体がかたい人は動脈硬化の疑いあり!
私たちの体を構成する器官のうち、その多くは、加齢によって一度衰えてしまえば若返ることはできません。
しかし、なかには例外もあります。
適切な方法を用ることで、衰えを防ぎ若返らせることができる器官の一つが、血管です。
今までは、動脈硬化が進んでかたくなった血管を、やわらかくすることは不可能だと考えられてきました。
しかし、研究の結果、それが可能であると実証されています。
では、いったい、どのようにすれば、かたくなった血管を若返らせることができるのでしょうか。
その有力な方法の一つが、ストレッチです。
そもそも、体がかたい人は血管もかたくなっていることが、最近の研究結果で明らかになっています。
例えば、前屈ができないほど体のかたい人は、血管もかたいのです。
これは、若い人からお年寄りまで共通する傾向といえます。
このことは、あるテレビ番組でも紹介して大きな反響がありました。
では、体のかたい人が柔軟性を増すストレッチをしたら、血管をやわらかくすることができるのでしょうか。
血管のかたさは、「脈波伝播速度」という指標でも測ることができます。
これは、心臓が血液を押し出したことで起こる波が、血管の中を伝わる速さです。
この数値は、動脈がやわらかいと波が緩衝(衝撃をゆるめ和らげること)されやすくなるため、遅くなります。
逆に、血管の動脈硬化が進んで動脈がかたくなると、速くなります。
いわゆる「血管年齢」も、この脈波伝播速度によって測定評価ができます。
ストレッチを行った足の血管だけがやわらかくなった
さて、私たちの研究グループは、ストレッチをした足と、ストレッチをしなかった足とで脈波伝播速度を比較しました。
すると、1回ストレッチを行った足は、確かに動脈がやわらかくなり、行っていない足は、変化がありませんでした。
つまり、ストレッチを行った足の血管だけがやわらかくなって、若返ったといえるのです。
なぜ、このような結果が得られたのかについては、ストレッチが発揮する二つの効果があると考えられています。
それは、血管を引き伸ばす効果と、血流を改善する効果です。
ストレッチをすると、筋肉といっしょに血管も引き伸ばされます。
これによって、血管の内側にある「血管内皮細胞」が刺激され、そこから血管をやわらかくするホルモンが分泌されるのです。
また、ストレッチ中よりも、ストレッチ後に血管に流れる血液量が増加します。
したがって、ストレッチをくり返し行うことによって、血管をやわらかくするホルモンが分泌されるのです。
この一連の動きによって、血流が促されます。
ストレッチの効果は、確かに即効性がありますが、持続的なものではありません。
いったんやわらかくなった血管も、すぐに元に戻ってしまいます。
だからこそ、毎日続けていくことが肝心です。
また、やわらかくなるのは、ストレッチした部分だけです。
できるだけ体の多くの部分の血管の、ストレッチを行うことが重要です。
下半身の血管を伸ばして全身の血流を改善する
以上の点を踏まえ、私が考案した「血管若返りストレッチ」をご紹介しましょう。
これは、下半身の五つの部位をストレッチすることで、血管を伸ばして、血流を改善するものです。
刺激する部位は次の五つです。
❶太ももの前側(特に鼠径部の血管)
❷太ももの裏側
❸ひざ裏
❹ふくらはぎ
❺すねと足の甲
下半身には、太い血管が通っていますが、この五つの部位をストレッチすると、効果的に刺激できます。
それに、下半身は、心臓から送られた血液がうっ滞しやすいところです。
下半身の血流を促すことで、全身の血行改善に役立てられます。
それぞれの部位のストレッチのやり方は、下記画像を参照していただくとして、ここでは、ストレッチに関する注意点にふれておきましょう。
確実に効果を上げるためには、ある程度の時間をかけて引き伸ばし、その状態を保つことが重要です。
今回は、最低20秒という時間を設定しています。
もちろん、高齢者のかたや体操や運動に慣れていないかたは、20秒でもつらいかもしれません。
そういう場合、10秒から始めてみてください。
慣れてきたら、時間を延ばしていきましょう。
また、ストレッチを行うとき、呼吸を止めてはいけません。
多くのかたが筋肉を伸ばそうとしたとき、息を止めてしまう傾向があります。
これは、血圧上昇を招くので、ご注意ください。
ストレッチでは、決して無理をせず、自分のできる範囲で、気持ちよく筋肉を伸ばすことが大事なのです。
もちろん、ストレッチによって、血管をやわらかくしておくことは、高血圧の解消に大いに役立ちます。
きちんと毎日続けた分だけ効果が現れます。
実際にやってみると非常に気持ちがいいはずです。毎日の習慣にしてください。
血管若返りストレッチのやり方
まず、太ももの前側と裏側

次に、膝、ふくらはぎ、すねと足の甲の順に

解説者のプロフィール

家光素行
1996年、川崎医療福祉大学医療技術学部健康体育学科卒業。1998年、東北大学大学院医学系研究科修士課程修了。2003年、筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。その後、日本学術振興会特別研究員、筑波大学大学院人間総合科学研究科(体育科学系)助手、環太平洋大学体育学部体育学科講師などを経て、2014年より現職。