解説者のプロフィール

永野剛造(ながの・ごうぞう)
●永野医院
東京都渋谷区幡ヶ谷2-6-5 梅村ビル 2F
TEL 03-5371-0386
http://nagano-hosp.com/
永野医院院長。日本自律神経病研究会理事長。1975年、慈恵会医科大学卒業。麻酔専門医として働いていた1989年、脱毛症の特別な針治療である閻(エン)三針に出合い、針(東洋医学)と皮膚科治療(西洋医学)を併用する「統合的医療」を目指し、永野医院を開設。波動療法や自律神経免疫療法で円形脱毛症、アトピー性皮膚炎などの難病治療を行う。
自律神経を整えることが根本治療
「発熱したら解熱剤を飲む」「下痢をしたら下痢止めを飲む」「血圧が高くなりすぎたら降圧剤を飲む」現代の一般的な医療では、こうしたことが当たり前のように行われています。しかし、これらは表面的な症状を取っているだけで、体を根本的に治しているとは言えません。
では、根本的なところから病気や症状を改善するには、どうすればよいのでしょうか。そのために、ぜひ持っておきたいのが、「自律神経を整える」という視点です。
自律神経とは、私たちの意志とは無関係に働き、内臓の働きや血流、体温など、生命維持に必要なあらゆる機能をコントロールしている神経です。
自律神経には、緊張時に働く交感神経(心拍数や血圧を上げるなど全身の活動力を高める神経)と、リラックス時に働く副交感神経の二つがあり、アクセルとブレーキのように拮抗して働き、バランスをとっているのです。
心身にストレスがかかると、交感神経の働きが高まります。交感神経の働きが過度に高まると、血管が収縮して血流が悪くなり、冷えや低体温が起こります。
すると、糖尿病、高血圧、痛風、動脈硬化、肩こり、便秘、下痢、その他の胃腸障害、肌荒れ、不眠症、脱毛症、むくみ、肥満、神経痛、うつ症状、呼吸器の不調など、さまざまな症状が起こるのです。低体温が続くとがんのリスクも高まります。
また、交感神経の働きが過度に高まると、免疫細胞の中の「顆粒球」が増えることがわかっています。顆粒球は、細菌などを破壊する強力な酵素(体内での化学反応を促進する物質)を持ち、本来は体を守るために働いています。
しかし、交感神経優位による自律神経のアンバランスで、顆粒球が増えすぎてしまうと、その人の体の弱い部分で自爆して悪さをするのです。たとえば、潰瘍性大腸炎(大腸の粘膜に潰瘍やただれができる病気)、十二指腸潰瘍、胃潰瘍、口内炎などの病気は、顆粒球によって発症や悪化が促されます。
一方、副交感神経の働きが高まりすぎると、アレルギーや自己免疫疾患(本来なら自分の体を守る免疫のしくみが異常に働き起こる病気)などが起こりやすくなります。
つまり、私たちの体に起こる多くの病気は、根底に自律神経のアンバランスがあるのです。

