
ゴーヤの成分が肝細胞の再生を助ける
東南アジアなどでは、ゴーヤは、民間療法として傷口の治療に用いられています。
ゴーヤは、ビタミンCが豊富で、肌にいい食材としてよく知られていますが、この民間療法も、決して迷信などではありません。というより、科学的な裏づけのあることといってもよいのです。
以前、私は、実験によって、ゴーヤが皮膚の傷の再生に役立つ可能性があることを確認しました。
ゴーヤには、皮膚にできた傷の再生を助ける成分があることがわかってきたのです。
その成分とは、ビタミンCなどではなく、全く別の成分でした。
もともと私は、大学院で、肝臓の再生能力の研究を行ってきました。
皆さんもご存じのように、肝臓はとても再生能力の高い臓器です。
そして、この肝細胞の再生を助けている物質に、HGF(肝細胞増殖因子)というたんぱく質があります。
このHGFが、私の研究の中心テーマです。
実は、このHGFには、肝細胞ばかりではなく、いろいろな細胞の増殖を促す働きがあります。
胃や腸、血管、皮膚などが傷ついたとき、その組織を修復、促進してくれるのです。
つまり、手術で臓器が傷ついたときや、表皮に傷ができたときに、その傷口が治っていく過程で欠かせない物質が、HGFなのです。
私たちが行った実験では、ゴーヤから抽出した成分に、このHGFをふやす働きがあることがわかりました。
ゴーヤは免疫力を高めるたんぱく質をふやすと実験で判明
私がゴーヤに着目したきっかけは、ある学術雑誌で、ゴーヤの抽出成分についての論文を読んだことでした。
その論文によると、ゴーヤの抽出成分は、免疫力を高める「インターフェロンガンマ」というたんぱく質をふやす働きがあるとされていました。
インターフェロンガンマは、HGFと同じく、サイトカインと呼ばれる細胞間の情報伝達物質です。
それならば、ゴーヤがHGFをふやす可能性もあるかもしれないと考え、ゴーヤの抽出成分を自分でも調べてみることにしました。
そこで、私が行った実験は、次のようなものです。
ヒトの皮膚は、大きく分けると、3つの層からなっています。
上から順に、表皮、真皮、皮下組織です。実験には、皮膚の真皮にある線維芽細胞を用いました。
線維芽細胞は、真皮にあって、肌のハリや弾力をもたらすなど、非常に重要な働きをしている細胞です。
また、HGFを合成し、細胞の外に分泌する働きもしています。
まず、ヒトの線維芽細胞に、ゴーヤの抽出成分を加えたものと、加えないものを用意し、それぞれを5日間培養します。
そして、この期間中に、線維芽細胞がどれだけHGFを分泌したか、測定しました。
また、同様に、ヒトの線維芽細胞にゴーヤの抽出成分を加えたものと、加えなかったものを4日間培養します。
培養後、線維芽細胞自体がどれだけふえたか、増殖の度合いも比較しました。
その結果、線維芽細胞にゴーヤの抽出成分を加えたものは、ゴーヤを加えていないものに比べて、分泌されているHGFが10倍以上増加していることがわかったのです。
さらに、線維芽細胞の増殖の度合いについても、ゴーヤの抽出成分を加えたものは、加えていないものに比べて、約3倍増加していました。
これらの実験結果から、ゴーヤの抽出成分には、HGFの産生と、線維芽細胞の増殖を促す働きがあることが確認できたのです。
表皮と真皮の細胞がともに活性化!傷の回復効果が期待できる
そもそも、HGFには、表皮細胞を増殖させる働きがありますから、ゴーヤの抽出成分を利用すれば、表皮細胞と、真皮の中にある線維芽細胞の増殖促進作用が、ともに期待できることになります。
つまり、ゴーヤの抽出成分を加えることで、表皮と真皮の細胞がともに活性化されることになります。
そうなれば、傷の早期回復にもつながってくると考えられるのです。
これらの実験は、試験管の中で行われたものとはいえ、実験には、ヒトの皮膚の細胞を培養して利用しています。
ですから、実際に皮膚が傷ついた場合、ゴーヤの抽出物を塗布すれば、その効果は大いに期待できるといっていいでしょう。
こうした理由から、最初にもふれたとおり、東南アジアでゴーヤが傷口の治療に用いられていることにも、科学的な根拠があると考えられるわけです。
今後、さらに研究が進んでいけば、将来、ゴーヤの抽出成分から、皮膚の傷や潰瘍を治療する塗り薬などが開発できるのではないでしょうか。

解説者のプロフィール
元・岡山大学大学院医歯薬学総合研究科教授
合田榮一