解説者のプロフィール
子どもには短期間で顕著な効果が表れる
私が患者さんたちに勧めている家庭療法の1つが、手のひらをもむことです。
中国には「全身局部臓腑投影療法」という治療法があります。手のひらや足の裏などには、まるで全身の縮図のように、内臓に対応した部分が凝縮されており、その反応区を刺激すれば、全身の機能を高めることができるというものです。
私は、中国留学中の1988年にこの治療法を知り、気(生命エネルギー)を高める気功と組み合わせて、手もみ気功を考案しました。手には多くの経絡(気の通り道)が集中しているので、気功によって手から出る気を強くしたうえで手のひらをもむと、治療効果が高まるのです。
手もみ気功を多くの人に実践してもらった結果、さまざまな症状に効果のあることがわかりました。
精神安定効果が強く、自律神経(※)の乱れからくる不調の改善には特に役立ちます。大人にももちろん有効ですが、子どもの場合には、短期間で顕著な効果が表れることが多いようです。
※自律神経 自分の意志ではコントロールできない神経で、交感神経と副交感神経がある。体を緊張状態にするのが交感神経、リラックス状態にするのが副交感神経。
かゆみがおさまり笑顔が戻った
難治性のアトピー性皮膚炎が劇的に改善した例もあります。
小学生2年生のS君は、生後まもなくアトピーを発症し、副腎皮質ホルモン剤による治療を続けていましたが、症状は悪化する一方でした。診察してみると、手足と背中に一面、ひっかき傷やただれができて、皮膚がゴワゴワになっていました。本人は、診察中は一言もしゃべらず、体をバリバリとかいていました。
私は、漢方薬とスキンケア用の軟膏を処方し、お父さんには毎晩必ず手もみ気功をしてもらうよう指導しました。
すると1カ後、S君はかゆみがピタリと治まり、体をかきむしらなくなったおかげで皮膚もきれいになってきました。表情もすっかり変わり、私の問いかけに笑顔で答えてくれるようになっていたのです。
その後も症状は改善し、入学以来休みがちだった学校にも毎日登校できるようになり、1年後には皮膚の症状はすっかり消え、治療を終了しました。

お父さんは毎晩、子どもの手をもんだ
不登校や多動の子の自律神経の安定にも有効
子どものアトピーの原因や悪化させる要因はさまざまですが、ストレスもその1つです。このような場合のアトピーには、手もみ気功がよく効きます。
子どものストレスは、お父さんとのすれ違いの生活やお母さんとのつながりが強すぎるなど、親子関係がからんでいることが多いようです。
そこで私は、親御さんには子どもの手をもんであげるようにアドバイスしています。自然なかたちで親子のスキンシップや会話ができ、子どものストレス軽減につながるのです。手もみ気功のやり方は簡単です。
まず準備として、両手のひらをこすり合わせて温めます。こうすることで手から発する気が高まります。
次に、子どもの手のひらを両手で包むように持ってもみます。子どもは皮膚が敏感なので、強くもむのは禁物。さするぐらいの気持ちでもんでください。手相でいう生命線の周辺や、小指の下で手首寄りのふくらみを中心にまんべんなく、愛情をこめてもんであげましょう。
以上を、お風呂上がりや布団に入る前など、リラックスした状態で行います。最低でも1日1回やり、そのほか時間を見つけて実行するようにしてください。
手もみ気功は、不登校や多動など、心の不調や問題行動を抱える子どもにも、ぜひ試してみてください。
これらの問題は、自律神経の交感神経が過度に緊張しているために、心と体のバランスが取れなくなって起こっていることが少なくありません。親子で毎日、手もみ気功をしながらふれあう時間を持つことで、子どもの気持ちや症状も落ち着いてくると思います。
子どものアトピーに効く「手もみ」のやり方

重点的にもむところ
生命線の付近と小指の下で手首寄りのふくらみを中心にもむ。小指の下のふくらみは、肺に対応して不快症状の改善に効果的。生命線の付近は、消化器に対応する。アトピー体質の子どもは胃腸の弱い子が多い。

「手もみ」のやり方
❶手のひらをこすり合わせて温める
❷子どもの手のひらを優しく包むように持つ
❸親指をそろえて、指の腹で円を描くように優しくもむ。3〜5分
❹最低でも1日1回やり、その他に時間を見つけて行う
みずしま たけお 1955年、京都府生まれ。1981年、大阪医科大学卒業。1981年、長野県厚生連佐久総合病院に勤務。1989年、佐久東洋医学総合研究所医長として漢方薬、鍼灸治療に従事する。現在、水嶋クリニック院長として西洋医学をベースに東洋医学を取り入れた治療を行っている。著書に『パーキンソン病は自宅で治せる—最新治療と自宅ケアのすべて』(主婦の友社)など多数。