便秘ばかりか糖尿病、高血圧、認知症まで招く「腸内フローラの乱れ」

便秘ばかりか糖尿病、高血圧、認知症まで招く「腸内フローラの乱れ」

「腸内細菌」が、多くの病気や老化のカギを握るキーワードとして、今注目されています。【解説】辨野義己(国立研究開発法人理化学研究所特別招聘研究員・農学博士)


60歳以降の3割に ビフィズス菌がいない

「腸内細菌」が、多くの病気や老化のカギを握るキーワードとして、今注目されています。
 腸内細菌は、腸の中で1000種類以上、600~1000兆個以上もの細菌が肩を寄せ合うように群生し、お花畑のような生態系を形成しているため、「腸内フローラ(腸内細菌叢)」とも呼ばれます。
 腸内フローラは、新生児が母親の体内から出てきた瞬間に発生します。子宮内はほぼ無菌状態ですが、産道を通過するとき、母親の膣内にいる細菌を飲み込むことで皮膚や消化管などの粘膜に細菌感染が起こり、体内を占拠するのです。
 腸内細菌は、この世に生まれ落ちるときに、母からの最初のプレゼントといえるでしょう。
 赤ちゃんの腸内は、生まれて3~4時間後には早くも「悪玉菌」である大腸菌や腸球菌などが現れます。生後3日を過ぎた頃からビフィズス菌が増え、母乳で育つ乳児の腸は、「善玉菌」の代表であるビフィズス菌で100%近く占めるようになるのです。そのため、便もくさくなく、ヨーグルトのような甘酸っぱいにおいです。
 そして離乳とともに、徐々に善玉菌が減って20%程度になり、種類も変わります。悪玉菌や「日和見菌」(場合によって善玉菌にも悪玉菌にもなる可能性がある菌)の割合が増え、その人が持つ腸内細菌の種類がだいたい決まるのです。
 個人差はありますが、善玉菌、悪玉菌、日和見菌の割合が、2対1対7であるのが、健康にいい状態とされています。
 ところが、60歳を過ぎると、この割合が大きく変化します。善玉菌の代表であるビフィズス菌が急激に減り、悪玉菌が増えてくるのです。10人に3人の割合で、ビフィズス菌の減少が著しい人も出てきます。
 老化に伴い腸の機能が低下し、食物が腸内に長くとどまることが原因です。腸内で腐敗が進行するため、悪玉菌にとって都合のいい環境になるのです。

腸内フローラは 便に現れる

 自分の腸内フローラの状態を判断するためには、便のチェックが欠かせません。便こそが腸内フローラの現れであり、健康状態をそのまま現しているからです。
 私は、40年以上もヒトの腸内細菌を研究し、8000人以上から大便を提供してもらって腸内細菌を調べてきました。その私がよく言うのですが、「便所は、体からのお便りを受け取る所」です。便を見ないで流してしまうのは、もったいないといえるでしょう。
 食べカスが大腸に達すると、腸内フローラのバランスがよければ発酵が起こり、悪ければ腐敗が起こります。悪玉菌が優勢で腐敗が進んでいると、便の色は濃くなり、硬くなったり、水っぽくなったりします。そもそも、便秘になったりするのも、腸内フローラが乱れているからです。
 それでは、具体的に快便とは、どんな状態をは指すのでしょうか。
 毎日1回以上のお通じがあり、便はバナナ便であること。バナナ大で、色は黄色から黄褐色、においはきつくなく、便器の中で水に浮く便がスルッと出るのが快便です。
 先に、60歳を過ぎると、老化に伴い腸内フローラが急速に乱れると書きました。しかし、腸内フローラを適切に保つことを意識した生活を続けていれば、60歳を過ぎてもよい状態を保つことは可能です。
 腸内フローラが適切に保たれていれば、肌がきれいで見た目も若く、体力や気持ちに衰えが見られません。病気を寄せ付けないのです。
 そんな例とは逆に、腸内フローラが乱れると、以前は想像もつかなかった数多くの病気を呼び込むことが、近年、わかってきました。