「爪もみ」は自律神経のバランスを整えるのに優れた効果がある
自律神経のバランスを取り戻すために、家庭で手軽にできて効果的なのが「爪もみ」療法です。
爪もみは、日本自律神経免疫治療研究会の初代理事長の故・福田稔医師の考案した「自律神経免疫治療」(刺絡療法)という専門治療を家庭療法に応用したものです。
手足の爪の生え際を手の指でもむだけの簡単な療法ですが、爪の生え際というのは、神経線維が密集していて、感受性が非常に強い場所で、ここをもむと刺激が瞬時に伝わり、交感神経と副交感神経のバランスの調整に役立ちます。
耳鳴りや難聴、耳管開放症にお悩みのかたは中指を、メニエール病にお悩みのかたは小指を特に刺激してください。
ただし、爪もみ療法を行うさいに、一つ注意が必要なのが、「手だけでなく足に対しても行う」ということです。
爪もみでは、爪の生え際の井穴というツボをもみます。井穴は東洋医学で、気が流れ出るとされるツボです。
東洋医学では、気は頭頂部から入って、ぐるぐる全身を巡り、最後は手足の先から出ていくとされます。その気の出口が手足の爪の生え際にある井穴なのです。
この気の流れが、実は西洋医学でいう自律神経の働きに相当します。要するに、気がスムーズに流れる状態とは、自律神経がバランスよく働いている状態ということです。
自律神経のバランスがくずれている人は、気の流れでいうと、井穴が詰まった状態になっています。その詰まりを除くのが爪もみです。
ところが、手の爪もみでその詰まりを除いても、足の爪もみを行わないと、そこでまた気が詰まり、流れが悪くなるということです。
その結果として、上半身は温まり、下半身が冷える「冷えのぼせ」が起こりやすくなります。自律神経のバランスを整えるために、手だけでなく、足の爪もみも必ず行いましょう。
足の指は手の指ほど手軽に行えないため、つい省略する人が多いようです。例えば日中は、靴や靴下をはいているので、足の爪もみは行いにくいでしょう。そこで、私は、トイレに行ったとき便座に座り、1〜2分だけ足の爪もみを行ってくださいと勧めています。特に足の冷えが強い人は、足の爪もみを念入りに行ってください。
このように工夫して、足の爪もみを行うと、前述した病気や症状を防いだり、軽減・解消したりできます。自分の健康を根本から守るために手だけでなく、ぜひ足の爪もみ療法をお役立てください。
「手」の爪もみのやり方

【刺激する場所】
両手の爪の生え際から、2mmほど指の付け根側を刺激する。
【やり方】
❶爪の生え際を、反対側の手の親指と人差し指で両側からつまみ、押しもみする。
❷両手の5本の指を、すべて10秒ずつ刺激する。特に、耳鳴り、難聴、耳管開放症の場合は中指を、メニエール病の場合は小指を20秒刺激するとよい。
※「少し痛いけれど気持ちのいい」程度の強さで行う。ギュッギュッっともんでも、ギューッと押し続けてもよい。
※1日3度までを目安に、毎日行う。

「足」の爪もみのやり方

【刺激する場所】
爪の生え際から、2mmほど指の付け根側を左右同時に刺激する。厳密な位置にこだわらなくてもよい。

【やり方】
❶足の爪の生え際を、右手の親指と人さし指で両側からつまみ、押しもみする。
❷両足の5本の指を10秒ずつ刺激する。自分が治したい病気・症状に対応する指は20秒ずつ刺激する。
※「少し痛いけれど気持ちのいい」程度の強さで行う。ギュッギュッっともんでも、ギューッと押し続けてもよい。
※1日3度までを目安に、毎日行う。

40年間毎日続いていた耳鳴りが激減
では、実際に、爪もみで症状が改善した例をご紹介します。
66歳の男性、Tさんのケースです。Tさんは、20代前半から耳鳴りに悩まされておりました。特に左耳の症状がひどく、365日24時間、「ジーン、ジーン」という耳鳴りが絶え間なく起こっていたようです。もちろん、耳鼻科にも通い、薬も処方されたようですが、ほとんど効果はなかったといいます。
40年ものほんとうに長い間、耳鳴りに悩まされていたTさんですが、数年前に爪もみを本で知りました。以降、Tさんは毎日、起床後と入浴中に爪もみを行うようにしたそうです。
すると、3ヵ月後には「ジーン、ジーン」という音が軽くなり、音の大きさが3分の1ぐらいにまで改善。おかげで、精神的にも楽になり、夜もぐっすり眠れるようになったと喜んでいました。Tさんの耳鳴りは、自律神経の失調による血流障害が原因だったのでしょう。
爪もみは、爪の生え際をもむだけなので、いつでもどこでも自分で簡単にできるのが特徴です。爪もみを毎日の習慣にすれば、自覚しにくいストレスを解消することができるでしょう。
なお、2012年の日本耳鼻咽候科学会では、金沢市立病院耳鼻咽候科の石川滋医師が、「耳管開放症患者の8割以上に爪もみが効いた」と発表されています。これからも、ますます注目されることでしょう。