解説者のプロフィール
脂質が増えても血糖値はほとんど上昇しなかった
私のクリニックでは、糖尿病の治療の一環として、糖質制限食を推奨・指導しています。
そこで、私が患者さんにお勧めしている食品が、ナッツ類、そしてピーナッツです。
糖質制限食を取り入れたのは5年前からですが、それ以前は、日本糖尿病学会が推奨している、カロリー制限食を指導していました。
炭水化物とたんぱく質には、1gあたり4kcal、脂質には1gあたり9kcalが含まれています。
このため、カロリー制限食を始めるときは、最もエネルギーが高い脂質を控えることが近道になります。
しかし、脂質を抑えた食事は、なんとも味気ないものです。
パサパサして旨味がなく、さらに腹持ちもよくありません。
そのため、患者さんが長続きしないのです。
日本糖尿病学会が提言するように、血糖値を上げたり、太らせたりする犯人は、ほんとうにエネルギーなのでしょうか。
調べてみると、そんな研究も根拠も見当たりません。
にもかかわらず、「カロリー制限食をしても血糖値が下がらない」→「では薬を飲みましょう」という、おかしな状況が生まれているのです。
カロリー制限食に疑問を抱いた私は、試しに二つのレシピを作って、糖尿病の患者さんに食べてもらいました。
一つは、脂質を控えた、いわゆる定番のカロリー制限食。
もう一つは、糖質(炭水化物)を極力減らし、たんぱく質と脂質を主体にした糖質制限食です。
どちらも、合計500kcalになるように作りました。
すると、食事の前後で血糖値を検査すると、糖質制限食のほうは、血糖値がほとんど上昇しませんでした。
一方、カロリー制限食のほうは、血糖値が200mg/dLを超えるほど上昇したのです(基準値は110mg/dL未満)。
カロリー制限食が血糖値の抑制に役立っていないことは、明白でした。
こうして私は、カロリー制限食から糖質制限食の指導に切り替えたのです。

インスリンの過剰分泌を抑え空腹感も減る!
糖質制限食の基本は、血糖値を上げる糖質(炭水化物)を減らし、減らした分をたんぱく質と脂質で補うことです。
ピーナッツには、たんぱく質、そして、良質な脂質が豊富です。
主な成分をご紹介しましょう。
まずは、オレイン酸です。
オリーブオイルやアーモンドにも多く含まれています。
オレイン酸は、LDL(悪玉)コレステロール値を下げ、動脈硬化を防ぐため、糖尿病や高血圧をはじめとした生活習慣病の予防・改善に役立ちます。
次に、α-リノレン酸は、エゴマ油やクルミなどにも含まれる必須脂肪酸です。
中性脂肪を減らして、HDL(善玉)コレステロールを増やす働きがあります。
これらの脂質がバランスよくとれるのが、ピーナッツの特長です。
また、ビタミンやミネラル、食物繊維なども多く含まれています。
脂質には、動物性と植物性の2種類があります。
ハーバード大学の研究では、動物性脂肪をとり過ぎると、ガンや心筋梗塞、脳卒中になりやすいというデータがあります。
いくら糖質制限食で糖尿病が改善しても、ほかの病気になっては元も子もありません。
糖尿病に有効なうえ、健康長寿や老化予防に役立つ脂質をとることが重要です。
ですから、良質な脂質は、ピーナッツのような植物性の物からとるべきなのです。
また、近年、腎硬化症という腎臓病が増えています。
これは、腎臓の血管が動脈硬化を起こして、腎臓の機能が低下する病気です。
動脈硬化に有効なピーナッツを食べ続け、しなやかな血管になれば、腎硬化症の予防にも役立つでしょう。
ちなみに、糖質を減らすと、脳のエネルギー不足になるのではないか、と不安になるかたもいますが、それは間違いです。
私たちの体は、脂質を分解して脳のエネルギーに変換できます。
糖質を減らしたからといって、脳はもちろん、ほかの臓器にも影響はありません。
ピーナッツを食べる量の目安は、1日20~30粒です。
できれば、薄皮ごと食べるのが理想です。
薄皮に多く含まれるポリフェノールには、体の老化を防ぐ、優れた作用があります。
小腹が空いたときに食べると、より効果的です。
腹持ちがよく、インスリンの過剰分泌を抑え、空腹感が減るので、メタボのかたにもお勧めです。
実際、私のクリニックの患者さんに、糖質制限食やピーナッツを食べるよう指導してから、糖尿病やメタボが改善するなど、すばらしい成果が出ています。
ぜひ皆さんも、生活習慣病対策として、ピーナッツを食べてみてはいかがでしょうか。
※食べて湿疹が出たり不調を感じたりした場合は、ピーナッツアレルギーの可能性がありますので、摂取を控えてください。
小早川裕之
小早川医院院長。医学博士。日本内科学会認定総合内科専門医。日本透析医学会専門医。「元気で長生き」をモットーに、薬物療法だけに頼らない病院を目指し、緩やかな糖質制限食を核とした糖尿病などの生活習慣病や動脈硬化の予防・治療、家族のケアを考慮した認知症治療に力を入れている。
●小早川医院
http://www.kobayakawa-dm.com