解説者のプロフィール
脳の指令が伝わらないと体は思うように動かない
京都府亀岡市では、2011年より、介護予防・健康維持向上を目的とした体操教室を開催しています。
教室数は現在、亀岡市内で11ヵ所。
活動は市外にも広がり、京都府下で全22ヵ所となっています。
そこで行われている体操の一つに、「伝わり体操」があります。
これは、私と花王株式会社とで、共同考案した体操です。
私の専門分野は、健康づくりと介護予防です。
夫の母が脳梗塞になったことで、「脳梗塞にならない運動療法」を考えたのが始まりでした。
そこから、高齢者の認知機能低下を予防する研究へと進み、認知症や生活習慣病の予防を目的とした、数々の体操を開発しました。
約10年前から、地域の人を対象にした体操教室も開催しています。
伝わり体操は、「脳の指令を筋肉に伝わりやすくする体操」という意味で名付けました。
人間の体は、脳からの「動け」という指令が、運動神経を経由して筋肉に伝わることによって動きます。
いくら筋肉を鍛えても、この伝達機能が不十分だと、筋肉を動かすことができません。
神経と筋肉をつなぐ「モーターユニット」は、加齢とともに機能が低下し、たとえるなら接触不良を起こすようになります。
すると、脳からの指令が筋肉にうまく伝わらず、思うように体が動かせなくなるのです。
「テキパキ動ける!」「物忘れが減った!」
モーターユニットの機能を改善するには、一度に2ヵ所以上の部位を動かすことが効果的。
「こう動かしたい」という意志どおりに体を動かすのは、最初はモタモタします。
でも、くり返すうちに、思いどおりの動きができるようになります。
これが、神経と筋肉の伝わり(モーターユニットの機能)が向上したということです。
また、筋肉をたくさん使うことは大脳を、手足の多様な動きを身につけることは小脳を働かせます。
つまり、脳トレになるのです。
筋力トレーニングで筋肉を増やすには時間がかかりますが、神経伝達機能は、早ければ1週間程度で改善します。
「テキパキ動ける」「つまずかない」「思いどおりの動作ができる」といった変化を実感できるでしょう。
伝わり体操は、高齢者でも無理なく楽しむことができ、全身の血流がよくなって、運動後には爽快感も得られます。
毎日続けられるように、「歩くくらいのテンポで、1分間行う」という無理のない設定で考えました。
1分間という短時間でも、全身をまんべんなく動かすので、体がポカポカしてきます。
この体操を続けることで、敏捷性のテスト成績が向上したという研究データもあります。
伝わり体操のやり方は、次項を参照してください。
動画投稿サイト「YouTube」で「伝わり体操」と検索すれば、動画を見ることもできます。
伝わり体操は、最低1日1回行いましょう。
できる人は、何回行ってもけっこうです。
ただし、やり過ぎると、足がつったり、疲れが残ったりするので、あまりがんばり過ぎないように。
慣れてきたら、テンポを速くしてください。
座って行ってもかまいません。
音楽に合わせ行うのがお勧めです。
リズムに合わせて動くことも、神経伝達機能を刺激するからです。
体操教室では、『カンカンポルカ(天国と地獄)』を使っています。
『うさぎとかめ』や『365歩のマーチ』、水戸黄門のテーマ曲など、歩くくらいのテンポの曲がいいでしょう。
体操教室の参加者の平均年齢は、68歳くらいで、最高齢は86歳。
頭も体もシャッキリしています。
「頭がさえてきた」「車の運転がスムーズにできる」「物忘れが減った」など、効果を実感する声も多く聞かれます。
高血圧、高血糖、腰痛、ひざ痛、肩こり、便秘が改善した人もいます。
なにより、全員が笑顔でいきいきとしています。
皆さんもぜひ、ご自宅でやってみてください。
伝わり体操のやり方
歩くくらいのテンポの音楽に合わせて、A→B→A→B→C→D→C→D→Eの順に行う(イスに腰掛けて行ってもよい)
*動画投稿サイト「YouTube」で「伝わり体操」を検索すれば動画が見られる。
今回、紹介したのは基本のレベル1。
「YouTube」では、レベル1からレベル3まで見ることができる。




吉中康子
京都教育大学卒業後、京都府立医科大学大学院保健看護学研究科修了。専門は体育方法学、応用健康科学。近畿クリケット協会理事長。日本体操学会副会長。