解説者のプロフィール

富所敦男
東中野とみどころ眼科院長。
1989年新潟大学医学部を卒業し、東京大学医学部眼科学教室入局。
東京大学医学部眼科講師を経て2011年から現職に。
日本緑内障学会評議員も務める。
●東中野とみどころ眼科
http://www.tomidokoroganka.net/
緑内障は必要以上に怖がることはない
緑内障は怖い病気──。そう思っている人が、多いのではないでしょうか。おそらく、緑内障=失明、というイメージが強いからでしょう。
確かに、日本人の中途失明の原因・第1位は緑内障です。しかし、早期に発見して、適切な治療を受ければ、緑内障と診断されても、ほとんどの人が失明を免れます。ですから、必要以上に怖がることはありません。
緑内障をひと言で言うと、視神経が障害されて、視覚に異常をきたす病気です。
視神経は、目と脳をつないでいる神経です。外から入った光は網膜の上に像を結び、電気信号に変わります。この電気信号が視神経を通って脳に伝わり、初めて物が見えるのです。
視神経は100万本の神経線維の束です。これが障害されると徐々に視神経が減っていき、減った部分が見えづらくなってきます。
その結果、視野の一部が欠けたり、視野が狭くなったり、視力が低下するなどの症状が出てきます。
なぜ、視神経が障害されてしまうのか、その原因は不明です。しかし原因の一つとして考えられているのが、眼圧です。
眼圧は、目の中(眼球)の圧力のことです。目の中では常に一定量の水(房水)が作られ、隅角という出口から流出しています。
房水が作られる量と出て行く量が同じなら、眼圧は一定に保たれています。ところが、作られる量が増えているのに、出て行く量が減ると、眼圧が上がってしまいます。
眼圧には、目を球形に保ったり、目の中の血流をスムーズにする働きがあります。したがって、一定以上は必要です(基準値は10〜21mmHg)が、これより高くなると、視神経が圧迫されて視野に障害が出てきます。
しかし、眼圧が高くなくても起きる正常眼圧緑内障もあるので、眼圧以外にも原因があると考えられています。
その原因として、「視神経が弱い」「血流が悪い」などが挙げられていますが、確かな証拠はありません。
緑内障は、眼圧が影響する急性緑内障と、眼圧の影響が少ない慢性緑内障に分けられます。
・急性緑内障(閉塞隅角緑内障)
房水の出口である隅角が閉塞し、急激に眼圧が上がってしまうものです。目の痛み、頭痛、吐き気などの急性緑内障発作を起こすことがあり、治療が遅れると失明することがあります。
・慢性緑内障(開放隅角緑内障)
隅角は開いているのに、房水の流れが悪くなって眼圧が上昇するものです。眼圧の上昇は軽度で、進行もゆるやかで、徐々に視神経が障害されていきます。眼圧が正常な「正常眼圧緑内障」も、これに含まれます。

患者の7割は眼圧が正常な緑内障
緑内障で一般的に多いのは、慢性緑内障で、特に、正常眼圧緑内障は日本人の緑内障の約7割を占めます。
慢性緑内障は、症状がかなり進行しないとほとんど自覚症状がありません。したがって緑内障を早期に発見するには、定期的な検査が必要なのです。
検査は、眼圧検査に加えて、眼底検査、視野検査を行います。最近は三次元画像解析装置(OCTなど)が導入され、視神経乳頭のわずかな陥凹や網膜の状態がわかるようになり、ごく初期の緑内障でも診断できるようになりました。
治療は、慢性緑内障の場合、眼圧を下げる治療が中心です。たとえ眼圧が正常でも、眼圧を下げると、視神経が減りにくくなるからです。
基本は、薬(点眼や内服)による治療です。それでも十分下がらなかったり、視野障害が進行するような場合は、レーザー治療で隅角の目詰まりを防ぐか、手術で房水の新しい出口を作って、房水の排出を改善して眼圧を下げます。
急性緑内障は、急激な眼圧の上昇を防ぐことが大事です。そのために、レーザーで光彩を切って隅角を広げるレーザー光彩切開術を行います。
また白内障の患者さんは、白内障の手術を受けると、急性緑内障を予防できます。手術で交換するレンズは水晶体より薄いため、隅角が開いて房水が流れやすくなるからです。一度手術をすると、一生、急性発作を予防できます。
こうして治療を受けても、減った視神経は元に戻りません。治療を続けて、これ以上、視神経を減らさないようにすることが大事です。
緑内障は、40歳以上の20人に1人がかかっているといわれるほど頻度の高い病気です。早期発見が大事なので、40歳を過ぎたら、一度は検査を受けてください。それで異常がなければ、あとは数年に一度の検査でも大丈夫です。