解説者のプロフィール
現代医学では治療困難な目の症状に鍼灸が有効
年を取れば、誰でも老眼になります。
目を酷使する人が増えたせいでしょうか、近年は30代前半で老眼になる人もめずらしくありません。
目をカメラに例えたとき、レンズの役目を果たす器官を水晶体といいます。
水晶体は、毛様体という筋肉の力によって厚みが変わり、ピントを調節しています。
近くを見るときは毛様体筋が緊張・収縮して水晶体が厚くなり、遠くを見るときは毛様体筋がゆるんで水晶体が薄くなるのです。
しかし、毛様体筋も加齢によって衰えます。
衰えて毛様体筋が収縮しづらくなると、近くに視線を向けても水晶体が厚くならないため、ピントが合いません。
この状態が老眼です。
眼科で目の疲労度を検査する装置を使うと、毛様体筋の収縮具合が測れます。
この装置で調べると、まだ老眼を実感していないという人でも、50代半ばを過ぎると近くを見たときに毛様体筋がうまく収縮していないことが確認できます。
老眼は、本人が自覚する前から進んでいるのです。
老眼をはじめとする目の病気や症状は、現在医学では治療が難しいものが少なくありません。
一方、鍼灸治療が目の病気や症状に対して一定の効果を上げることが、近年、わかってきました。
私自身も、653人の近視の患者を対象に、鍼灸治療の効果の調査を行ったことがあります。
その結果、全体の約7割に、平均で0.2〜0.3の視力向上を確認できました。
鍼灸は、自律神経のバランスを整えるといわれています。
同時に、脳を刺激し、エンドルフィンなどの脳内物質を分泌するという報告もあります。
エンドルフィンは、鎮痛やストレスの緩和、血行促進などの働きがある物質です。
鍼灸治療によって目の病気や症状が改善するのは、自律神経や血流の状態に、何らかの変化が生じるためでしょう。
光り輝くように見えるようになるツボ「光明」
老眼に対して鍼灸治療の現場でよく用いられるツボは、「光明」です。
刺激するとそれまで見えづらかったものが光り輝いて見えるようになるため、その名がついたといわれています。
光明は、足の胆経にあるツボで、古くから老眼や近視をはじめとする目の病気・症状全般によく用いられてきました。
ツボの大半は、全身をめぐる気の通り道である経絡の上にあります。
経絡はそれぞれ決まった臓器と関連を持っています。
光明のある胆経は、胆のうに関連する経絡です。
東洋医学では、目と関連が深い臓腑を肝臓としています。
胆のうと肝臓は、互いに助け合う臓腑です。
そのため、光明を刺激すると、胆のうと肝臓の働きがよくなり、目の調子がよくなると考えられているのです。
光明は、絡穴と呼ばれる、強い効果の期待できるツボでもあります。
絡穴への刺激は、慢性疾患に効果があるといわれています。
老眼や近眼の予防・改善にはうってつけのツボといえるでしょう。
35歳で老眼になった男性Sさんは、光明を中心とした鍼治療を定期的に続けた結果、老眼の進行がストップし、裸眼で新聞も読めるようになりました。
大人になってからでも視力が回復
私は、2年ほど前に近視の学生4名に対し、光明への鍼治療だけで視力がどれだけ回復するかを調べたことがあります。
週に一度、合計10回の光明への鍼治療の結果、いずれも視力の向上傾向を確認できました。
すると、ある20代男性Mさんは、右眼の視力0.02から0.1まで、左眼は0.05から0.3まで回復しました。
光明のツボの位置は、両足の外くるぶしの頂点に手を置き、指幅7本分上の位置にあります。
もしくは、外くるぶしに手の指の腹を当てて、そのまま足の骨の後ろ側のきわに沿ってなぞり上げたときに、自然と指が止まる位置が光明です。
へこんでいる、ぶよぶよしている、コリコリしている、湿っている、冷たい、温かいなど、何らかの反応がある場所です。
ツボの大きさは、500円玉大といわれています。
この大きさを目安に、押して反応のある場所を刺激します。
光明への指圧は、手の親指の腹を当てて、皮膚がややひずむ程度の軽い力加減で、円を描くようにしながら垂直方向へ力を加えてください。
3〜5回の指圧を1セットとし、左右交互に3〜5セット行います。
入浴後など1日数回、指圧してください。
あまり強く指圧すると、あざになることもあるため注意しましょう。
目の健康維持のために、光明への指圧をお試しください。
光明のツボの探し方

大山 良樹
帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科准教授。目の病気に対する鍼灸の臨床研究や、学童期の近視に対する鍼治療効果に関する研究、鍼通電刺激が瞳孔の自律神経機能に及ぼす影響に関する研究
を精力的に行っている。