腸内細菌が健康になれば 全身が健康になる

 腸内フローラの乱れは、便秘や肥満ばかりではなく、動脈硬化や糖尿病、高血圧といった生活習慣病、ガン、認知症、アレルギー性疾患、関節リウマチなどの自己免疫疾患など、実に多くの病気を引き寄せます。
 腸内フローラがすむ大腸は、最も病気の種類が多い臓器です。大腸ガンや潰瘍性大腸炎(大腸の粘膜に腫瘍やただれができる病気)をはじめ、さまざまな病気が起こります。これらの病気の発生に、悪玉菌が作り出す有害物質が関わっています。
 悪玉菌が増殖すると、アンモニアや硫化水素、メタンなどの多くの腐敗物質が作り出されます。これらが腸壁から吸収され、血流に乗って全身を巡ることになります。
 その結果、先に挙げたようなさまざまな病気を引き起こすリスクを高めるのです。放っておけば悪玉菌が増加する60歳以降は、当然、発症のリスクもより高くなくなります。
 近年、大腸ガンの患者さんが激増していますが、これは食生活の欧風化や食物繊維の摂取量の減少などによる腸内フローラの乱れが関係しています。
 つまり、腸内フローラを改善させることによって、肥満やガンなどの症状や病気を予防することも可能なのです。
 そもそも、細菌やウイルス、ガン細胞なその病原体を攻撃する免疫細胞は、6割以上が腸に集中しています。ですから、腸内フローラの改善は、免疫細胞の活性化につながるのです。
 つまり、悪玉菌が減り、善玉菌が優位になれば、免疫力が調整されて正常になり、感染症やガンはもちろん、各種の病気にかかりにくくなるのです。

糖尿病や認知症予防にも 腸内細菌の改善が大事

 2013年、世界的に権威のある学術雑誌『ネイチャー』に、スウェーデンのヨーテボリ大学の研究が掲載されました。
 平均年齢70歳の女性145名の腸内フローラを調べたところ、Ⅱ型糖尿病(遺伝的因子と生活習慣で起こる糖尿病)の女性では、糖と脂肪の代謝で重要な役割を果たす酪酸の産生を促す腸内細菌の数が、健康な女性に比べて減少していたのです。
 また、近年、糖尿病の治療に広く用いられているインクレチン関連薬は、腸の働きを手助けする薬です。インクレチンは血糖値をコントロールするため、腸から分泌されるホルモンですが、この分泌にも腸内細菌が関わっていると見られています。
 こうした研究や治療からも、腸内フローラを整えることが糖尿病の予防につながることが示唆されます。
 さらに、腸内フローラの改善は、認知症予防にも役立ちます。脳の機能障害や認知症の発症にも、腸内細菌の働きが関わっているのです。
 脳内の情報伝達を担う重要な神経伝達物質として、ドーパミンやセロトニン、アセチルコリンなどがありますが、これらを作り出すのに基礎となる物質が腸内細菌によって作られているからです。
 腸内フローラを健全化し、これら神経伝達物質の産生が適正に保たれれば、それが認知症などの予防に貢献するでしょう。
 さらに肥満も解消して外見も若返り、思考力も深まります。
 次回は、私自身が14㎏やせて、10歳若返ったお話を紹介します。
 腸内フローラは、生活習慣を見直せば、何歳からでも若返ることができるのです。

辨野義己
1948年、大阪府生まれ。酪農学園大学獣医学科卒業。専門は、腸内環境学、微生物分類学。腸内細菌と病気の関係を研究し、DNA解析により多数の腸内細菌を発見。ビフィズス菌、乳酸菌の健康効果を訴えている。『腸を鍛えれば頭がよくなる』『体が勝手にやせる食べ方』(ともにマキノ出版)など著書多数。

これらの記事は、マキノ出版が発行する『壮快』『安心』『ゆほびか』および関連ムックをもとに掲載しています。記事内の年月日および年齢は、原則として掲載当時のものです。

これらの記事にある情報は、効能や効果を保証するものではありません。専門家による監修のもと、安全性には十分に配慮していますが、万が一体調に合わないと感じた場合は、すぐに中止してください。

この健康情報のエディター

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