉じ込めるほうが、一気に認知症を悪化させるからです。
とはいえ、1人だと歩いている途中で迷子になってしまう可能性があるので、誰かが同行して歩いてほしいと思います。
なお、糖尿病の人は、認知症リスクが約2倍に高まるといわれています。
また、メタボの人は認知症になりやすいという研究結果も、次々と発表されています。
この点からも、歩くことは認知症対策に有効ですが、加えて食事にも気をつける必要があるでしょう。
ウォーキングと、糖質を減らした食生活を実践している認知症の人は、夜もよく眠れるようで、皆さんニコニコと、自然な笑顔になっていきます。
これは、脳内で「幸せホルモン」と呼ばれる神経伝達物質・セロトニンが多く分泌されている、まさに「壮快」な状態。
記憶は低下していても、いたって元気に過ごしている人が、たくさんおられるのです。
ぜひ皆さんも、毎日歩いて、認知症の予防・改善に役立ててください。