ハチミツとコーヒーのセキ止め効果は立証済み
私は、呼吸器を専門に診る医師として、呼吸器にかかわる民間療法について調べたことがあります。
民間療法で、セキ止めに役立つといわれている食品はいろいろありますが、残念ながら、確かに効くといえる食品は、ほとんどありませんでした。
大半は、効果ありと判断できるエビデンス(科学的根拠)が見つからなかったからです。
しかし、そのなかで、きちんとした検証がなされている食品もありました。
その一つが、ハチミツです。
まずは、アメリカのペンシルバニア州立大学の研究です。
カゼの症状がある105名の小児を対象に、就寝30分前に、「ハチミツを投与した場合」と、「デキストロメトルファン(商品名=メジコン)を服用した場合」と、「何もしなかった場合」とで、セキの症状がどうなるかを比較・検討しました。
その結果、「ハチミツを投与した」グループが、最も大きく症状が改善したと報告されています。
次に、イランで行われた研究報告です。
2~5歳の小児を三つのグループに分け、ハチミツ、デキストロメトルファン、ジフェンヒドラミン(抗アレルギー薬)をそれぞれ投与した際の、セキの頻度や重症度、睡眠の質を調べました。
すると、この研究でも、薬よりもハチミツのほうが、それぞれ改善したといいます。
ハチミツは、昔からのどにいいといわれてきましたが、ハチミツにセキ止め効果が確かにあることが、これらの論文からわかるのです。
ハチミツには、優れた抗炎症作用、抗酸化作用があります。
特に抗炎症作用により、のどの炎症が抑えられるため、セキが軽くなると考えられます。
ハチミツ以外では、コーヒーにも、セキの予防効果があることが報告されています。
コーヒーのカフェインに気管支拡張作用があり、それがセキの発作を楽にしてくれるのです。
1980年代にイタリアで行われた研究によると、コーヒーを1日3杯以上飲む人は、全く飲まない人に比べ、ぜんそくを発症するリスクが28%も低くなったそうです。
さらに、ハチミツとコーヒーをいっしょに摂取する研究もありました。
ハチミツ20.8gと、コーヒー粉末2.9gを混ぜてペースト状にしたものを、1回7.9g、1日3回服用すると、ステロイドや、グアイフェネシン(セキ止め薬)と比べ、セキの自覚症状が楽になったのです。
ハチミツ入りコーヒーを飲む場合、カフェインの覚醒効果を考えれば、夕食後に飲むのがいいでしょう。
また、ハチミツだけをなめるのであれば、寝る前でもかまいません。
どちらもハチミツの量は、ティースプーン1~2杯で十分でしょう。
つらいセキが楽になる!

カゼのようでただのカゼではないセキに要注意!
もし、現在お悩みのセキが長く続いている場合、カゼのように見えて、実はそうではないケースがあります。
見分けるポイントは、三つあります。
①セキが2週間以上続いている
②眠れないほど激しいセキが3日以上続いている
③ただのカゼと違うような自覚がある(特に高齢者の場合)
普通のカゼの大半は、ウイルスによって起こります。
ウイルスは増殖力が弱く、2週間もしないうちに自然と消滅します。
つまり、①の場合は、普通のカゼではなく、肺炎、セキぜんそく、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの可能性があります。
セキぜんそくは、気道が過敏になった状態で、ちょっとの刺激で反応し、激しいセキが起こります。
近年非常に増えている症状です。
COPDは、主にタバコによって起こり、徐々に肺の機能が低下していく病気です。
当然、肺結核や肺ガンなどの重症疾患は、検査をすれば発覚します。
それらの病気ではないのにセキが続く場合は、セキぜんそくやCOPDが疑われるのです。
いずれの症状も、早めに専門医に相談しましょう。
②の場合も、早急に病院を受診してください。
セキぜんぞくの発病初期か、マイコプラズマ肺炎や百日咳など、細菌による感染症の可能性があります。
③は、特に高齢者に注意してほしいポイントです。
肺炎になると、通常38度以上の高熱を伴いますが、高齢になると、熱があまり上がらなくなります。
セキ込む回数も減り、明らかな異常が目に見えた形で現れないため、気づかないうちに、肺炎が重症化する恐れがあるのです。
「体がひどくだるい」「食欲がない」「尿失禁」などといったサインを見逃さず、いつものカゼと違うと感じたら、すぐに病院を受診しましょう。
このような重症の場合を除き、つらいセキを軽くしたいかたには、ぜひハチミツコーヒーをお勧めしたいと思います。
解説者のプロフィール

大谷義夫
池袋大谷クリニック院長。1989年、群馬大学医学部卒業後、九段坂病院内科医長、東京医科歯科大学呼吸器内科医局長、同大学呼吸器内科兼任睡眠制御学講座准教授、米国ミシガン大学留学などを経て2009年に開院。医学博士。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医、日本アレルギー学会専門医・指導医、日本内科学会総合内科専門医。新聞、テレビなどメディア出演も多く、呼吸器内科のスペシャリストとして知られる。
●池袋大谷クリニック
https://www.otani-clinic.com/