全身の血流が悪いと頭皮に悪影響を及ぼす
私は、皮膚科の専門医として、薄毛の治療に当たっています。
このようにいうと、なかには、「なぜ皮膚科専門の医師が毛髪を診るのか」と不思議に思われるかたがおられるかもしれません。
しかし、これは不思議なことではないのです。
毛髪というのは、つめと同じく本質的には皮膚の一部です。
単に、皮膚の上に毛が生えているのではありません。
皮膚が、形を変えて分化したものが毛髪なのです。
ですから、皮膚科の医師が、皮膚の一部である毛髪の状態を診ることは、いわば当然のことといえます。
そこで今回は、皮膚科医として、薄毛治療で忘れられがちなポイントについてお話しします。
まずいえるのは、近年、「薄毛で悩む若い女性が増えている」ということです。
女性の薄毛には、女性ホルモンの減少によって起こる「女性型脱毛(FAGA)」や、ストレスによって起こる「円形脱毛症」などがあります。
そして、いずれの場合でも、冷え症に悩んでいる傾向が強いのです。
そこで、そうした患者さんに冷え症を改善する漢方薬を処方すると、同時に薄毛が改善するケースが多くあります。
近年、血流改善が薄毛の解消において重要であることは、いよいよ確かなものとなっています。
医学的に発毛効果があると認められている「ミノキシジル」という薬品は、血流を増強する作用によって、発毛を促します。
そこで、冷え症によって全身の血流が悪くなることが、頭皮にも悪い影響を及ぼしているとすればどうでしょう。
冷え症を解消して血流がよくなれば、薄毛を改善するのに役立つことは、間違いありません。
高い金額を費やしてシャンプーを買ったり、サロンに通ったりする前に、まずは冷え症を改善することが重要です。
毎日必ず湯船につかる、腹巻きを使うようにするなど、できることから始めてみましょう。
冷え症を改善すると、薄毛も改善するケースが多くあるという

減塩に留意しながら和食中心の食生活を!
冷え症と並んで、薄毛解消において重要なのが、内臓の状態です。
皮膚は、内臓の鑑かがみといわれています。つまり、内臓の不調はそのまま皮膚に現れるのです。
皮膚の一部である髪について、同じことが当てはまるのはいうまでもありません。
野生動物は体が泥だらけで汚くても、毛は抜けません。
しかし、不健康だとたちまち毛並みが悪くなったり、毛が抜けたりします。
人間もそれと同じです。
特に重要なのが、腸の状態です。
薄毛治療にどんなにお金を費やしても、腸が不健康なままでは頭皮が改善することはありません。
腸の状態は、それほど頭髪にとって重要です。
では、腸の状態を整えるために、何を食べればよいのでしょうか。
最新の医学研究によって、腸の健康・不健康を決めるのは、腸内細菌であることが明らかになっています。
私たちの腸内には、多種多様な腸内細菌が棲せい息そくしています。
顕微鏡で腸の中をのぞくと、それらはまるで植物が群生しているお花畑のように見えることから、「腸内フローラ」と呼ばれるようになりました。
腸内には、善玉菌、悪玉菌、そのどちらにも属さない日和見菌があって、勢力争いをしています。
これを、善玉菌=2割、悪玉菌=1割、日和見菌=7割のバランスに保つことが、理想的な腸内フローラとされています。
そこで、積極的に摂取するべきなのは、善玉菌を増やす食物繊維などを多く含んだ食品です。
日本人の腸内細菌は、長い年月をかけて日本の食事で育ってきたものです。
したがって、基本的には和食がお勧めです。
日ごろから和食を心がけ、食物繊維をたくさんとることから始めましょう。
ちなみに、韓国の人は辛い物を食べても平気ですが、日本人が同じことをすると、たちまちおなかを壊します。
これはすなわち、「日本人の腸内細菌が韓国の料理に慣れていない」ことを示しています。
くり返し強調しますが、日本人の持っている腸内細菌には、なじみのある和食が最適なのです。
ただし、和食は塩分の濃い物も多いので、この点だけは注意が必要です。
なぜなら、塩辛い物ばかりを食べると、腎臓を傷め、全身の老化を早めて脱毛を引き起こす危険性があるからです。
できるだけ減塩するよう留意しながら、和食中心の食生活を送ってください。
腸内フローラの状態を判断するには、「形のキレイなバナナ便が出ているかどうか」でわかります。
もし、いい状態の便が出ていないとすれば、あなたの腸内フローラは望ましい状態ではありません。
髪の毛ばかりではなく、便の状態にも気を配ってください。
今回お話ししたような、冷え症の解消、腸内フローラの改善といったことは、女性に限ったことではありません。
男性についても、全く同様のことが当てはまります。
若々しい髪を持った人は、健康で長生きできるといえます。
実践できることから始めてみてはいかがでしょうか。
解説者のプロフィール

荒浪 暁彦
あらなみクリニック総院長。慶應義塾大学漢方医学センター非常勤講師。浜松医科大学卒業後、同大皮膚科に入局。静岡市立清水病院、富士宮市立病院などを経て、現在に至る。著書に『最強!の毛髪再生医療』、『さらば薄毛、最強の自毛復活プロジェクト!』、『人の寿命は「肌」でわかる、「腸」で決まる』(すべてワニブックス)などがある。
●あらなみクリニック
http://www.bihada-clinic.com/