高血圧は「絶対減塩」ではない
健康診断で血圧が高く測定されると、「食事の塩分を控えるように」と指導を受けることがあるでしょう。
確かに、塩分濃度の高い食事を過剰にとると、浸透圧の関係で血管内に水分が取り込まれ、血液量が増えます。
すると、血管への圧力が高まるので、「高血圧」となるわけです。
ただ私は、一概に「高血圧には絶対減塩」とはいえないと考えています。
夜は「塩分」を排出しやすい!
その理由はのちほど説明するとして、まずは減塩のコツをお話ししましょう。
皆さんは、時間栄養学という言葉をご存じでしょうか。
私たちの体には「体内時計」が組み込まれており、ホルモンや酵素の分泌など、さまざまな生体リズムを調節しています。
時間栄養学とは、私たちの生体リズムに即して考えられた栄養学です。
時間栄養学によって、「何をどのように食べるべきか」に加え、「いつ食べるべきか」がわかるようになってきました。
減塩についても、体内時計を勘案すれば、より効果的・効率的に行うことができるのです。
同じ量の食塩でも、排泄されやすい時間帯にとれば、血圧への影響を抑えられます。
そこで私たちは、塩分の排出能力の高い時間帯を調べるため、次のような実験を行いました。
健康な女子大学生6名に、1食当たり10gの食塩を含む「高塩食」を、1日1回とってもらう実験です。
1日目は朝7時、2日目は昼12時、3日目は夜6時に、同じ内容の高塩食をとってもらい、尿に含まれる塩分量を測定したのです。
すると、食塩(塩素とナトリウム)の尿排泄量は、夕食に高塩食をとった場合がいちばん多いという結果が得られました。
これは、腎臓でのナトリウムの再吸収を促進する「アルドステロン」というホルモンの分泌リズムに関係すると考えられます。
アルドステロンの分泌濃度は、朝に高く、夜に低くなります。
つまり、夜はナトリウムの再吸収が抑えられ、排泄されやすいということです。
減塩するなら朝と昼!夕食はおいしく味わおう
もう一つ、体内時計に関して、おもしろいことがわかっています。
朝は味覚が鈍く、夕方ごろ敏感になるのです。
ですから、料理の味をじっくり味わうには朝ではなく、夕方から夜にかけてのほうが効果的でしょう。
このような現象から、朝と昼は味に重点を置かずに減塩し、夕食は制限を緩めて、適度に塩味の利いたおいしい料理を味わうのが、理にかなっています。
食事は、栄養素をとることだけが目的ではなく、心に潤いを与える楽しみでもあります。
ですから、3食をすべて厳格な減塩食にするより、2食を減塩し、1食は緩めるほうが継続しやすいでしょう。
どうしても塩分制限をしなくてはいけない場合、以上のことを念頭に置くと、食べる楽しみをあきらめずに済みます。
規則正しい生活と適度な運動を心がけたうえで、お試しください。

むやみな減塩は消化不良を起こす
さて、私が「高血圧だからといって絶対減塩とはいえない」理由をお話ししましょう。
第1に、食塩は体に絶対必要で、必ず適量摂取すべきミネラル成分だからです。
最近、熱中症対策として、水分とともに塩分が重要であることは、ずいぶん周知されてきました。
しかし、夏を過ぎれば塩分は必要ないのかといえば、そうではありません。
塩分は、1年を通して必要です。
むやみに減塩すると、消化不良を起こし、体調をくずす危険性があるのです。
食塩は、塩素とナトリウムで構成されています。
塩素は、たんぱく質や糖質の消化を高め、ナトリウムは、消化された食べ物が小腸で吸収されるのを促進します。
つまり、塩素とナトリウムが足りなくなると、いくら栄養価の高い物を食べても、消化吸収されにくくなるのです。
消化のいい食事といえば、「おかゆ」が思い浮かぶでしょう。
おかゆには、塩分の高い梅干しやつくだ煮を添えます。
これは、消化吸収を高めることを目的とした、先人の知恵です。
高血圧の人は減塩よりまず「減量」
第2に、血圧の上昇には、食塩の過剰摂取よりも、肥満が大きく影響していることが挙げられます。
血圧が上がる際には、ACE(アンジオテンシン1変換酵素)という酵素が、血圧を上げる物質であるアンジオテンシン2を生成します。
過食や運動不足によって体重が増え、肥満になると、ACEの活性化によって血圧が上がります。
さらに、ほかにも内臓脂肪由来の成分が作動して、動脈硬化を促進したり、血栓(血の塊)を作ったり、血糖値を上げたりするのです。
この状態が続くと、糖尿病や心筋梗塞などの危険性が高まります。
ですから私は、高血圧の人に「減塩よりも、まず減量」をお勧めします。
体重を減らさず減塩しても効果が得られず、失敗するケースが多いのです。
まずは食べ過ぎに注意して、毎日少しでも運動する努力をしましょう。
そうして体重を落としても、なお血圧が下がらないときは、減塩に取り組んでください。
解説者のプロフィール
加藤秀夫(かとう・ひでお)
東北女子大学学部長・県立広島大学名誉教授
●東北女子大学
http://tojo.ac.jp/