解説者のプロフィール

幼稚園児たちがすぐに昼寝した!
今、日本人の約3割に、「よく眠れない」「寝つきが悪い」といった睡眠障害があるといわれています。高齢者になるとその割合はさらに増え、約半数にも及びます。整形外科医である私が睡眠の研究をするようになったのも、ひざや腰が悪いご高齢の患者さんから、睡眠の相談を受けることが多かったからです。
睡眠不足が続くと脳や体の疲れが取れず、翌日の活動性も著しく低下してしまいます。しかし、問題はそれだけではありません。睡眠不足は、生活習慣病にも深くかかわります。睡眠時間が短い人や、質のよい眠りを取れていない人は、生活習慣病になりやすく、かつ、悪化しやすいのです。
平均睡眠時間が5時間以下の人は、高血圧の危険性が高まるという欧米の調査があります。特に、47〜67歳の女性で睡眠時間が5時間以下の人は、7時間の人に比べて、高血圧の患者が1.7倍も多かったのです。
また、糖尿病や脂質異常症、肥満、うつなどの心の病気までも、睡眠時間が短いと発症率が高くなることがわかっています。ですから、適正な睡眠時間と睡眠の質を確保することは、健康を維持するうえで、非常に大切なのです。
こうした睡眠時間や質の向上にひと役買ってくれると期待されるのが、タマネギです。
ご存じのように、タマネギには、ツンと鼻をつく刺激臭があります。これは、ネギ類特有の硫化アリルという成分によるものです。
このにおいを上手に利用すると寝つきがよくなることが、私たちの実験でわかりました。
実験のきっかけは、西洋の民間療法でした。「眠れないときは枕元にタマネギを置くとよい」と耳にしたテレビ局の人から、ぜひ実証したいという申し出があり、検証したのです。
幼稚園児を二つのグループに分け、一つの部屋にはくし形に切ったタマネギを置き、もう一つの部屋には何も置かず、子供たちが昼寝をするかどうか観察しました。
すると、タマネギを置かなかった部屋の子供たちはなかなか寝なかったのに対し、タマネギを置いた部屋の子供たちは、すぐに眠ったのです。この結果に、園の先生たちもたいへん驚いていました。
この実験を2回、別の子供たちで行いましたが、2回とも同じ結果となりました。
スムーズに入眠できれば血圧も上がりにくくなる
幼い子供は、遊びに夢中になると、昼寝の時間になってもなかなか寝つかないものです。体は疲れ、ほんとうは眠たいのに、自律神経のうちの交感神経が優位になり、眠れなくなるのです。
自律神経は、私たちの意志とは無関係に働き、体調を整えている神経です。自律神経には、交感神経と副交感神経があり、互いにバランスを取り合いながら、生命活動に必要なあらゆる機能を調節しています。
タマネギのにおいで気持ちが落ち着くと、だんだん眠気を催してきます。これは、硫化アリルが、覚醒作用のある交感神経を抑え、リラックス作用のある副交感神経を優位にして眠りを誘うからです。
こうして寝つきがよくなると、冒頭で述べた生活習慣病にも、よい影響が出てきます。
例えば、血圧は、起床時から徐々に上がり、日中にピークを迎えます。その後、夜に向かって下がっていき、夜中は、日中よりも約2割程度、血圧が低くなります。
同じように自律神経も変動し、日中に高かった交感神経は夜になると下がり、かわりに副交感神経が優位になります。それによってスムーズに入眠でき、質のよい眠りが得られます。
ところが、夜になっても交感神経が優位なままだと、意識が覚醒してよく眠れず、血圧も下がりません。そして、そのまま朝を迎えると、血圧はさらに上昇してしまいます。
タマネギのにおいで副交感神経が優位になれば、入眠しやすくなります。夜間の血圧も下がるので、朝、過剰に血圧が上がることはありません。
糖尿病も、睡眠障害があると、糖を細胞に取り込むインスリンの抵抗性が強くなり、血糖値が上がりやすくなります。しかし、睡眠が改善すれば、インスリンの感受性がよくなり、血糖値が上がりにくくなるのです。
なお、硫化アリルのにおいは、強過ぎると逆に眠れなくなってしまいます。におうかにおわないか、わからないくらいの微香が効くようです。
においは、タマネギの表面積が多いほど強くなるので、くし形なら8分の1〜6分の1個、みじん切りならさらに少量でいいでしょう。自分に合う量を見つけてください。
寝つきが悪いかたは、生活習慣病予防のためにも、一度試してみてはいかがでしょうか。
タマネギを置いて寝ると睡眠の質がアップ

坪田聡(雨晴クリニック副院長)
●雨晴クリニック
http://www.meijukai.com/new/ama-cli-index.html