下剤の常用が慢性便秘の原因

年を取ると、男女を問わず、便秘に悩む人が増えます。しかも、高齢になってからの便秘は非常に治りにくいものです。
高齢者に便秘が多くなる最大の理由は、加齢の影響で腸の機能が低下するためです。人の腸管壁の各部分の弾力性を、年代別に比較したグラフを見てみましょう。
直腸、下行結腸、横行結腸、上行結腸、腸のいずれの部分も、10~20代をピークとして弾力性が失われていきます。75歳と20歳を比べると、腸壁の筋肉の弾力性は30%以上も落ちるのです。直腸だけを見れば、60歳と20歳を比べると、弾力性は約半分です。
腸壁の弾力性の低下とは、「腸の伸び縮みする力が落ちること」を意味します。つまり、腸が便を先へ押し出す蠕動運動が弱ると考えていいでしょう。
高齢になると筋肉量や骨量が衰え、運動量も落ちていきます。運動不足から筋力低下が進行すると腹筋が弱り、これも蠕動運動が弱る原因になります。
しかも高齢者は、年とともに食事量が減るため、便になる材料が減少します。
さらに、70歳以上の通院している患者さんの半数が、下剤を服用しているという報告もあります。この下剤が慢性便秘の原因となるのです。
これらの多様な要素が重なり、中高年以降のがんこな便秘が起こってきます。
朝食こそが腸の大蠕動を促す

朝食をとると大蠕動が起こる
がんこな便秘の解消策として私が勧めるのが、腸の活動を高める「腸活」です。基本は、「食事」と「運動」の二本柱です。
食事で最も大切なのは、1日三食きちんと食べること。便は食事の残りカスですから、材料がなければ作られません。便を作るためにも、適量の食事を定期的に取ることが重要です。1日3回の定期的な食事をすることで腸の働きが規則的になります。
腸の蠕動運動の中でも、排便に大きく関与する「大蠕動」は、朝が最も強く、胃腸に物が入ることによって引き起こされます。1日三食、中でも朝食をきちんと取る習慣をつけることが、朝の大蠕動の時間帯に定期的に排便を行うことにつながるのです。
1日30分のウォーキングで腸壁の弾力性を上げる

ウォーキングが副交感神経を優位にし、腸を強くする
腸活のもう一つの柱は、運動です。
加齢による腸壁の弾力性を上げるには、運動が欠かせません。ストレッチや水泳、水中ウォーキング、ヨガなどもいいですが、すぐにやれて効果的なのはウォーキングです。1日30分前後、軽く汗をかく程度のスピードで行ってください。
行う時間は、いつでも構いません。安全にはじゅうぶん留意した上で、早朝や夜間でもいいでしょう。ただし、水分補給を忘れないでください。
ウォーキングによる刺激で腸の蠕動運動が促されます。血流も促され、腸の血液循環がよくなり、新陳代謝(体内の新旧の入れ替わり)がアップします。
また、適度な運動によってリラックスすると、意志とは無関係に体を支配する自律神経のうち、体をリラックスさせる副交感神経が優位となります。腸の活動は、副交感神経が優位で活発になるのです。かつ、背筋や腹筋の衰えを防ぐだけではなく、内臓の血流を促進し、腸壁自体への運動の刺激効果によって、腸の弾力性が上がります。
雨で外を歩けない日には、家の中で「その場足踏み」をしたり、階段を使って「踏み台昇降」をしたりするといいでしょう。
便秘に悩む人は、今日から、まずは基本の腸活から始めましょう。
解説者のプロフィール

松生恒夫(松生クリニック院長)
1955年、東京都生まれ。東京慈恵会医科大学を卒業。同大学第三病院内科助手、松島病院大腸肛門センター診療部長を経て、2004年より現職。現在までに約4万件以上の大腸内視鏡検査を行ってきた第一人者。『「排便力」をつけて便秘を治す本』(マキノ出版)、『腸に悪い14の習慣』(PHP新書)など著書多数。
●松生クリニック
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