解説者のプロフィール
肩こりを治すとめまいまで改善することが多い
「立ち上がるときにグルグルと目が回る」「歩くと体がふらつく」といった、めまいの症状にお悩みのかたは多いのではないでしょうか。
めまいの種類は、さまざまあります。
しかしその原因は、今まで主に、耳の異常によるもの、目の異常によるもの、脳の異常によるものの三つに大別されると考えられてきました。
私たちはふだん、耳や目などの器官、手や足などの部位から知覚したそれぞれの情報を、脳の中枢神経が統合し、一つの平衡感覚として感じ取っています。
このプロセスのどこかに問題が起きたときに、めまいが生じるのです。
例えば、耳には内耳という器官がありますが、ここに問題があれば、メニエール病のようなめまいが発生します。
また、脳梗塞などによって、脳の中枢神経に問題が生じても、めまいが起こる場合があります。
しかし私は、今までの治療経験から、前述した三つの原因以外にも、めまいが起こるケースがあると考えています。
それが、体感覚の異常が原因で起こるめまいです。
体感覚とは、触覚や運動機能、体のバランスを指すと考えてください。
めまいというと、たいてい耳鼻科領域の症状と考えられているため、見逃されがちだったのです。
肩こりのために来院されたかたのなかには、同時にめまいの症状を訴えるかたもいらっしゃいます。
そういったとき、肩こりといった主訴を治療すると、めまいまで改善することが多くありました。
耳鼻科で治療を受けても、めまいが改善しない人がいますが、こうした人たちのめまいも、体感覚の異常によるものが一定数あるのではないでしょうか。
特に、めまいのうちで最も罹患者が多いとされる良性発作性頭位めまい症は、この体感覚の異常が原因の場合が多いと考えています。
なお、良性発作性頭位めまい症は、ベッドから体を起こすときや上を向いたりするときなど、急に頭を動かす動作で起こるものです。
かたくなっている耳の上の筋肉をほぐす
肩や首に重度のコリがあったり、腰などにひどい痛みを抱えていたりすると、体感覚に異常が生じ体のバランスがくずれます。
当然、平衡感覚を知覚する機能にも弊害が現れるでしょう。
そうした場合、まずはコリや痛みの治療をするのが先決です。
そのうえで、耳の上あたりに位置する側頭筋と呼ばれる場所を「顔の横さすり」でほぐすといいでしょう。
体感覚の異常によるめまいの場合、この側頭筋がかたくなっているケースが多く、ここを手でほぐすことでめまいの予防・改善効果を望めます。
顔の横さすりのやり方は、簡単です。
拳を握り、第二関節を両耳のすぐ上に当ててください。
そして、「痛気持ちいい」と感じられる程度の強さで5秒ほど押します。
細かく上下に揺らしながら押すといいでしょう。
その周りを押して気持ちがいいと感じられる場所があれば、そこも同様に押してほぐしてください。
ただし、やり過ぎは禁物です。
強く押し過ぎたり、長時間行ったりすると、かえってよくありません。
あくまでも適切な強さ、適切な時間で刺激しましょう。
実際に、この方法で症状が抑えられたケースを紹介します。
60代の女性Aさんは、もともと肩にひどいコリがあるということで、私が働いている治療院に来院されました。
話をうかがうと、めまいにもお悩みとのこと。
朝起きるときに、グルグルと目が回るそうです。
そこで、施術とともに、側頭筋をほぐすための顔の横さすりを指導しました。
Aさんはめまいがひどいときには、一人で通院できないこともありました。
しかしそんなときに自分で側頭筋をほぐすと、その場でめまいが和らぐそうです。
おかげで楽に通院できるようになり、顔の横さすりと併せて治療を行うことで、みごとめまいは完治に至りました。
いずれにしても、めまいが起こった場合には、まず耳鼻咽喉科などを受診し、その原因を調べることが肝心です。
聴力障害や頭痛、顔のしびれなどを伴う場合には、ほかに原因があると考えられます。
そのうえで、体感覚の異常が疑われる場合は、この顔の横さすりを試してみてください。
顔の横さすりのやり方

1984年生まれ。2007年、関西鍼灸大学(現関西医療大学)鍼灸学部卒業。2009年、関西医療大学大学院保健医療学研究科修了。現在、関西医療大学保健医療学部助教。